47 『侏儒の遊び』~渋谷編③
悪魔の攻撃は素早い。
漆黒の羽根がふわっと舞うと同時に、刃が飛んだ。
シュンッ
朱雀が軽やかに飛んで、ルグの攻撃を避ける。
悪魔ルグとリラの武器は邪気を放つ漆黒の剣だった。
朱雀がすぐに双剣を回転させながら、リラに刃を向けていた。
『強くなってるな』
『霊力が増したのか? さすが東洋の四神だ』
「!!」
『でも、こっちもそれなりに日々楽しんでるからな』
悪魔ルグリラが楽しそうに魔術を展開する。
ガンッ
― 黒煙鏡 ―
「!!」
ルグとリラが巨大な鏡を作り、朱雀の攻撃を弾いた。
朱雀が咄嗟に鳥に変化して飛び上がった。
― 炎舞 竜巻刃 ―
「ぐっ」
朱雀が炎をまといながら、ルグの翼を切り裂く。
他の悪鬼が手出しできないくらいのスピードで火花を散らしていた。
劉羽は槍のような武器を回して、ユウビに被害がいかないようにしていた。
「タケル様、残りの悪鬼は我々で始末しますか?」
「んー、まだいいよ。そのうち掃ける」
青龍と白虎がうずうずしていた。
ザンッ ザザザザザザ
風が巻き起こり、コンビニのビニール袋が勢いよく飛んでいった。
『クソッ』
「今回は負けられませんから!」
『強すぎるだろ』
『リラあきらめるな。もう少し遊ぼうぜ』
悪魔のルグとリラが笑いながら下がる。
カンッ
朱雀が休むことなく攻撃を繰り出していた。
明らかに朱雀が押している。
元々、実力では朱雀が上だ。
ただ、前回、朱雀が負けたのには理由があった。
『もう一発・・・っと』
ギンッ
ルグとリラの攻撃を双剣で止める。
西洋系の悪魔は契約に縛られる。
恵と奏斗が何をかけたか。
ガチャで式神排出する『侏儒の遊び』に、どこまで契約が適用されているのだろう。
「すごい戦いだ。みんなには見えないんだっけ?」
「惜しいな。今、激戦なんだよ」
「ほら、風が起こってるのは見えるだろ。看板の電気もチカチカしてる」
恵がカメラに向かって興奮気味に話している。
悪魔との契約はそんなに甘くない。
「!?」
黒い猫が通り過ぎた。
こいつが通ると、空気が冷たくなる。
金色の弓を、天に向かって引いた。
「朱雀!!」
パンッ
矢を2体に向かって放つ。
弧を描いて心臓に命中した。ルグとリラがよろける。
軽く飛んで朱雀の前に立った。
「タケル様・・・・・」
「もう時間切れだ。今のはお前の勝ちでいいだろ」
『阿仁三タケル・・・ここで出てきたか』
「そもそも俺に喧嘩を振るほうが間違ってるんだよ」
ルグがひざまずく。
リラが先に倒れて、息絶えていた。
「マジかよ。タケルが戦えるなんて・・・」
「今の見た? ってわからないよな。ほら、バズったタケルだよ。あいつが直接攻撃したんだ」
「お前、ガチの陰陽師だったのか?」
「今更・・・」
ため息をついて、金色の矢をしまう。
「陰陽師は式神を使役する。普通は、式神よりも強いもんなんだよ」
「でも、他の悪鬼が・・・」
他の悪鬼は黒猫の登場にビビッて近づかない。
「猫?」
黒猫が恵と奏斗の前に現れる。
「おい、クソ猫。待て」
『なんだ?』
「こいつらは陰陽師が何たるかを知らずに巻き込まれた。契約は成立するのか? 悪魔の都合よく契約を結ばされた状態だ。対等ではない」
黒猫が悪魔と恵と奏斗を見つめていた。
『成立する。契約は契約だ』
「っ・・・・・」
奥歯を噛みしめた。
「この黒猫は・・・何の話だ?」
恵と奏斗に向けた黒猫の目が光った。
「え・・・・・・」
ズン・・・・
バタンッ
恵と奏斗がその場に倒れる。
カシャン
きゃぁぁぁぁああああああ
女性の悲鳴が響く。
撮影していたスマホが電柱のほうへ転がっていった。
何が起こったかわからない視聴者の、混乱のコメントが流れていた。
「だ、大丈夫か!? おい! おい!」
周囲にいた人たちに動揺が広がっていった。
「死んでる・・・・?」
恵と奏斗を揺さぶっている人の顔色が青ざめていく。
悪魔のルグリラが復活して、体を起こしていた。
ルグが軽く腕を回して、死んだ主を眺める。
『死神が来たのか。早かったな』
『ふぅ・・・今回も阿仁三タケルに負けた』
『まぁ、気晴らしはできたか。ずっと遊びたくてうずうずしてたからな』
『四神は強いね。できればまた戦いたいよ』
「私ならいつでも相手しますよ」
朱雀が鋭い目つきで睨みつける。
悪魔ルグリラの傷はふさがり、何もなかったように笑っていた。
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阿仁三タケル 35pt
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「タケル様にポイントが入りましたね」
青龍が巻物の文字を読み上げる。
「・・・ありかよ。こんなの」
『奴らのかけていたものは、命だった。悪魔と契約した時点で、捻じ曲げることはできない。我は契約の通り、魂を奪っただけだ』
猫がこちらを見ながら話す。
「・・・・・・・・・」
『じゃあな。阿仁三タケル。いつか、お前の命を取るのを楽しみにしてるぞ』
猫がふらっと路地裏に入っていった。
俺の命がスムーズに死神のところへ渡るとは思えないけどな。
黄泉の穢れ、大渦津日神がいる限り・・・。
「猫の姿をしてるなら、猫らしくしろよ」
黒猫は西洋の死神だった。
西洋の悪魔を召喚するには代償が必要となる。
悪魔は主に力を貸す代わりに、供物を捧げなければいけない。
何を捧げるという契約をしていなければ、供物は自動的に魂となるらしい。
悪魔が負けるということは、かけていた魂が無くなるということだった。
もし恵と奏斗が勝てば、俺の魂が供物になっていたはずだ。
いや、俺の命じゃ2人分の命に満たない。
おそらく、伴侶となったリヒメにも・・・。
『もう一度ガチャってやつに入ってみるか』
『ははは、そりゃいいな』
「早く失せろ」
『はいはい。負けたから退散するよ』
悪魔ルグリラがへらへらしながら飛び立っていった。
いつの間にか、恵と奏斗が使役した残りの悪鬼たちがいなくなっていた。
「タケル様、あの者たちはクラスメイトでしたよね?」
「そうだな」
「大丈夫ですか? 最期まで私がやっても構わなかったのですが・・・」
朱雀が心配そうに声をかけてくる。
「別にいい。陰陽師が何かをわからないまま戦闘に入った時点で、責任はこいつらにある。俺は何とも思わない」
天照大神のいる昼間なら、神々もいる。
1パーセントくらいは奇跡が起こって助かる可能性もあっただろう。
「これが『侏儒の遊び』か・・・」
ユウビが恵と奏斗の遺体を見て、小さくつぶやいた。




