46 『侏儒の遊び』~ 渋谷編②
ジョーカーはどこにいるのかわからないが、現れたらすぐに倒す。
これ以上、ルールを追加されたら面倒だ。
今でさえ、仮拠点とかいう場所から移動できないからな。
「タケル様、ここでよろしいでしょうか」
「あぁ、ありがとう。青龍、助かったよ」
青龍から飛び降りる。
渋谷に立つと同時に、数十体の悪鬼がこちらを見ていた。
俺のことは知っているようだな。
『ハイになりたい・・・寂しかった、ボクラ・・・・』
『恨めしい、うらめ・・・・』
シュンッ
「タケル様に近づかないでください。汚らわしい」
襲い掛かってくる3体の悪鬼を、朱雀が双剣で刈っていく。
白虎が飛び掛かって嚙みつくと、他の悪鬼たちが離れていった。
ぎゃああああああああ
朱雀の刺した悪鬼が蒸発して霧となっていった。
双剣をしまって、着物の袖を直す。
「手ごたえがない。住み着いてる悪鬼ですね」
「渋谷ってこんなにいたか?」
「噛み応えがありそうだ」
白虎が牙をむき出しにしながら唸る。
「陰陽師が集まってるから出てきてるんだろ。冬眠から覚めた熊みたいだな」
「いきなり君たち四神相手じゃ、熊が可哀そうだよ」
ユウビが面を抑える。
ガッシャーン
「うわっ」
「やばいやばいって」
スマホを持った人間たちが、事故現場へ走っていくのが言えた。
スクランブル交差点のほうで、ハンドルを悪鬼に乗っ取られた者が事故を起こしているようだ。
「あっちでも、こっちでも事故。パニック状態になってるね」
ザアアァァァァァァァアア
ユウビに襲い掛かろうとしていた悪鬼が、劉羽の振り回す槍に消えていった。
「あ、劉羽、ありがとう」
「・・・・・」
ユウビのどこに劉羽を使役するほどの霊力が眠ってるのかわかない。
「配信勢はどうなってる?」
「逃げ回ってる」
「そりゃそうだよな。何組残ってる?」
「12組だね。1組やられたみたいだ」
陰陽師になったばかりの者が百期夜行に酷似する状況に遭遇するとは・・・。
天照大神が現れれば、休戦となるだろう。
それまでは、長い夜をやり過ごすしかない。
ユウビがスマホを眺めながら、道玄坂の前で雑居ビルを指さす。
「そこから出てくるよ。3人組の男子高校生グループだ。SS級クラスのレア式神がいるって自慢してたよ」
「へぇ・・・」
スマホで配信勢を眺める。
「は?」
「どうしたの?」
「クラスメイトだ」
人ごみに紛れながら歩いてきたのは、奏斗と恵だった。
陽キャでありながら、『すりーすたー』にはまって推し活に身を捧げてた奴らだ。
背後にいる邪神も、見覚えがある。
「クラスメイトねぇ。本当に高校生なんだ」
「タケル!」
奏斗がこちらに気づくと、手を上げて駆け寄ってきた。
恵が小型カメラで、クラスメイトと会ったことを話していた。
2人で配信しているようだ。
『阿仁三タケル。阿仁三タケルだな?』
『久しぶりだ。身長が伸びたか』
金糸のような髪と、黄金の瞳を持つ西洋の邪神が恵と奏斗の横についていた。
西洋の悪魔と呼ばれる存在だ。
俺の式神を一通り見て、にんまりとしていた。
後ろにいるのは雑魚だ。渋谷にいる悪鬼よりも弱い。
目立つのは、見覚えのある2体だけだった。
「すげぇ、もう21ポイントも溜めてるのか?」
「俺らかろうじて5ポイント死守してるだけだもんな。でも、まだ始まったばかり! これから挽回していくからな」
恵が奏斗のスマホをのぞき込みながら、カメラを気遣っていた。
「戦闘の前に聞きたいことがある。どうして、このゲームに参加した? お前らは別に陰陽師じゃないだろ?」
「これは視聴者さんにも聞いてもらいたい」
奏斗がカメラをぐっと自分に近づけた。
