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53 『侏儒の遊び』 ~渋谷編⑦

「あとは武御雷神たちが何とかするだろう。ただでさえ、大渦津日神の荒行に怒り狂ってるからな」

 猿田彦さんが空を眺めながら言った。


「ねぇねぇ、『うけい』って何?」

 ユウビが狐の面を抑えて、こちらに近づいてくる。


「ん? タケル、この子は?」

「ユウビだ。最初の戦闘で会ったんだが、まぁ、色々あって今は協力関係にある」

「なんだか不思議な子・・・あ、『うけい』ね」

 リヒメがほんの少し龍の鱗のようになっていた腕を戻していた。


「『うけい』は高天原で行われる吉凶を判断する方法。神々が集い、天照大神の前で行う。『うけい』が行われたのは久しぶりだったけどね。九頭龍からはリュウイチ兄さんが行ったよ」

「へぇ・・・」

 ユウビが興味深そうに頷いた。


「タケル、知ってた?」

「まぁ、陰陽師は関係ないけどな。耳にしたことはある程度だ」

「へぇ、さすがだね」

 筆で浄化の文字を書いて、数珠の穢れを払いながら言う。 


「全く高天原の神がここまで堕ちるとは、大国主命もだいぶ落ち込んでるよ」

 猿田彦さんが錫杖を鳴らして飛んできた。


「あ、猿のおじさんも、何かの神?」

 ユウビが首をかしげる。

 猿田彦さんは神だとわからなければ、猿のおじさんに見えるよな。


「さ・・・猿のおじさん・・・」

「なんかググってもよくわからなくて。天狗? じゃないよね。おじさんは」

「おじさん・・・」

 猿田彦さんが瞬きをした。


「サルタヒコノカミ、道開きの神だ。『日本書紀』にはニニギノミコトを高千穂へと導いた神とある」

「そうなんだ」

「猿のおじさん・・・」

 猿田彦さんは『おじさん』という言葉にショックを受けているようだった。

 

「あ・・・え・・・あの・・」

 美玖が眼鏡を上げて、声を絞りだすように言う。


「君の陰陽道はここまでだ。式神3体いなくなっただろ?」

 猿田彦さんが美玖に近づく。


「このくだらないゲームから抜けられてよかったよ。タケル君がいる世界は、そんなに甘くない。命は尊いもの、無駄にはしないほうがいい」

「でも・・・」

「とりあえず、命が奪われなくてよかったな。帰り道死にたいとか口にするなよ。その辺の悪鬼邪神が群がってくるからな」

「・・・私・・死にたいのに・・・」

 美玖が俯いて、小さくつぶやいた。


「ねぇねぇ」

「え?」

「自己紹介がまだだったかな? って思って。私はタケルの婚約者のリヒメ。九頭龍の末の妹だから。タケルの婚約者だからね!」

 リヒメが前に出て、大きな瞳で美玖の顔を覗き込む。


「え・・・九頭龍の・・・婚約者? その年齢で?」

「そう、婚約者。よろしくね。タケルがお世話になったみたいで、ありがとう。仲良くしようね」

「俺は別に世話になってないって」

「タケルはすぐ女の子と仲良くするから」

「たまたまだ」


「えっと・・・・」

 リヒメが強引に美玖の手を掴んでいた。

 美玖がリヒメの勢いに押されてたじろいでいる。


「タケル様」

 朱雀が着物の裾を後ろにやって、飛んできた。


「どうした?」

「白虎がさっき敵からの攻撃を受けたときに毒を受けました」

「朱雀!」

 白虎が毛を逆立てる。


「これくらいなんてことない。回復した!」

「嘘よ。一時的に浄化してるけど、まだ穢れがこびりついてる。このまま居ても今みたいな敵には勝てない。タケル様は強いけど、何が起こるかわからないんだから」

「悪い。気づかなかった」


「・・・・・・」

 白虎に近づいて傷口をよく見る。

 確かに言われてみれば、白い毛に微かに穢れが残って、皮膚の治りが遅い。

 休む必要がありそうだな。


「わかった。白虎、ありがとな。ここまでで十分だ」

「申し訳ございません」

「いや、堕ち神相手によくやってくれたよ。ゆっくり休んで浄化してくれ」

「はい」

 筆で陣を描いた。

 白虎が中に入っていく。


「朱雀、青龍、タケル様のことを頼んだぞ」

「もちろん」

「任せろ」

 朱雀と青龍がいうと、渋々頭を下げた。

 

