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8 金とエネルギー

 リヒメとすれ違わない家の廊下。

 もう寝たのか?

 まぁ、あれだけ穢れをまとえば、そうなるか。


 深海に沈んだように、静かな家だ。

 リヒメが来なければ、俺はここでドブみたいな空気を吸って、金を集めてたんだろうな。


 風呂から上がって、部屋の扉を開けた。

「おぉ、タケル。戻ったか」

「っと・・・・・」

 神を名乗る猿がベッドにいる。

 完全に存在を忘れてた。


 正直、邪の方が見慣れてるんだよな。 


 俺は床で寝る感じか。

「お前ら夫婦なのに一緒に寝てないのか。まぁ、そのくらいの歳ならまだ早いな。ははははは、九頭龍の兄たちが許さないだろう」

「・・・・・・・・・・・・・」

 俺は別に早いとは思ってないんだけど。


「猿田彦さんの巫女はどこにいるんですか?」

「ふむ。僕にも巫女はいるけど、巫女と結婚するのは九頭龍一族特有だね」

「ですよね」

「人身供養の名残・・・って、今何時だ!?」


「1時過ぎですよ。俺、明日学校なんで電気消して、寝ますから」


 ザザッ


「あの・・・寝たいんですけど・・・・」

 猿田彦さんが俺を無視して、テレビの前に座っていた。


「妻がテレビに出てるはずだ。つけてくれないか?」

「テレビ・・・って・・・妻?」

 リモコンを取って、テレビに向ける。


 まさか・・・。 


「おぉ! 彼女だ、彼女!」

「雨宮ウズメさんですか?」


『ダンスの基本は体幹を鍛えることですよ。そうすると、こうゆう動きもできるようになるんです』

『おぉー』

『かっこいい』


『ありがとうございます。ふふ、私がこうやって頑張れるのは、ファンの皆さんの応援のおかげです。じゃなきゃ途中で挫折しちゃいます』


『だそうです。ファンの皆さん』

『いいな、私もファンになろうかな』

 雨宮ウズメは、ピンで活動中のアイドルだ。

 黒髪に大きな瞳、容姿が美しいだけじゃなく、歌もうまい。

 ダンスの実力も世界が注目するレベルで、何らかの大会でも成績を残していた。


「美しいな。画面越しでも美しい」

 今はアイドル活動に集中したいと話していたが、演技力もあるため、ハリウッドデビューの話も出ているらしい。

 1000年に1度の逸材と言われていた。


『さすがですね。雨宮さん』

『ありがとうございます。こうやって、日々鍛えてるのでツアーも完走できるんです。チケット販売は明日から・・・・』


「・・・推しじゃないんですか?」

「推し? 妻だよ」

「確かに・・・・貴方が猿田彦さんなら、やっぱりウズメさんが妻ですよね。ファンは発狂するだろうな・・・・」

 噂の一つも立たない徹底的なアイドルだ。

 あまりの変わりように、神だって気づかなかったな。



「僕は、そうゆうのは心得ている。だから、ちゃんと応援するときは画面で見るんだ」

「あ、そうですか・・・」

 深呼吸して、一息つく。


「じゃあ、俺は寝るので・・・」

「で? リヒメが君を置いてく理由を聞かないのかい?」

「え?」


「九頭龍一族は巫女と神が一緒に動くのが基本だ。穢れのことがあるからね」

「俺は直接聞いてないんで」

「ほぉ・・・」

「金が必要で巫女になっただけです。巫女っていうか、婿か」

 床に座り直して、壁に寄りかかる。

 

「ふむ・・・・」

「金の分は働く。でも、それ以外は関わらない」


「君は平安時代に活躍した陰陽師の血筋だね? 阿仁三家か。平家の没落とともに名は消滅してるが・・・・君からは龍神であるリヒメ以上の霊力を感じる」

「・・・・・・・・」


「探りはしないが・・・ね」

「そうですか」

 腕を組んで、天井を見つめる。


「確か、阿仁三は幼少期は陰陽師として名を上げていただろう? 辞めたのか?」

「知ってたんですね」


「僕は道開きの神だからね。九頭龍一族はまだ知らないだろう。大国主命はそうゆうのは言わない」

 猿田彦さんが麦茶を飲みながら言う。


「じゃあ、話が早いですね。俺は穢れも悪鬼もよく知ってます。どちらにでもつける。でも、便利屋のようなことはしたくない。穢れは自己責任だろうが。俺は神ではないし別に赤の他人がどうなろうとどうでもいいんですよ」

「リヒメを助けないのか?」

「リヒメが助けを求めれば助けるつもりです。金をもらってるんで。でも、何も言わないなら何もしない」

 リヒメの神楽鈴と水晶を見つめながら言う。

 

 金はエネルギーの対価だ。

 偽善で力を使うほど、俺はお人よしじゃない。


  

「では、僕が金を出そう」

「え!? い、いくら?」

「50万」

「50万!?」


 猿田彦さんがぽんと札束を出した。


「・・・・・」

 眩しい。

 約半年分の家賃が輝いている。


「でも、猿田彦さん無職でしょ? どうしてこんな大金が・・・」

「妻からお小遣いをもらっている」

「小遣い制なんですか?」

「ほしいときに、ほしいだけもらえる」

「・・・・・・」

 そりゃ、働かなくてもいいよな。


 札束に手を伸ばして、枚数を数える。

 1万が50枚・・・確かに50枚ある・・・。


「これで、僕の依頼を聞いてもらえるな?」

「了解です。じゃあ、依頼はなんですか?」

「明日の21時、リヒメはまた新宿に行くはずだ。僕の勘でいえば、悪鬼は邪神によって集められている。リュウサブロウ、リュシロウ、リュウゴロウあたりが対応してるんだろう。九頭龍には役目があり、悪鬼を倒すのはリヒメ含めた4柱が対応する。九頭龍の中では、一番強いからな」

「ふうん」

 九頭龍は全員が穢れれば、浄化が間に合わなければ黒龍になる。

 穢れの多い、今の時代に合わせて、力を分散させていた。


 猿田彦さんがここまでするとは・・・。


 リヒメたちは相当危ない状況だな。



「依頼は、リヒメを救い、邪神を祓うこと」

「了解です。じゃ、俺、もう寝るんで」

 リヒメの神具をポケットに入れた。


「ん? 詳しくは聞かないのか?」

「行けばわかります。俺は名を馳せた陰陽師です。どんな敵であろうと、負けることはない」

「それもそうか」

 空いたベッドにすかさず潜り込む。

 猿田彦さんが、雨宮ウズメさんに夢中になって、体が自然と動いているのが見えた。

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