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41 『侏儒の遊び』~はじまり①

 リヒメとの婚姻の儀と黄泉の国から帰って1か月、日本国にいる陰陽師に式神を介して通達があった。


 ― 渦津神の名の下に陰陽師は『侏儒の遊び』への参加にすること ―


 昔でいうところの戦乱、現世でいえば命を懸けたゲームだ。 

 避けることは許されない。

 途中で逃げ出そうとする者は、黄泉の穢れをまとうということに同意したとみなす。


 ・『侏儒の遊び』の参加者は式神を最大3体持つことができる。

 ・式神の変更は、各人ゆかりのある神社でのみ行うことができる。

 ・神々の協力を仰げば失格となる。

 ・ポイント制であり、陰陽師の式神がすべて無くなった時点で相手のポイントとなり持っているポイントを全て渡すこと。

 ・最後までポイントを保持していたものが勝者となる。

 ・『侏儒の遊び』の参加者の中にはジョーカーがいる。

 その者のみルールが追加されることが許される。


 ・勝者には黄泉から人間を一人、連れて帰れることを約束する。


 ・11月23日午前0時より開始とする。



「クソが・・・・つか、ジョーカーってなんだよ」

「現代風に強引に合わせた感じだな」

 巻物を読んでいると、しいながこちらをのぞき込む。


「中二病的こじらせてるとしか思えない。重みがないというか、安っぽいゲームだ」

「痛々しい老害だ。変なことに巻き込みやがって」

「でも、参加はするのだろう?」

「まぁ、金がかかってるわけじゃないしな。何より、学生だし、勉強しないと」


「都合のいい時だけ、学生になるな」

「当然だ。言っておくけど、お前の主はただの高校生だからな」

 巻物を閉じて、式神のカラスに渡す。


「タケル、あとちょっとでハンバーグが出来上がるよ。一応、今日もしいなの分、用意してるよ。タケルの式神だからね」

「あぁ、ありがとう」

「ふ、ふん、見栄えよくてもSNS投稿とかしないからな」

 しいなが言葉とは裏腹に、にやけまくっていた。

 リヒメの料理が好きで、夕食時には必ず家に来るんだよな。


「陰陽師が乱世の火ぶたを切るか」

 猿田彦さんがちらっとこちらを見て、テレビの前でお茶を飲む。


「他の神々がこんなこと許すのかよ」

「大渦日津神も神の1柱と考える。神々同士が争うことは、基本許されていないのだ。天照大神のみ伏せることができるが、それをしなかった」

「・・・・・・」

 リヒメがキッチンからこちらを見る。

 美味しそうな香りがした。


「今の世を浄化したいのだろう」

「浄化ねぇ・・・・」

「陰陽師が式神として邪神を使役して争えば、邪神の力が弱まる。この世は邪神を生みすぎた。陰陽師には悪いが、必要な世の中になってしまったのだろう」

 猿田彦さんがゆっくりと立ち上がった。


「タケル、今日はハンバーグだよ。猿田彦さんも是非食べて行ってください」

「では、遠慮なくいただこう」

「お酒は持ってきてないんです。すみません」

「はははは、持参している。案ずるな」

 缶のカクテルの蓋を開けていた。


 猿田彦さんがすっかり家に馴染んでいる。

 婚姻の儀の祝いと言いながら、酒を持って週4くらい来るようになってしまった。  

 俺たち、酒は飲めないし。

 そろそろウズメさんに怒られると思うんだが・・・。


「タケルは『侏儒の遊び』参加するの?」

「適当にやり過ごすよ。別に生き返ってほしい者なんていない。いただきます」

 ハンバーグを口に運ぶ。


「美味しいな」

「確かに美味い。こんな美味しいものは初めてだ」

 しいなが満面の笑みで食べていた。


「たくさん食べてね。いっぱい作っちゃったから。SNS映えするように作ったから」

「ま、まぁ、そこまで言うなら、おかわりするとき撮ってやる」

「ツンデレは今の流行りに合わないぞ」


「ファンの者には天使のしいなちゃんって言われてるから問題ない」



 ピンポーン


 突然、チャイムが鳴った。


「はーい」

 リヒメが返事をして、玄関のほうへ歩いて行った。


「嫌な予感がする。借金取りだったら面倒だな。逃げるか」

「借金などしてるのか。その年齢では金を借りられないだろうが」

「俺の父親だ。俺は関係ないって、何度も言ってるだろ」



 タッタッタッタ・・・


「あ、待って」

「タケル様!」

 梶原家の青年が顔を真っ青にして入ってきた。

 光純の孫で今年17歳、陰陽師を受け継いでいる者だ。


「なんだ、清純か。陰陽師対決の詳細を聞きに来たか? 俺も巻物に書いていたこと以外は知らん。分家と組む義理もないし、自分でどうにか・・・」

「違います。滝夜叉姫が琴音様を完全に乗っ取り・・・」

「は!?」


 ガンッ


 立ち上がって、清純の胸倉を掴む。


「どうゆうことだ?」

「で、出ていきました。琴音様は黄泉に行ったため、自分がこの体をもらうと言って・・・・結界を自分で・・・・」

「琴音が・・・」


「黄泉ってことは・・・死んだのか?」

 しいなが食事の手を止める。


 腕の血管が浮き出た。

「お前ら分家が滝夜叉姫に何かしたわけじゃないだろうな!?」

「我々は何もしていません! 本当です! 滝夜叉姫が放たれたということは、我々だって危険ですから」

「今まで何ともなかったのに急に死ぬわけないだろ!?」

 手に力が入る。


 ジジジジ ジジジジ


 高まる霊力で、テレビの音が途切れていた。

 電気がチカチカ点滅する。


「タケル様、落ち着いてください! 俺は事実を・・・」

「落ち着いてられるかよ! いきなり死んだなんて!!」


「タケル」

「・・・・・・・」

 リヒメが隣に来て、手を添える。


「ねぇ、滝夜叉姫がどこに行ったのかわからないの?」

「わからない。俺たちだって止めようとした。でも・・・」

「『侏儒の遊び』を勝ち抜いて、。大渦日津神の掌の上だな」

 清純から手を放す。


 どうあっても、俺を参加させるつもりか。


「11月23日・・・・」

「黄泉の穢れが近づくな。僕も氏子を守れるよう、備えなければ」

 猿田彦さんが低い声で言う。


「大丈夫、私も協力するから」

「リヒメ、お前は参加できない。ルールにあっただろ」

「でも・・・・タケルは私のお婿さんなのに・・・」

 リヒメが両手を握り締めて、俺と清純を見つめていた。


「そうだな。僕も、リヒメも参加はできない。人間の問題だからね」

 猿田彦さんがリヒメを宥めた。



「・・・・人間の穢れを、大渦津日神に利用されたんだ」

「俺は・・・これが陰陽師の宿命だと思ってます。この血筋に生まれてきたということは、力を抑えて生きることは許されない。陰陽師はそうやって、戦史の裏側で戦ってきたのだと・・・」


「・・・・・・・・」

「これが陰陽師の血筋、阿仁三家です。タケル様」

 奥歯を噛む。

 深呼吸しながら、暴れだしそうな霊力を抑え込んでいた。

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