 シュンッ


 白虎が消えていった。


「代わりに呼ぶのは玄武でしょうか」

「そうだな。あいつもそろそろ出たいだろ。確か、式神を交代するには、ゆかりのある神社に行く必要があるってルールだったな。つか、ゆかりのある神社ってなんだよ」

「タケル様の場合は、秋葉原のほうにある神田明神ですね。平将門公が祀られていますので」

 朱雀がきっぱりと言う。


 平将門といわれてもピンとこないし、あまり行ったことのない場所なんだけどな。


「平将門公、じゃあ、やっぱりタケルは・・・」

「今更ですか? 婚約者というので、何でも知ってると思ったのですが?」

「フン、私はタケルが何者であろうと関係ないもん。大事なお婿さんだもん」

「どうかわかりませんけどね」


「リヒメ、朱雀、ピリピリするなって」

 頭を搔く。リヒメと朱雀は相性が悪い。

 周囲に敵もいないのに殺気立っていた。


 ジジジジ・・・


 シュンッ


『神々の介入はルール違反です』

 おかっぱの少女の式神が現れて、目の前に立った。

 白い着物の裾から巻物を出す。


「ルール違反って」

『ルール違反により、阿仁三タケルは失・・・』

「待って待って待って」

 リヒメがふわっと飛んで、式神に近づいていく。


「沼ノ姫は陰陽師が使役できる神じゃなくなった! 高天原の神になってたでしょ? ちゃんと確認して」

『・・・・・・・』

 おかっぱの少女が巻物を眺めていた。

 覗いてみると、紙には俺たちの戦闘の様子と猿田彦さんが現れたタイミングの絵がアニメーションのように流れていった。


 録画判定って感じだ。

 式神の世界もずいぶん近未来的になったな。


 まぁ、常に監視されているということか。


『・・・確かに。式神との縁が切れてる・・・この時点で、彼女は式神がなくなってることになって・・・ということは、式神じゃなく神で・・・』

 おかっぱの少女がぶつぶつ言いながら、巻物を巻きなおしていた。

 積み上げられた瓦礫が崩れて、小さく砂埃を立てる。


『失礼しました。判定の結果、神々の介入はなし。神々同士の争いとみなしました。美玖のポイントは消去とします』

「だよね。今のは神々の争いで、陰陽師は関係ないから」

 リヒメが言いながらほっと胸をなでおろしていた。


『判定は終わりました。私がここですることはありません。では、これで失礼しま・・・』

「お前、誰の式神だ?」

 式神の少女を引き留める。

 瞳は深い藍色、よくあるAIで描かれたような容姿をしていた。


 大渦津日神が作ったのか?


『私はこのゲームの管理人の一人。大渦津日神より遣わされています。この見た目は、我が主が自ら今流行りのAIで作ったそうですね』

 細い手首を見つめながら言う。


「渦津神が現代文化に馴染んでるとは驚いたよ」

 猿田彦さんが、式神の少女を睨みつける。


「天照大神の結界に弾かれたと思ったが?」

『我が主は力を溜めていたのですよ。あんなの掠り傷です。今はこのように、陰陽師が巻き起こす百鬼夜行を楽しんでいます』

 赤い頬を少し上げて、巻物をしまった。


 ザアァ


『『侏儒の遊び』は高天原の神々は関われないのです』


 いつの間にか、悪鬼邪神が沸いていた。

 劉羽と青龍が睨みをきかせている。

 

 ユウビがあくびをして目をこすっていた。


『陰陽師は揃った。もう、始まっているのです。くれぐれも、高天原の神々は介入することはなきようお願いします。たとえ婚約者であっても、失格となりますのでご注意を』


「わかってる! タケルなら勝ち抜けるから心配してないから」

 リヒメが声を大きくした。


『そうですか』


 シュンッ


 式神の少女が、細い煙を残して消えていった。



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阿仁三タケル 75pt

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