表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/57

7 道開きの神

 あれから一週間、学校に穢れというものは現れていない。

 リヒメに警戒してか、もしくは・・・。


「ふぅ・・・ただいま」

「おかえり」

「体についた穢れを祓ってくるね」

 リヒメは21時になったらどこかに行き、0時過ぎに帰ってくる。

 手には龍の鱗が微かに見えた。


「・・・・・・・・・」

 俺には何も言わなかった。

 朝から登校し、学校で普通通り過ごしている。


 触れたくないなら、仕方ないけどな。

 どうせ、契約で成り立つ関係だ。

 呼ばれれば行くが、別に自ら行くつもりはない。



「・・・・・・」

「九頭龍一族は、邪神を探っておる。ゆえに穢れも多い。特に、危険なのは東京だ。神々への信仰心が薄らいだ結果、人々は穢れを溜めて、祓うすべさえ失ってしまった。邪神にとっては100年に一度あるかないかのチャンスだ」

「まぁ、それはいいんですけど・・・・」

「何か質問でもあるかな? 気軽に聞いてよいぞ」

「ここ、俺の部屋です」

 ベットで寝転がりながらスマホを見ていると、いきなり猿と人間のような者が現れた。

 猿田彦命・・・古事記、日本書紀に表記される神だ。


 俺には全く縁のない神なんだけどな。


「なるほどなるほど。僕は猿田彦、道開きの神だ」

「知ってますって。つか会話が嚙み合ってないような・・・・」


「大国さんに聞いて来てみたんだよ。九頭龍一族は少々説明が足りない部分があってね。この道開きの神、猿田彦、人間に寄り添うことには自信がある」

「・・・そうですか・・・・」

 俺のプライバシーは完全に失われたらしい。


 位の高い神とはいえ、猿まで来てしまった。

 あまり大きな動きは見せたくないんだけどな。



「何か疑ってるのか? 僕は古事記や日本書紀の天孫降臨・・・・」

「とりあえず、麦茶とか飲みますか?」

「もらおう」

「わかりました」

 冷蔵庫を開ける。


 リヒメが来てから冷蔵庫がかなり潤っていた。

 卵も野菜も肉もある。こんな冷蔵庫を見るのは初めてかもしれないな。


 やっぱり、金だな。


「ん? どうした?」

「猿田彦さんは普段、何をされてるんですか?」

「道開き」

「・・・・大国主のおじさんみたいに人間界の職業はないんですか?」

 麦茶をテーブルに置く。


「ふむ・・・職業か・・・人間の、職業。道開き・・・交通整理とかどうだ?」

「求職中なんですか?」

「ふむ・・・・」

 猿田彦さんは他の神々に比べて、変わった身なりをしている。

 普通の就職に就けなそうだ。


 そもそも神は就職する必要ないか。

 金がなくてもいいしな。


「探してみよう。道開きの神であるからには職を持つことも・・・」

「?」

 猿田彦さんが急に立ち上がって、窓の外を見つめた。

 ざっと、風が吹き込んだ。


「タケル、リヒメを呼べ」

「ん? あ、ちょっと」

 猿田彦さんが窓から飛び降りて、一瞬で戻ってきた。



 ザンッ


「!?」

 ぐったりとした女性を抱えている。

 腕にリヒメと同じような鱗が見えた。龍なのか?


 いや、龍神じゃない。巫女だ。


「・・・かなり奥までいったな・・・」

「穢れ祓い清めよ」


 シャン


 猿田彦さんが錫杖を取り出して、地面を叩いた。

 金色に輝き、女性の体から黒い何かが抜けていく。


「早く!」

「あぁ、呼んで・・・」

 慌ててドアを開けると、リヒメが廊下に立っていた。


「リヒメ・・・・・・」

「カナエ義姉さん!」


「っと・・・」

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「え・・えぇ・・・」

 リヒメがぶつかりそうになりながら、駆け寄っていった。



「猿田彦様。これは・・・」

「九頭龍一族、お前らは何をしている?」

「っ・・・・」

 猿田彦さんがにらみつけると、リヒメが唇をかんだ。


「この穢れはただの穢れじゃないのだろう。このままじゃ黒龍になるぞ。災害を起こす気か?」

「そんなわけ・・・」

「猿田彦さん、申し訳ございません。全て、私の夫、リュシロウが始めたこと」

 カナエが体を起こして、軽く咳き込んだ。


「新宿に悪鬼が集まってる。祓わなければ、多くの災いを呼んでしまう」

「新宿の悪鬼など、九頭龍一族の手には負えないだろ。僕だって声をかけられれば行ける。素戔嗚だって、Youtuberをやってる、日本武尊だって興味を示すんじゃないのか? あいつは特に、人間の興味を惹く企画を探してるようだしな」

「・・・・・・・・」

 日本武尊は確かに目立つ場所ほど、燃えるタイプだ。

 Youtubeを見てる限りな。



「各地にお社を持つ神々が穢れてはいけない。猿田彦様、そのために九頭龍一族がいます」

「リヒメ・・・」

「我々は強いんです。安心してください」

 リヒメが鋭い目つきで、前を見据えていた。


「カナエ義姉さん、私の部屋で休んで行って。ゆっくり休んで明日に備えましょう。悪鬼が集まる21時から・・・リュシロウ兄さんは、リュウジ兄さんたちが穢れを祓ってると思うから心配しないで」

「はい」

「おやすみなさい、タケル。明日も一緒に学校に行こうね」

「・・・あぁ」

 リヒメがこちらを見てほほ笑んだ。


 バタン


 あくまでも俺は呼ばないつもりか。


 別に、ただで厄介ごとに首を突っ込むつもりはない。

 金が発生したら別だけどな。


「では、僕もここへ泊っていこう」

「は!? ちょっ・・・」

「ここを借りるぞ。うん、いいベッドだ」

 猿田彦さんが錫杖を置いて、俺のベッドで寝ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