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38 黄泉の国

 ユミが神楽鈴を逆さまにしながら、黄泉の言葉を唱える。

 生者には聞こえない言葉だ。


 ― (我は黄泉に渡りし者の半身である。黄泉の扉をここに出現せよ)―



 ゴオォォォォォォ


「!!」

 地面に黄泉への扉が現れる。


 バタン


 ユミが手をかざすと、扉が開いた。

 どこまで行っても真っ暗な地下への階段のようになっている。


「これが黄泉の空気。何度見てもぞくっとします」

 ハチルがのぞき込んで身震いしていた。


「あまり近づくなよ。ハチルの場合、落ちたら戻れないからな」

「リュシロウ兄さんもですからね」

 ハチルがリュシロウに対して、少しむきになっていた。

 確かに、2人の霊力じゃ冥界から戻ることはできないな。


「リヒメは本当に行けるのか?」

「タケルと婚姻してるから大丈夫。霊力は夫婦で分け合うものでしょ」

「なんだかよくわからんが・・・・」

 頭を掻く。

 リヒメに霊力を分けてる感覚はないんだよな。


 本当に、婚姻の儀が成立したのかも疑問だ。

 薬指にはめられていた指輪は、いつの間にか消えていた。


 確認してる時間もないか。


「ユミさん、すまないね。シチリュウが迷惑をかけて」

「とんでもない。迷惑だと思ってない。私がシチリュウに会いたいから行く」

 シチリュウはリュウサブロウが敷いた毛布に寝かされていた。

 頬の鱗は黒く硬くなっている。


『では、リュウイチさん、行ってくる。シチリュウの体をよろしくお願いします』

「もちろん。3人とも気を付けて行ってきてくれ」

『はい』


「いってきまーす」

「リヒメ・・・」

 リヒメが勢いよく階段を降りて行った。

 怖いもの知らずか。

 リヒメの後に続いて、黄泉の中に入っていく。


 黄泉には黄泉の穢れの神、大渦津日神がいる。

 変に関わってこなければいいんだけどな。


 


「黄泉の国に入るのは久しぶり」

 黄泉の国に入ると、ユミの体は透けなくなっていた。


「シチリュウとはずっと幼馴染だった。最初見たときは龍だとは全然気づかなくて、やけに運動神経のいい子だなって思ってた・・・懐かしい、幼稚園だった」

「シチリュウ兄さんが婚姻の儀を挙げたのは、8歳だったの」

「リヒメちゃんは3歳だったね」

 ユミとリヒメが話しながら、黄泉の階段を降りて行く。


 亡くなった者たちが宙を浮きながら、階段のない場所をさ迷っているのが見えた。

 ここにいるのは、死んで日の浅い者たちだ。


 死んでいることを受け入れられない者もいる。

 生きていたことすら、忘れようとしている者もいるのだろう。


 異世界転生とかあるけど、意外と死んだ直後って地味なんだよな。


「ユミさんは、8歳で冥婚を挙げたのか」

「早いよね」

「私の場合特殊・・・ここにいる者たちみたいに、最初は死を受け入れられなかった」

 ユミが冥界のごつごつした岩を見つめながら言う。


「通学中の交通事故で死んだ。でも、まだ死にたくなくて・・・シチリュウに会えなくなるのが嫌で・・・黄泉の国を飛び出して、ずっと学校の端っこにいた」

「よく穢れなかったな」

「お化け騒動は起こしちゃった。学校の七不思議として残ってる」

「どんな七不思議?」

 リヒメがユミをのぞき込む。


「えっと、2-2組に行くと窓に死んだ女の子が映るって。面白くて日差しの加減で、自分の顔が映る場所を探してたら、そんな噂がでてきて・・・・」

「ビビっただろうな」

「驚かせるつもりなかった。暇だったからやってた」

 ユミが俯いて思い出し笑いをしていた。

 霊界って、たまにそうゆうバグみたいな場所があるんだよな。


「そうしたら、リュウイチさんに冥婚を勧められた。シチリュウも私のこと好きだって言ってくれた。だから、冥婚の儀で伴侶となった」

「いいなぁ、ロマンチックで」

「ロマンチック?」


「冥界と現世の者同士の婚姻って、なんだか素敵だなって思って。深い愛がなきゃできないことだから」

「リヒメちゃん、婚姻したら楽しいことたくさん。私、シチリュウと婚姻できてよかった。必ず、戻さなきゃ」

「うん!」

 リヒメが笑顔で頷いていた。


「・・・・・・・」

 リヒメの考えることはよくわからない。

 冥婚のどこがロマンチックなんだ?


