4 悪鬼
悪鬼は突然現れる。
人の記憶に残らないのは、神々が記憶を消すからだ。
この世界は人間が思っているより、穢れが多い。
邪神が好む世界に堕ちようといている。
「きゃぁ!!! 何、何なの?」
「スマホも繋がらない。何? これは・・・」
いきなり学校が漆黒に包まれていた。
何の前触れもない、昼休みの始まって数分後だ。
窓の外が暗い。
空もグラウンドも何も見えなかった。
悪鬼が大量に集まってきている。
九頭龍の末の妹である、リヒメに反応して呼び寄せたか。
学校は意外と穢れが多い。
ネットがあり、誰もがスマホを持つ時代だ。
どの教室に入っても、悪鬼がくすぶっている。
この学校に、邪神はいないけどな。
悪鬼も数は多いけど、霊力が雑魚だ。
『うぅううううう・・・・』
うめき声が響く。
式神を出すのも面倒だ。適当にやり過ごすか。
「ど・・・どうなってるの?」
「学校全体がこうなってるのか? クソッ、教室の扉があかない」
「え!?」
「閉じ込められたってこと?」
ほとんどは食堂に行って、クラスには数人しかいない。
柔道部の西田が体当たりしても、扉はびくともしなかった。
『あぁ・・・あぁ・・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
『恨めしい恨めしいなぁ・・・・・・』
『あぁぁぁっぁぁぁぁっぁっぁぁぁ リュウ ヒメ メ・・・・』
どこからともなく掠れた声が聞こえてくる。
「悪鬼が現れたの。よくあることだよ」
リヒメが俺の方を見て説明する。
「リヒメ、どうするつもりだ? 大国先生でも呼びに行くか?」
「大丈夫、私のところに来るから、私が倒す」
「ん?」
ドーンッ
扉が開くと、教室が真っ暗になった。
きゃああああああああ
女子生徒たちが悲鳴を上げる。
「戦うね」
リヒメが指先に光を灯す。
指をはじいて、扉のあたりを照らした。
パアッ
「うわ!?」
部屋が一瞬で明るくなり、悪鬼が現れる。
男子生徒が腰を抜かしていた。
無理もない。
普段は見えないんだからな。
「あれが悪鬼。穢れが溜まると意志をもって動き出すようになるの」
「へぇ・・・」
「でも、安心して。私が守るから」
「・・・・・・」
体長2メートルはある、黒い物体が数体入ってきていた。
鬼になりたてってところだな。頭に巨大な角が生えている。
「な・・・なんだよ・・・これ、夢か?」
「夢じゃないって・・・私、起きてるし」
「SNSに・・・ってスマホが使えない」
生徒たちが震えながら固まっていた。
太い眉にただれた目、床につきそうなくらい大きな口、鋭い牙・・・。
俺の目の前に現れるとはいい度胸だな。
『神の匂いが・・・・する』
『ここだ。ここにいるはずだ・・・』
ゴオォォォォォ
一体の悪鬼と目が合う。
『まさか、お前は・・・・』
気づいたか。
まぁ、金が発生しないなら、俺には関係ない。
気配を消して、視線をそらした。
「うわ!!」
「きゃっ・・・こんな・・・」
前にいた女の子たちが悲鳴を上げている。
「入ってくるな!!」
ガーン
一部の男子生徒が机を投げていたが、透過して当たらなかった。
悪鬼たちも無視していた。
「当たらない?」
「あれ・・・見て」
悪鬼は部屋に入ってきた数体じゃない。
いつの間にか廊下を埋め尽くすほどの不気味にうごめく悪鬼が集まっていた。
すべてに顔と胴体がある。
ただ、腹に顔があったり、妙に顔がデカかったり、目が3つついてたり、動物霊に混ざった妖怪に近い姿をしていた。
人の姿になりたくてもなれず、神に祓われないよう、邪神に群がっているのが悪鬼だ。
俺はたまにこいつらに同情していた。
存在しても、存在しなくても、地獄なんだからな。
「逃げ道がない」
「ど・・・・どっきりとか・・・」
「ありえないでしょ」
ガーンッ
悪鬼が巨大な手で触れると、机が消えていった。
クラス中がパニックに陥っている。
「助けて!!!」
窓際にいたクラスメイトのギャルが、外に向かって叫ぶ。
「うわっ」
ゴオォォォォォォォオオオオ
『九頭龍はどこだ?』
悪鬼が人間に襲い掛かろうとした。
― 清め給え、祓い給え、邪気払いの剣 ―
シュンッ
リヒメが空中に剣を出して、鬼を一突きする。
リヒメの頬が龍の鱗のようになり、目は赤く光っていた。
しゅううぅぅぅぅぅぅ
悪鬼が煙のように消えていく。
「リヒメ」
これが九頭龍一族末の娘の力。
神にしては少ない霊力だけど、うまくコントロールして、最大限生かしているようだ。
「な・・・なんだ?」
「竜宮リヒメ?」
クラスメイトが呆然としていた。
― 浄化の舞 ―
サアァァアァァァァァァl
雨が降り出していた。
剣を持って、舞うように鬼たちを斬っていく。
皮膚のただれた鬼は地面に溶けるように沈んでいき、口だけの鬼は断末魔のような悲鳴を上げて倒れていた。
クラスメイトも硬直していた。
「あ・・・・あの転校生、何者だ?」
グルルルルルルルルルルウ
リヒメがうなり声をあげる。
悪鬼の中にたった一人で飛び込んでいった。
「でも、強い」
「助かった・・・・」
― 清め給え・・・・ ―
「怖・・・化け物かよ・・・・」
生徒の一人が呟く。
リヒメの爪はいつの間にか龍の爪のように、鬼を切り裂けるようになっていた。
悪鬼を斬っていくたびに、リヒメが龍になっていくのがわかった。
「・・・・・・・・」
でも、化け物なんかじゃない。
リヒメは凛としていて、美しかった。
九頭龍の姫・・・か。
金が発生しないのに、よくやるよな。
ため息をついて、椅子に座り直す。
頬杖をついて、リヒメが悪鬼を倒す様子を眺めていた。
まぁ、神だからか。