「俺達には推しがいた。『すりーすたー』だ。あるライブの後、3人は清楚系アイドルを目指すから、今後ファンの名称『うしのヒヅメ』は辞めろって言われたんだ」
「・・・あ・・・そう・・・」
あぁ、確かに日本武尊さんがうしのヒヅメの名前を解消しろって言ってたな。
名前から邪が漂うとかなんとかで。
「それがどれだけ苦しかったか。清楚系になった推しは推しじゃないって思ってたけどやっぱりかわいくて」
「可愛いから引き続き推すことにした。ん? もしかしてしいなちゃんたちも見てるかな? この配信」
「きっと見てくれてるよ。しいなちゃんはゲームが好きなんだ」
「・・・・・・・・」
朱雀が呆れた顔で目を吊り上げていた。
「どうやって、陰陽師となることに繋がるんだ?」
「憂さ晴らしだよ」
恵が笑いながら言う。
「は・・・・・?」
「そうだ。『すりーすたー』は変わらないけど、認められない自分もいるんだ。だって、推しが変わったんだぞ。俺ら変わってないのに。もしかして、男の存在でも・・・・」
「いうなって! それは」
奏斗が真面目に怒る。
「今、しいなちゃんに男ができたとか言われたら、生きていく希望がない」
「・・・・・」
「とにかく、このバトルで遊びたかった理由はそんなところだ」
「何言ってるんだ・・・お前ら・・・・」
2人は真剣だったが、ユウビもきょとんとしている。
完全に穢れに堕ちてるな。
「タケルが強いのはわかってるけど、俺たちが式神ガチャで当てたのはSS級レア2体」
「それなりに戦えるからな。クラスメイトだからって手加減しないからな」
「勝負だ、タケル!」
穢れが高まると、周りにいた悪鬼が嬉しそうにしている。
こいつらにとって、『侏儒の遊び』は体感型ゲームのようだ。
ジョーカーも、同じような感覚なのか、わかっていてやっているのか。
神々の眠る時間帯に、助けは入らない。
知らずに懸けているものは、己の命なのに。
「・・・同接1000人以上、タケルが現れてから増えた。あの人たち、推しに命を懸けてるってこと? 推しに会ったこともないのに・・・よくわからないな」
ユウビが面越しに呟く。
気づかれないようにコメント欄を眺めていた。
「ん? 黒天使ルグどうした?」
『戦いたくてうずうずしててね。あの面の少年、邪の匂いがするけど』
『まぁ、それよりも阿仁三タケルだよ』
「そういや、名前・・・阿仁三? 知り合いか?」
『因縁だね。な、タケル』
「・・・・・・・」
思い出した。
黒天使ルグとリラは双子の悪魔だ。
過去に一度だけ遭遇したことがある。
確かあの時は・・・。
「こいつらまでガチャ排出されるのか。大渦津日神も随分暇だな」
「あの悪魔ですね。私が戦います。タケル様は下がっていてください」
朱雀がふわっと飛んで、俺の前に降り立った。
「大丈夫か?」
「あのときは負けたけど、今度は絶対に負けません。白虎も青龍も手出しは不要ですから」
「はいはい」
「タケル様に恥をかかせるなよ」
「もちろんです」
青龍と白虎がすっと飛んで朱雀から離れた。
劉羽が無言のまま朱雀の横に並ぶ。
「劉羽、何の用ですか?」
「・・・・・・・・」
「私一人で倒しますよ。助け入りません」
「・・・・・・・・・」
「じゃあいいですけど・・・」
朱雀が劉羽の言葉に、しぶしぶ同意していた。
配信を聞きつけて、周囲に人が集まってくる。
1年前戦った悪魔ルグとリラは、強かった。
こいつらは、西洋の魔術書グリモワールから消された悪魔だ。
朱雀が負けて、最終的に俺が戦って倒した相手だった。
「・・・・・・・・」
数珠を鳴らして、朱雀を浄化する。
金色の矢を背負った。
朱雀が双剣を赤くして、ルグとリラに斬りかかっていた。




