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49 津守景虎

 平安時代に名の広まった陰陽師は、代々子孫に引き継がれていった。

 時代が変わり、廃業していく陰陽師がほとんどだったが、現在も政治の裏で活躍している陰陽師がいる。


 津守家だ。


 元は阿仁三家とともに戦い、戦乱で負けて名を消されたが、高い霊力を武器に江戸時代に蘇った。

 今でも国の極秘任務だかで、依頼が絶えないという。


 俺の前世をなぜか知っていて、封じようとしてくる厄介な奴らだ。


「滝夜叉姫・・・・こんな近くでお会いできるなんて・・・・」


 景虎が滝夜叉姫を見て硬直している。


『景虎様、景虎様』

「はっ・・・・えっと、そうだ。俺は式神を呼んで・・・ラマン、何しようとしてたんだっけ? ここに滝夜叉姫が?」

『・・・落ち着いてください。景虎様は戦闘中でしたよ』


「戦闘? あ、あぁ、『侏儒の遊び』か・・・」

 ラマンの呼びかけにも反応が薄い。

 実力だけは確かなんだけどな。



「何をぶつぶつ言ってる」

 滝夜叉姫が睨みつける。


「はっ・・・そうだ。うん、僕は・・・」

「私の話を無視するとはいい度胸だ」

「いややいやいや、そんなことはないです。滝夜叉姫の言葉はひとつひとつを心に刻んでます」


「気味の悪いことを言うな」

 なぜかよくわからないが、滝夜叉姫に惚れている。


 本当に、持っている式神から、考えてることまで掴めないやつだ。


「よくわからないやつだな。ここで戦うのも構わない。私が相手をしてやるぞ」

 滝夜叉姫が自分をまとう妖力を刀に変えた。


「滝夜叉姫と戦う?ここで僕が勝ったら・・・いや、滝夜叉姫と戦ってどうするんだ。でも、間近で見るには戦ったほうがいいのか? どうしたらいいんだ?」

『景虎様、落ち着いてください』

 ラマンが景虎の前に入って、三つ又の槍を構えた。


 ユウビがこちらに寄ってくる。

 白虎がラマンに警戒していた。


「タケル、なんかごちゃごちゃしてるけど、どうなってるの?」

「絶対、その面外すなよ」

「あ・・・うん・・・」

 ユウビが狐の面を抑えた。


「滝夜叉姫は平将門の娘。平安時代に一族を滅ぼされた無念を、前世の記憶として持っている。何の因果か俺の妹、琴音の体に入ってた。歴史には戦いに敗れて尼寺に入ったとも書いてあるよ」

「・・・・そうなんだ」

「琴音は陰陽道なんて知らないし、戦闘にも出たことない。いつもほのぼのとしていた可愛い妹だ」

「ふうん」


 面を少し上げる。


「ねぇ、なんで僕と同じ顔をしてるの?」

「さぁな。こっちが聞きたいよ」


「じゃあ、とりあえず・・・面は取らないように気を付けるよ」

「そうしてくれ」

 突風が吹く。


 キィンッ


 滝夜叉姫が妖刀をラマンに向けた。


「そうか、陰陽師は式神から倒すものだったな」

『相手をする』

「ラマン・・・え? あ・・・・」

 景虎が呆然としているうちに、ラマンが攻撃態勢に入っていた。


「ラマン、待てって」

『景虎様、お下がりください』

 ラマンが槍に霊力をまとわせる。

 空中に五芒星が浮かび上がった。


 サッ


 滝夜叉姫が一瞬でラマンの前に出る。


 シュンッ


 カン カン カン


 ラマンの槍と滝夜叉姫の妖刀がぶつかり、霊力で建物の窓がびりびりと揺れていた。

 互角、いや、滝夜叉姫は遊んでいるか。


『さすが、景虎様が認める者。強いな』

 ラマンが槍を回して、かかとに力を入れる。


 ゴンッ


 ラマンが勢いよく槍を突き刺そうとした。

『!?』

「ふふふ。私は遊んでいるのだ」

 滝夜叉姫が素早く印を踏んで、ラマンの攻撃を妖術で封じる。

 すぐに妖刀に力を込めていた。


「ラマン!」


 ドンッ


 景虎が刀を地面に突き刺す。

 五芒星の結界陣が浮き上がって消えていった。


「滝夜叉姫に手を出すな!」

『・・・・かしこまりました』


「滝夜叉姫、先ほどの無礼失礼しました」

 景虎が結界陣で滝夜叉姫の攻撃を弾きながら言う。


 滝夜叉姫が軽く飛んで、下がっていった。


「私を邪魔するか。せっかく楽しんでいたものを」

「邪魔・・・というか、そ・・・その、また会ったら今度はゆっくりお話でも・・・そう、僕は陰陽道だけではなく、歴史なんかにも精通しておりまして・・・」 

 景虎が急に委縮して、結界陣を閉じる。


「何の話だ? 我を混乱させる気か?」

「いや・・・そうではなく・・・・」

 ぼそぼそっと何かを呟いていたが、全く聞こえなかった。


 ラマンが明らかに困ったような表情を浮かべていた。

 こいつも大変そうだな。


「タケル、この戦闘はいったん保留だ。た・・・・滝夜叉姫、また是非会いたく思います。貴女のような美しい方とお話しできて・・・」

「将門公を侮辱するような奴と話しているつもりはない」

「は・・・え・・・・!?」

 景虎が軽くよろけて、ラマンに支えられていた。

 

 滝夜叉姫は根深いんだよな。

 多分、一度できた恨みは一生覚えてるタイプなんだろう。


『景虎様、今日は撤退を。また立て直しましょう』

「あ・・・あぁ・・・ちょっと胃が痛くなっていたからな。体力を回復させよう」

 景虎が腹を抑えて、屋根の上に飛び上がっていった。

 煙と雑踏の中に消えていく。


「なんだったんだ? あの人・・・」

 ユウビが天を仰いで呟いた。


 タン


 滝夜叉姫が軽く飛んで、前に降りてくる。


『将門公』

「だから・・・」

『タケル様』


「・・・!」

 滝夜叉姫が言い直した。刀をしまって、頭を下げる。


『貴殿がこの戦いにて本来の自分を取り戻すことを切に願ってます。優しいだけでは何も守れぬ。先の戦いも、殺せるものなら、殺される前に殺すように』

「・・・・・・」

『では、私は先回りしてやることがありますので、これで・・・』


 シュンッ


 滝夜叉姫が月夜の中に消えていった。

 妖力が残っている。



「タケル様、配信勢の中に、今の戦闘を撮影している者はいませんでした」

 朱雀がふわっと着物をなびかせて近づいてきた。


「不思議ですね。今の霊力だったら盛り上がっても不思議じゃないのですが」

「これだけ目立つ戦いを誰も撮っていないとは・・・」

「滝夜叉姫はぬかりない。妖力で電磁波を狂わせていたんだろうな」

 スマホを見ると、渋谷で配信している者が3組に減っていた。

 霊力もないくせに、陰陽師になろうとするからだ。


 ― 優しいだけでは何も守れぬ ―


 んなことは、最初からわかってる。

 別に俺は優しくないが、琴音にはあまり残酷なところを見せたくなかった。


 金は発生しないのに、厄介ごとばかり増えるな。

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