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39 大渦津神

「九頭龍の姫が正式に阿仁三タケルと婚姻の儀を結んだか」

 大渦津神がまがまがしい霊力を放っている。


「タケル・・・大渦津神は・・・」

「そうだ。せっかく婚姻の儀をしたんだ。餞別をくれてやらないとな」

 シチリュウを自分の手に載せたまま話す。


「災害でも起こす気か?」

「あー今の時代、建物が強化されたりしてるから、災害を起こしてもすぐ立て直しちゃうんだよ。だから、こまめにやる程度に収めてるんだ」

「・・・・・・」

 何か言いかけたリヒメを、手を挙げて止める。


「これから始めるのは、陰陽師対決だ」

「は?」

 大渦津神が両手を広げて笑う。


「いろいろ調べててね、考えが具体的になった。陰陽師が争えば、邪神同士が争うことになる。邪神の中には疫病をもたらすもの、災害を起こすもの、最近では隕石を落とすものまでいる。能力は様々だ。何も、俺が動かなくても、国が揺らぐような戦乱の世を作れるんじゃないかって」

「ごほっごほ・・・・」

 黄泉の穢れに、リヒメが軽くむせる。


「懐かしい、平安時代だ。お前もいただろう、あの時のような・・・」

「政治にでも口出しするつもりか? じゃあ、俺は関係ない。子供だからあいにく選挙権もないし、父親が政治家とかでもない。ただの陰陽師だ」


「違う、ごくごく普通の子供だよ。俺が選ぶ陰陽師は次世代を担うお前のような子供たちだ」

「ますます無駄だ」

「ん?」

 黄泉の穢れで大渦津神の足元が黒く染まっていく。


「陰陽師なんてどこも廃業寸前なんだよ。神々への信仰も薄い。お前の思い通りにはならないよ。早くその龍をよこせ」

 手を出そうとすると、大渦津神がふわっと飛んで、後ろに下がった。


「待てって。そう焦るな」

「クソ・・・・」

「黄泉には神具を持ってこれないもんな。お前が、ここで戦えないのは知ってるぞ。のこのこと黄泉に来るような阿保ではないと思ってたんだけどな」

「・・・・・・・・・・・」

 木々がざぁっと揺れていた。


 黄泉に入った時点で、大渦津神に抵抗はできない。

 考えが甘かったか。

 イザナギノミコトが出てくれば何か変わると思ったんだが・・・。


「タケルに何をする気?」

「リヒメ」

「私はタケルのお嫁さんだから。何があっても、守る」

 リヒメが自分の腕を龍化させていた。


「ここで戦うつもりはない。タケルは必要だ。戦に巻き込む陰陽師を見繕うのも楽しみの一つ。チートがはやる今の時代だ、いきなり力を与えればそれなりに動いてくれるだろう」

 大渦津神が口に指を当てて、にやりと笑う。


「津守家、加茂家にでも力を与えるつもりか?」

「言っただろ。チートがはやる今の時代だって。努力なくして、強大な力を得る。そのほうが、俺のいうことも聞きやすそうでいい。古い奴らや、血筋がどうとかは無視する。俺が時代に合わせて見つけてやる」

 強い口調で言った。


「何を・・・・」

「そうだな・・・戦闘方法も違うようだ。せっかく黄泉の穢れである俺が動くんだ、いろいろ工夫しなくてはいけないな。邪神も喜んで力を貸すだろう」

 大渦津神がシチリュウを投げる。


「こいつは戻そう。うん。よきことを思いついたからな」

「シチリュウ!!」

 ユミが慌ててキャッチしていた。

「よかった。温かい」

 鼻水をすすりながら泣いていた。


「何をする気だ?」

「はははは、お前らが黄泉に来てくれたおかげだぞ。お前についていた穢れが提案してくれたのだからな」

「!?」

 小鬼のような一つ目の妖怪が、大渦津神の肩に載っていた。


 邪神・・・荒星こうせいか?

 まさか、つけていたとは。油断していたな。


「時代に合わせるか。なるほど、今はそうゆう世の中なのだな。物足りない気もするが、それでよき穢れが広まるならいい」

「お前・・・・」

「早急に、傀儡を選ばなくては」

 足元に結界の陣が展開されていた。


「現世に戻してやろう。タケル、お前以外の者の黄泉での記憶は消してやるぞ」

「どうして・・・?」

 リヒメが前に出ようとしたのを止めた。

 

「リヒメ、こいつにかかわるな。お前が耐えられる穢れじゃない」

「はははは、そうだな。どうする? 記憶は消したほうが、タケルも戦いやすいだろう。タケル、お前が決めてよいぞ」

「・・・・・・・」

 リヒメがこちらを見る。


 確かにな。大渦日神は痛いところをついてくる。


「私、タケルと同じ記憶を持っていたい! だって、タケルばかりに苦しい思いをさせたくないから。辛いことは分け合いたいの。記憶を奪わないで。タケルに・・・」

「リヒメ、ごめん。消してくれ」


「了解」


 ドンッ



「きゃっ」

 結界が光りだしていた。

 黄泉から現世に向かって上昇していった。



 目を閉じる。

 土の匂い、火の匂い、雨の匂い、晴れの匂い・・・。

 死者の通る道を飛んで、現世に向かっていた。


 懐かしい匂いだった。

 リヒメをこんなところに、連れてきたくなかったな。



 スッ・・・・



 濡れた地面の感触がする。

「シチリュウ!!」

 リュウイチたちが駆け寄ってくる。


「ユミさん!」

「リヒメ!!」

「眠ってるだけだ。じきに目が覚める」

 気を失ったリヒメとユミをゆっくりとリュシロウとリュウジに預ける。

 記憶がどうなってるのかはわからないけどな。


「タケル君は無事かい?」

「俺は霊力が高いんで。リヒメとユミさんは疲れただけです。シチリュウさんももうすぐ目を覚ますでしょう」

「シチリュウはどこにいたんだ? まさか、完全に黄泉に・・・」

「入ってません。イザナギノミコト様にも会ってません。まだ、現世と黄泉の間にいたので、連れてくることができました」


 嘘をつく。

 シチリュウがいたのは、完全に黄泉だった。


「はぁ・・・・よかった」

「とにかくお疲れ」

 リュウイチが肩を叩こうとしてきたから、咄嗟に避けた。


「すみません。俺には黄泉の穢れがついてるので」

「あ、あぁ、そうだったね。ごめんごめん」

「俺も清めてきます。3人に関しては、ここに来る途中に清めてるので大丈夫かと思います。ただ、筆がなかったので、いつもの浄化ほどの威力はありません。まだ穢れがあるようだったら、鈴を鳴らしてやってください」 

「わかった。ありがとな、タケル君」

 

 リュウジが敷いたパーカーの上で、すやすやと眠るリヒメを見つめる。

 俺なんかと婚姻を結ばなければ、適当に邪神を倒すだけでいられたはずなのにな。



 湧き水で手を清めながら、ふっと息をつく。

 しいなが隣に屈んだ。

「何かあったんだろう? 私はお前の式神だ。どうせ遅かれ早かれわかる話だぞ」

 髪を耳にかけてこちらを見る。


「黄泉には大渦津神がいた」

「・・・・・・・・」

 しいなが一瞬固まった。

「ほぉ・・・運が悪かったな」

 包帯解いて、手の傷を眺める。


「陰陽師対決が始まる」

「陰陽師対決?」


「平安時代と同じことをしたいのだろう。でも、どうやって・・・・」

「ん?」

 滝夜叉姫といい、大渦津神といい、どうして戦乱の世を求めるんだろうな。

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