44 『侏儒の遊び』~はじまりの④
「で、俺は休みたいんだが・・・0時だしな。あ、明日学校だ」
あくびをして、体を伸ばした。
「連絡先だけ聞いて解散するか」
「僕もそうしたいけど、明日、学校はないと思うよ」
「ん?」
ユウビがスマホを見せてくる。
緊急ニュース速報だった。
『たった今、JRは山手線、京浜東北線の爆破事故を受け、本日始発から運転を見合わせるとの情報が入ってきました。原因は不明。繰り返します・・・・』
アナウンサーが慌ただしく原稿を読み上げる。
上のテロップには、東京24区で異変。外出はしないようにと書かれている。
「大変なことになってるみたいだ」
「タケル様・・・これは・・・」
「陰陽師『侏儒の遊び』が原因だ。始まって早々、こんな状況になるとは。とんでもないことをしてくれたな。あいつ・・・」
「・・・・・・」
朱雀が口に手を当てて、画面を見つめる。
「これは陰陽師の『侏儒の遊び』が原因なの? なんで? 陰陽師同士のバトルなのに・・・・」
「陰陽師は霊力で決まる。使役できない悪鬼、邪神を与えられて、陰陽師が自分が乗っ取られていることも気づかずに暴れまわってるんだろう」
「うわ、やばいね」
ユウビが狐の面を抑えたまま、ぼんやりと言う。
「ん? じゃあ、劉羽も邪神なの?」
「知らん。本人に聞いてみたらどうだ?」
劉羽のことは全然わからなかった。
四神のように、他国で祀られてる神々である可能性もある。
「・・・微妙なところだって」
「微妙ってなんだよ」
滝夜叉姫に似ているユウビのことも、どこまで陰陽師を知っているのか謎だ。
― 呪詛剣 浄衆阿修羅 ―
数珠の一粒を剣に変えて、持ち直した。
「このままだと確かに、明日は全面休校になりそうだな。朝5時くらいまでなら付き合ってる。深夜バイトと同じくらいの時間だ」
「タケル様、見てください。陰陽師が配信しています。おそらく『侏儒の遊び』の参加者かと思われます」
「配信?」
朱雀が俺のスマホを動かして、SNS動画配信サイトを表示する。
”幼馴染3人が陰陽師になってみた”というタイトルだ。
『陰陽師はみんな新宿や渋谷、池袋に集まってるみたいだ。じゃあ、俺も行こうかな。なぁ、2人はどこに行きたい?』
『私は渋谷行きたいな。式神のシンちゃんがそう言ってるから』
『じゃあ、渋谷だ。ここから近いし』
『マジか。うー、画面の向こうのみんな、これマジだから。リアルで起こってることだから絶対見逃さないで、損するよ』
高校生らしき3人が公園を歩く様子が映っていた。
後ろには悪鬼邪神が3体ずつついている。
「なんで、こんな時に配信したがるんだよ」
「承認要求がすごいね。深夜なのに5組くらい配信してるよ」
ユウビが他の配信者を映した。
「ほら、こっちも配信してる。大学の友達5人だって」
「状況が分かってないのか。アホすぎるだろ」
頭を掻く。
幼馴染3人がワイワイしながらコメントを読んでいた。
コメントは、陰陽師を疑うものばかりだ。
式神なんて見えないと言ってはいるものの、興味がある100人程度が閲覧していた。
『マジでリアルなのにな。今からわかるよ』
「こいつら、死ぬぞ」
「え、そうなの?」
画面越しに、霊力を確認する。
3人とも陰陽師として耐えられる力はない。
「式神を使役できていない。そういえばユウビの式神は1体だけじゃなかったよな。あとの2体はどうしたんだ? 異常に弱かったが」
