裏 03
― 烈浄の炎 ―
「失せろ、悪鬼ども」
ぼうっ
津守景虎が青い炎を起こし、襲い掛かってきた悪鬼たちを焼き払っていた。
短い剣を鞘に納める。
「魔が深いな」
『このような敵、景虎様に近づくのも悪しき事』
「あはは、悪鬼の相手をするのが陰陽師だ。僕の仕事がなくなるよ」
景虎の式神は毘沙門天のような姿をした修行僧で、名をラマンという。
三つ又の槍を振り回し、景虎の隣についた。
ドドドドドドド
ウーウーウー
救急車や消防車が到着する。
「きゃあああぁぁ」
「助けて。終わりだ。この世界は終わりだ!!」
「落ち着け、落ち着けって」
「薬でもやってるのか?」
雑居ビルが崩れ、火災が起こっている。
周囲はパニック状態になっていた。
暴れまわる男の背中には、未浄化の動物霊がついている。
「渦津神が動いたか。こんな形で陰陽師対決が実現するとは・・・計画が狂ってしまった。せっかく練り上げてきたのに、残念だよ」
景虎が頭を掻く。
『でも、このまま戦闘していけば阿仁三タケルにも会うでしょう。奴を封じることが、景虎様の願い』
「まぁ、そうだね。滝夜叉姫のためにも奴はいないほうがいい」
軽く飛んで、崩れ落ちた建物から離れていた。
「こんなところに陰陽師が」
「ん? 一人と式神一体? 残り二体は失ったのか?」
5人組の陰陽師のグループが景虎を見つける。
「一人で、すでに50ptも持ってる・・・?」
「そんなに強いとは思えないが」
「5人と15体で行けば問題ないだろ。所詮ゲームだ」
「ゲームのわりに、リアルでぞくぞくするけどね。あ、さっきの配信者死んだのか?」
「やらせだろ。バズるためによくやるよ」
一人が巻物を広げながら、ポイントを確認していた。
景虎が5人を無視して、ラマンを見上げる。
『景虎様、神々がこんなことを許すのでしょうか? 渋谷には素戔嗚尊のいる神社もある。大渦津神の策略など潰すものだと思いましたが』
「まだまだ甘いな。ラマン、神々は意外と忙しい」
景虎が息をつく。
「渦津神とて神だ。堕ちてしまったこの地には、相応の穢れが溜まってる。神々への信仰心が無くなり、陰陽道も知らない者が陰陽師を気軽に名乗り、ゲームに踊らされてしまうほど、バカになってしまった」
「今だ!!!」
「行け! 式神、あいつに襲い掛かってポイントを奪え!」
「そうだ! A級の式神しかなくたって束でかかれば・・・」
ダダダダダダダダ
高校生ぐらいの集団が景虎に武器を向けてきた。
悪鬼が高く飛びあがって、景虎とラマン目掛けて落ちてくる。
ドンッ
ラマンが真っ赤な炎を三つ又の槍に宿して振り回す。
景虎が少し下がって、冷めた目で戦闘の様子を見つめていた。
「阿保だな・・・・みんな。まさに『侏儒の遊び』って感じのゲームだね」
ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ
悪鬼の断末魔が響く。
ラマンが15体の式神を一気に蹴散らしていた。
雑居ビルの電気がチカチカしている。
「!?」
景虎がふと、月明かりを見上げる。
「滝夜叉姫?」
小さくつぶやいた。
妖狐が空を横切った。
「うう、嘘だろ・・・」
「こ・・・降参だ。全部ポイントはやるから」
「・・・・・・・・」
すぐに、式神を失くした者たちに隠れていた悪鬼の視線が向かう。
ぎゃあああぁぁぁぁぁ
悪鬼が貪るように、高校生グループに襲い掛かっていた。
「霊力がないのに、陰陽師になんかになるからだ。意外と人の死はあっさりしている。その辺のゲームみたいに」
「うっ・・・・・」
悪鬼たちの攻撃は一般人には見えない。
トン
ラマンが上空から降りてくる。
『この時代の若者は命が軽いですね』
「あいつらが馬鹿すぎるだけだ。死んでたら、地縛霊にでもなるんだろうな」
運が良くて心神喪失などの精神障害、運が悪ければ死に至る。
バタバタと倒れていく5人に、誰も気づかなかった。
「・・・陰陽師の死は、いつ世も静かなんだよ」
あたりが一瞬だけ静かになると、景虎のポイントが75ptになっていた。




