6 浄化
リヒメを保健室に寝かせて、リュウイチと大国主のおじさんと話していた。
「最近、悪鬼が勢力を高めてきている。彼らをコントロールしているのは邪神だ。まぁ、今回はリヒメが悪鬼を倒したから問題ない」
「そうですか」
いや、悪鬼はまだその辺にくすぶっている。
この土地は穢れも多い。そう簡単には、浄化しないはずだ。
悪鬼は俺に警戒して、様子見しているのだろう。
邪神がいないのは確かだけどな。
どちらにしろ、金にならないなら、関わるつもりもない。
「今はそこまで考えなくていい。はい、リヒメの神具」
「あ、はい」
「使い方はさっきみたいに使うんだ。神楽鈴は巫女の神具。九頭龍一族には錫杖もあるんだけど・・・今はまだいいと思うよ」
水晶と神楽鈴を渡してきた。
紫の布に包まれていて、リヒメの穢れをゆっくりと浄化している。
この分だと、完全に浄化するには、まだかかるだろうな。
「あ・・・・・」
リヒメが保健室のベッドからゆっくり体を起こす。
鱗は消えて、すっかり元の体に戻っていた。
「タケル、急にごめんね。説明すると・・・あ、兄さん・・・」
「タケルくんには説明したから大丈夫だ。それにしても、さすがリヒメだよ。こんなにいた悪鬼を一人で消滅させるなんで」
「へへへ、だって、私だって九頭龍一族だもの。あ、大国主のおじさんも・・・」
「リヒメ、見事な舞だった。腕を上げたな」
「ありがとうございます。ふぅ、悪鬼を倒せてよかった。もっとスムーズにできるように頑張らなきゃ」
リヒメが嬉しそうに笑っていた。
「・・・・・・・・・・」
まぁ、いいけどな。
つか、リュウイチは、いつからこの学校の先生になったんだよ。
神々は相変わらず好き放題だな。
「あ、教室戻らなきゃ」
「そこのところは俺がうまくやっておくよ。リヒメは大分力を使ったし、今日は家に帰ってよく休みなさい」
「俺は午後から授業が・・・・」
「タケルくんも体調不良って伝えて、早退にしておくよ。リヒメをよろしくね」
「・・・・わかりました」
リュウイチにぽんと肩をたたかれた。
家に帰ると、どっと疲れが出た。
ソファーに座って、ぼうっとスマホでYoutubeを眺める。
穢れだとか、悪鬼だとか、九頭龍だとか、邪神だとか・・・あえて神に説明されるとは。
ぶっちゃけ、金が入らないなら、興味ないし、首を突っ込むつもりはない。
リヒメのことは契約だから、勤めは果たすけどな。
「ねぇ、何見てるの?」
「Youtubeだよ。こうゆう企画もののくだらないYoutube見てると安らぐんだよな。実写版の漫画見てるみたいでさ。登録者1000万人もいるのに、体張った企画ばっかやって・・・って言ってもわからないか。人間はこうゆうの見てるんだよ」
「あー、日本武尊さんのチャンネルね。彼、見た目重視のタイプだからお社も派手だもんね」
「ん?」
リヒメが後ろからのぞき込んでくる。
「大丈夫。これでも私たち、人間のことはよく知ってる。人間を守るため現代のニーズに合わせて変化・・・」
「いや、ちょっと待ってくれ。日本武尊さんのチャンネルってどうゆうこと? Youtuberまで神が入ってるってこと?」
「うん、もちろん! ほら、ここ、『神社でパワーアップできるのか?』って企画やってるでしょ。こうやってちょっとずつ、自分のお社を宣伝してる」
「マジか・・・PRと言われれば、そう見えるな」
「でしょ?」
天下一の白鳥というチャンネルで4人グループでやっている、永遠の学生をテーマにしたYoutuberだった。
川からとってきた謎の魚を調理したり、翼を作ってみたり、海をいかだで渡ってみて遭難しそうになったり、正直ぶっ飛んでいる。