 サアァァァァァァ


 黄泉の風が吹く。

『死にたくなかった』

『まだ生きていたかった』

 しばらく歩いていると、輪廻転生の輪に入れない者たちの声が聞こえてきた。


 現世に未練を残した者たちだ。

 20代くらいの男性と、5歳くらいの子供が川を挟んで向こうで泣いていた。


『誰?』

『生きてる者? 生きてる者の匂いがする。音がする』

『現世に行くなら僕たちを連れて行って』

 

 バシャン

 

 黄泉の国の者が川に飛び込むと、急に川の流れが強くなった。


「・・・・・・・・」

 リヒメが無視して歩く。


『死にたくなかったから、戻りたい!お願い。お願いします。せめて、お父さんとお母さんに・・・!!』

「な・・・・・」

「ダメ」

 ユミが立ち止まりそうになると、リヒメが手を引いた。


「冥界のルールだ。死んだ者の声に反応してはいけない、何かを残してもいけない。願いを聞き入れてもいけない」

 淡々と話す。


「そうそう、タケル、よく知ってるね」

「・・・・一応、これでも陰陽師だからな」

「なるほど。陰陽師って万能・・・」

 知ってるのは、陰陽師だからではないけどな。


 俺は冥界に来たことがある。

 はるか昔に・・・。


「でも・・・可哀そう。死ぬのがつらい気持ち、よくわかる・・・・」

「助けたいのはシチリュウだろ?」

「!!」


「目的を見誤るな。ここは黄泉の国だ」

 強い口調で言う。

 ユミがはっとして、髪を耳にかけた。


「うん。シチリュウを助けに来た」

「じゃあ、他の者も救えると思うなよ。普通の人間は死から抗えない」

「わかった」

 ユミが下を向いて、ぐっと目をつぶっていた。




「黄泉の地図ってないのかな? GPS機能ついてたらいいのに」

「GPS機能のある黄泉の国なんか行きたくないだろ」


「なかなか見つかりませんね。イザナギノミコト様がいれば、聞こうと思っていたのですが・・・」

「道案内を頼みたいね。どうしようかな」

 黄泉の国は広い。

 歩いているうちに帰れなくなる可能性もある。


 本来であれば、シチリュウは黄泉の国に来たばかりのはず。

 こんなに奥に行くはずがないんだが・・・。



「急に明るくなったね」

 空がオレンジ色に変わっていた。

 山のような場所の手前まで来たところだ。


「あれ?」

 巨大な木のふもとに、小さな一体の龍が眠っていた。

「シチリュウ!!」

 突然、ユミが走り出す。

 両手で触れそうになったとき、足のすくむような霊力が走った。


『やぁ・・・・』

 俺と同じ姿をした者がシチリュウの前に立っていた。

 大渦津神だ。


「タケルと同じ・・・?」

「な・・・何の用? 私はシチリュウを助けに来たの!」

「大渦津神・・・・」

 リヒメとユミを後ろにやって、大渦津神に近づいていく。


「タケル!」

「どうしてシチリュウがここにいるんだ? まだ、黄泉の国に来たばかり。本来であれば現世と黄泉の間にとどまっているはずだ」

「俺が連れてきたんだよ。可愛い龍がいるなって」

 大渦津神が笑いながら言う。


「タケルこそ、黄泉に来るとは思わなかったよ。そうか、九頭龍の姫と婚姻したときに・・・・なるほどね」

「シチリュウを返してもらう。龍を集める趣味なんかないだろ?」

「俺は龍が好きなんだ」

 シチリュウを掌に載せながら言う。


「災害を起こすのを手伝ってくれるからさ。さっきの災害は中途半端だった。やっぱり、やるならそこそこ犠牲者を出さなきゃ。黄泉の国のほうが暇なんだよね」

「!!!」

「・・・・リヒメ、動くな」

 腕を伸ばして、リヒメを止める。

 大渦津神がリヒメのほうを見て、動揺する表情を楽しんでいた。   

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