「もらったよ。主催者が式神がいない場合は名乗り出てほしいって掲示板に書いてたから、2体足りないって言ったら式神ガチャみたいな画面を案内されて、2体引いたんだ」
「式神ガチャって・・・まさかSSレアとかついてないだろうな?」
「僕は引いてないけど、あるらしいね。ほら、その幼馴染の3人の一人が持ってるのはSSレアだって自慢してた」
スマホに映った配信者を見ながら言う。
「あの・・・・ガチャとは何でしょうか?」
「ゲームのくじ引きみたいなもんだよ。それで、適当に邪神悪鬼たちを使役させているらしい」
「・・・な、なるほど?」
白虎と青龍はいまいちピンと来ていないようだ。
ガチャなんて考え方、式神にはわからないだろうな。
「深く知る必要はない、所詮、大渦津日神の考えた遊びだ。ユウビ、式神は自動追加されないんだろ?」
「そうみたいだね。別に劉羽さえいれば問題ない」
劉羽を見上げながら言う。
「とりあえず、渋谷でも行くか。新宿はこの前行ったばかりだし、池袋は遠いし、なんかこいつらが哀れで、死ぬ前に・・・・」
『きゃあぁぁぁぁ』
バタンッ
突然、幼馴染3人組の真ん中にいた少女が倒れる。
「・・・・」
『ほのか! ほのか!』
『ど、どうゆうことだ? 式神もまだいるはずなのに・・・』
カメラのアングルが一瞬ぐちゃぐちゃになった。
「式神が・・・劉羽、どうゆうこと?」
劉羽の言葉は、ユウビにしかわからなかった。
「悪鬼が群がりすぎたか」
「強い邪神には悪鬼が群がる。それは陰陽師が使役したとしても同じ」
朱雀が赤い着物の袖を抑える。
「弾き返す霊力がなければ穢れをため込むしかない。悪鬼が生気を貪りつくし、原因不明の死を遂げる。百鬼夜行の話はこの時代には通じないのね」
「え・・・・原因不明の死?」
「そうだな。陰陽師の死は、大体そんな感じだ」
ユウビがスマホを落としかけながら、こちらを見る。
「劉羽が日本の昔話にあるって言ってる、本当なの? じゃあ、SSレア引いたこの子は・・・」
「後ろに悪鬼が群がってるんだよ」
「悪鬼がって・・・どうして・・・」
ズンッ・・・・
「!!」
陰陽師の霊力に慣れてないから見えなかったか。
彼女の式神は遊女であり、男に対する恨みを持った女の式神だった。
力は強いが、彼女の下についている悪鬼も多い。
背後にはヘドロのような鬼たちが集まっている。
『啓介、後ろ! 後ろ!!』
『うわっ、マジで、ありえない。なんだこれ? うわあぁぁぁ』
『うっ・・・』
ブチン
いきなり画面が真っ暗になり、配信が途切れた。
音が消える。
コメント欄がやらせなのか、真実かの議論が始まっていた。
「わぁ・・・ガチでやばい感じだね」
「そうだ。ユウビが思っている数倍は、やばいゲームだからな」
「ふうん・・・でもいいや。どうせ退屈な毎日だったんだ。僕は悠々と遊びたいよ」
「物好きだな。戦を好むなんて」
剣を、黄金の弓矢に持ち替える。
「・・・・・・」
「タケル様?」
「いや、悪い」
なぜか、心が浮き立つ。力を試したくなる。
いつの記憶だ?
自分が自分じゃないみたいだった。
この感覚は、初めてじゃない。
「え?」
「今の奴らが行こうとしたのは渋谷だったな?」
「そうですね。原宿あたりを歩いていたのでしょう」
「じゃあ、渋谷に行くぞ。青龍、ユウビを乗せられるか?」
「もちろんです」
「すごい。龍の背中に乗るなんて。っと・・・・」
青龍が俺とユウビの前に降りてくる。
深呼吸して、霊力の高まりを落ち着けた。
朱雀が何かに気づいたのか、ほんの少しだけ不安そうな顔を見せた気がした。