10代が選ぶ憧れのYoutuberは堂々の一位だ。
でも、しょっちゅう炎上していた。
神だったのか。
目を細めて、画面を見つめる。
言われてみれば、それに近い波動だな。
「へぇ・・・」
「ほら、神ってるってコメントもある。この人鋭いね」
「神じゃなくてもそうゆうコメントはするんだよ」
スマホを消して立ち上がる。
あまり深入りはしないようにしておこう。
なんか、神って言われると急に見る気失せる。
「そうだ。昨日はソファーで寝かせちゃって悪かったな。母親・・・まぁ、あの部屋は汚いからさ。俺の部屋で寝たらいい。俺はここで寝るから。ちょっと掃除してくるよ」
「うん! 私も行く」
リヒメが体を弾ませてついてきた。
「もう体は大丈夫なのか?」
「うん! あの悪鬼は弱いし、全然傷もないから大丈夫!」
「そうか・・・」
リヒメは九頭龍一族の中では弱いほうだろう。
穢れを溜めやすい性質があるし、霊力がな・・・。
ガラ・・・
「!?」
俺の部屋が磨かれていて、巨大な神棚があった。
本棚には龍伝説にまつわる、本や漫画が並んでいる。
見間違いじゃなければ、棚の下には龍が出てくるゲームとかもあった。
「・・・・・・・・・・」
しばらく固まって動けなかった。
九頭龍って・・・・ここまでするか?
別に、何もない部屋だったからいいけどさ。
机や棚も高価なものに変わってるし。
「ここはタケルの部屋でしょ。私はそっちの部屋を借りるね」
「えっ、じゃあ・・・」
母親の部屋を開ける。
「・・・・・・・・・」
窓際には龍の置物が置かれ、大きな天然石のようなものがあった。
端の方には岩があり、水がちょろちょろ流れている。
それ以外は、白い壁紙にふかふかのピンクのベッド。
レースまでついていた。
なんだ?
このアンバランスな造りの部屋は・・・。
「あ、お部屋はリュウイチ兄さんたちが用意してくれたの。しばらくは2人で寝ないようにって、この部屋は私好みの部屋。綺麗でしょ」
リヒメがウキウキしながらソファーに座っていた。
「・・・よかったな」
「お義母さんはしばらく帰ってこないから安心して。大国主のおじさんがアメリカ人との縁を結んで、アメリカに飛んでもらったから」
「アメリカ?」
「突然帰ってこられても説明が難しいし。だって、私とタケル君は結婚して、タケルは私の巫女になったんだから一緒に住まないと。あ、でも、タケルがお義母さん恋しくなったらいつでも戻ってきてもらうよ」
「いや、それは無いけどさ」
「じゃあ、しばらく2人きりの生活だね」
リヒメがにこにこしながら話していた。
「!!」
まさか、国際ロマンス詐欺じゃないだろうな。
これ以上、金のかかることはごめんだ。
「タケルも神楽鈴で身を清めておいてね。神道の基本は掃除だから、怠るとすぐに穢れちゃうの。私が穢れれば巫女も穢れる、巫女が穢れれば私も穢れる」
「・・・・・・・・」
「お互い頑張ろうね」
「・・・そうだな」
自分の部屋に戻る。
適当に相槌を打って、スマホを眺めていた。
「ねぇ、タケルー」
「ん?」
リヒメが自分の部屋から話しかけてくる。
「明日の朝ごはん何にしようかな。タケル、嫌いなものある?」
「ミニトマト」
「じゃあ、ミニトマトは使わないね。お味噌汁と・・・うーん、炊き込みご飯が食べたいな。準備だけしておこうっと」
リヒメが隣の部屋から出ていったのを見計らって、筆を出した。
空中に浄化の文字を書く。
体から、不要な穢れが抜けていった。
「・・・・・・・・」
神楽鈴が紫色の布に包まれたまま置いてあった。