表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

52 『侏儒の遊び』 ~渋谷編⑥

「邪魔だ。前に出るなよ」

「あっ・・・」

 美玖を後ろにやった。

 女が伏せて浄化の炎を避ける。


「私が負けるわけないわ。ふふふ、だって、私は美しくて古くから信仰されている神だったんだもの」


 キイィィィィィィィ


 突然、金切声をあげて這うように地面にうずくまった。

 地面が黒く染まり、沼地のようになっていく。


 ただならぬ空気を感じた。


「!?」

「朱雀! 引け!!」

 朱雀が扇を閉じて、素早く降りてくる。

 女が顔を上げると同時に、地面から翡翠のような色の剣を取り出していた。


「これを出すつもりはなかったんだけどね」

 うっとりと自分で出した剣を眺めている。


「最近美味しい血を吸えてないの。他の神々に目をつけられちゃって。でも、今回だけは違う。若い活きのいい血がこんなにある」

 周りにいた邪神悪鬼たちが、女の視界から身を隠していた。

 

 こいつはおそらく、元々位の高い神だ。

 霊力から推測するに、古くから信仰されている神々の一柱だ。


「神器の剣を持っているとは・・・」

「タケル様、何なのですか? 神器の剣とは」

「・・・あいつは陰陽師・・・人間が直接倒せる敵ではない」

 息をのんで、一歩下がる。


 朱雀と白虎が隣に来た。

「確かにタケル様の読み通りですね。上位の神、しかもまだ邪神との判定を受けた神でもない・・・となると、生身の人間が戦うのは不可」

「我々四神が束になっても危うい。玄武もいればまだ勝ち目があるが、3体しか使役できないというルールがある故・・・悔しいな、醜い女め」

 白虎が牙をむいて唸っていた。


「劉羽でも無理なの?」

 ユウビが劉羽のほうを見上げる。

 呪詛剣をふわっと解いていた。


「ユウビが数分でもやりあえたのは奇跡だ」

「そうなの?」

「そもそも、奴ほどの位を持つ神が『侏儒の遊び』の式神に現れること自体間違っている。どんな手を使った?」


「ふふふ、さすが怨霊は違うのね。ほんのちょっとしか手合わせしていないのに・・・・もしかして、私と通じるものがあるのかしら。よくわかってるじゃない」

 女が唇に手を当てながらにんまりとする。


「でも、怨霊が生まれ変わった少年の血っていうのも興味があるわ。じわじわと、じっくりと味わってあげるからね」

 こいつには、社も多くあるはずだ。

 生き血を好む神なんて聞いたことがないが・・・。


「どうするの? 負けるの?」

 ユウビが軽い感じで言う。

「僕はもうちょっとここにいたいな」

「私は! 本当に本当に、このまま死んでもいいんだけど、ごめんね。巻き込んじゃって。一人で死ぬことが怖かったわけじゃないの」

 美玖が両腕を掴んで今にも泣きそうになっていた。


「・・・・タケル様、逃げるのも難しいでしょうか。せめて私が時間稼ぎをしてる間に」

 青龍が息をのむように言う。


「いや、全く方法がないわけではない」

「・・・・・?」

 『侏儒の遊び』を作った張本人、大渦津日神にこの体を明け渡せばいい。

 俺が死ぬと、奴も困るから協力せざるを得ないだろう。


 ただ、問題は事が終わった後だ。

 白虎たちが、ユウビと美玖を逃がしたとしても、どこまで被害を拡大させるかわからない。

 ここで何らかの災いを起こして、渋谷一帯の人間を殺すこともあり得る。

 


「タケル?」

 ユウビがきょとんとした表情でこちらを見る。

 女がゆらゆらとこちらに向かって来ようとした時だった。 



 バチッ バチバチバチ


 突然、夜空に雷が走る。

 見上げると、リヒメが龍から人間になって降りてきた。


 隣には錫杖を持った猿田彦さんがいた。


「猿と龍!?」

「そんなに驚くなって。神々だ」

「驚くってば。神? 神々が迎えに来たの? え? どうゆうこと?」

 美玖が猿田彦さんとリヒメを見て、混乱していた。


 ジャラン


「どうしたの? 猿田彦命と九頭竜の姫まで」

「沼ノ姫、ここにいたのか」

 猿田彦さんが錫杖を構える。


「ふふふ、神々が『侏儒の遊び』に介入するなんてルール違反じゃない?」

「沼ノ姫命・・・どこまで落ちぶれた?」

「ダメなのはそっち。私はあくまで美玖って娘の式神として召喚されただけだもの。邪神悪鬼は式神として陰陽師に仕えてもいいんでしょ? 式神ではない猿田彦と九頭竜の姫は『侏儒の遊び』に関わることを許されない」

 沼ノ姫命? 

 聞いたことのない名前だ。

 

「タケル、無事でよかった。沼ノ姫命は子供の血が好きだから」

 リヒメがニコッと笑う。


 猿田彦さんが沼ノ姫を睨みつける。


「沼ノ姫命、大国主命がお前の位を一時的に戻した。『侏儒の遊び』のルールからは外れている。やはり、血に興奮して気づかなかったか」

「!?」

 沼ノ姫が目を見開く。


「え? どうゆうこと? だって、私は」

「確かに『うけい』の末、高天原には戻れなくなった。自らのおぞましい欲望に堕ちた神だ」

「そうよ。『うけい』は絶対でしょ。私はもう神じゃない」

 翡翠のような剣を構える。


 しっとりと濡れたような腕が艶めいていた。 


「我々を甘く見るな。大国主命は陰陽師が参加する『侏儒の遊び』が始まったと知った時に、真っ先にお前が式神として参加するだろうと先回りしていた」


 ドンッ


 猿田彦さんが錫杖を回して結界を張る。

 半径5メートル以内が、一気に浄化されていった。


「生き血の好きなお前のことだ。堕ちたことをいいことに、必ず参加して、若者を見つけては殺して歩くだろうとな。天照大神に事情を話し、神々の協議の上一時的に戻してある」

「・・・・・・!!」

 沼ノ姫の顔色が変わった。


「高天原の神ならば、式神にはなれるはずがない。残念だったな。この娘との契約はここで解除される」


 キィン


 猿田彦さんが素早く錫杖を振り下ろすと、美玖と繋がっていた透明な糸のようなものが切れた。

「あ・・・・あれ?」

 美玖が自分の指を見つめて驚いていた。


「ふふふふふ」

 沼ノ姫が肩を震わせる。


「きゃははははははははは、私を格上げしてどうするつもり? 高天原の神の力が戻ったなら、私は元に戻るわ。ひたすらあの場所で」

「あくまでも一時的にと言っただろう。次の『うけい』で・・・」

「『うけい』から逃げられればいいんでしょ?」


「その前に、僕がここで捕らえる」

 素早く、沼ノ姫が翡翠のような剣を勾玉のペンダントに変えた。

 瞬きすると同時に、瓦礫の上に立っていた。


「ふふふふ、じゃあね。神々の一柱に戻ったんだもの。私を祀る神社もあるんだから、このくらいの力が戻って当然」

「そうはさせない」

 猿田彦さんが飛び上がる。


 しゅうぅぅうううう


 一瞬で、沼ノ姫が霧とともにいなくなっていた。

 猿田彦さんが錫杖を下す。


「逃がしたな。僕一人ではさすがに無理だったか。あそこまで力を持っていたとは・・・」

「ごめんなさい。私、何もできず」

「いや、リヒメにはそっちを守るように言ったからいいんだよ。ありがとう。みんなが無事で何よりだ」

 猿田彦さんがリヒメを見て、息をついていた。


「リヒメ、これはどうゆうことだ?」

「えっと、今のは沼ノ姫っていう、太平洋側の地域で信仰されている女神。だったんだけど、あの通り子供の生き血を好んで、よく災害を起こすから『うけい』で格下げになったの」

 リヒメが龍の鱗を元に戻しながら言う。


 朱雀がほんの少し機嫌悪そうに、白虎の手当てをしていた。


 シャラン シャラン


 猿田彦さんの錫杖が音を鳴らすと、沼ノ姫が振りまいていた穢れが浄化されていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