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37 黄泉へ下った龍

 筆で浄化の文字を書く。


 しゅううぅぅぅぅぅぅぅぅ


「リュウイチさん!!」

「あ・・・・」

 九頭龍の穢れを浄化する。


 九頭龍が人間の姿に戻った後、穢れが深くリヒメ以外は目を覚まさなかった。

 リュウイチ、リュウジ、リュウサブロウ・・・と順次体を起こしていく。

 頬や首筋、腕や膝に、かすかに龍のうろこの跡が残っている。



『さすが、滝夜叉姫の兄だな』

 時空を超える龍がこちらに目を向けた。

 雨に濡れ、岩にあたっても、全く傷も穢れも負っていなかった。


「滝夜叉姫を知ってるのか?」

『もちろんだ。我が誕生して1200年、すべてのことをしっかりと見て感じ記憶しておる。滝夜叉姫は、まだ一族を殺された恨みを持っているのか』

「そうみたいだな」


「兄さん!」

 リヒメがリュウイチたちのところに駆け寄っていって、清めの水を飲ませていた。


「・・・老龍だから適当なこと言うが・・・」

『老龍とは失礼な奴だな』

「俺は、滝夜叉姫が悪い奴には思えない。何百年も孤独のまま、何かを守ろうとする可哀そうな姫に見える」

『・・・・・』


「琴音から引きはがしてやりたいと思う。でも、殺せないんだ。その気になれば、できるはずなのに・・・。俺は、いつか邪神になると思うか?」

『思わぬ』

 時空を超える龍が台座に座りなおす。


『お前にはリヒメがいるだろうが』

「リヒメがいなかったらだよ」

 軽く息をつく。


「人に依存するのは危ないだろ? そうゆうやつらをたくさん見てきた」

『はははは、リヒメは神の一柱だ』

「神が万能か、俺にはわからない。だから、リヒメは俺にとって普通の女の子だ」

 龍が目を大きくする。


「なんだよ」

『別に・・・何でもない。歴史は上書きされるな。死人に口なし、勝者の特権だからな。そうやって、事実とは違う歴史書を何冊も読んできた。人の空想も、面白いものだ』

「理不尽な世の中だよ。ま、死人に口なしは確かだけどな」

『老龍と言われたから我も適当なことを言うが・・・』


 ハチルがゆっくりと体を起こして、腕を回していた。

 カナエさんが軽く鈴を鳴らして、残った穢れを祓っている。


『前世のお前は英雄だった。誰が何と言おうと、な』

「・・・・・?」

『だから、祀られたんだろう。怨霊だからではない』

 振り返ると、台座にいた龍が岩になっていた。


「な・・・・つか、マジで適当なこと言うな。岩になってるし」

 岩の周りに湧き出ていた水が増えていく。

「適当な言葉を残しやがって」

 ため息をついて、リヒメのほうに歩いていった。




「全員目を覚ましたか?」

『シチリュウが!!!』

 リュウイチの呼びかけに、シチリュウだけが青白い顔で座っていた。

 実体を持たない幽霊のような少女がシチリュウに呼び掛けていた。


『シチリュウ、起きて。起きて、大丈夫?』

「穢れをすべて引き受けていたようだま」

「確かに、俺たちあれだけ穢れを受けても残らなかったもんな。シチリュウ、大丈夫か?」

 リュウジがシチリュウの傍に座る。


『穢れが抜けない。これじゃあ・・・』

「骨までいってるな・・・」

 シチリュウの顔を見ながら言う。

 目は開いていたが、ぼうっとしていて意識がなかった。


「そいつの魂は黄泉の川を渡った」

 しいながりことももを連れて、近づいてくる。


「黄泉に?」

「そうだ。穢れを背負って、黄泉に閉じ込められようとしている。もともと弱っているところを連れてきたのが運の尽きだったな」

「どうしてそんなことお前にわかるんだよ」

「九頭龍が崩れる前に、一体だけ邪気に覆われてあまり動かない頭があっただろうが。タケルには見えてなかったかもしれないけどな」


「・・・・」

「ふん、抜けが多いな。戦闘の抜けは命取りだぞ」

 しいなが瞼を重くする。

「偉そうに」

「私も今回はなかなか活躍したからな。感謝しろ」

 ふんぞり返っていた。

 ももとりこが隣で嬉しそうにしている。


「シチリュウ兄さん!」

『彼が黄泉に浸かっている。イザナギノミコト様が彼を呼んでる』

 少女が悲しそうにシチリュウの頬を撫でる。


『私、黄泉に行ってくる。シチリュウを現世に戻すから』

 リュウイチのほうを見上げた。


「黄泉に?」

「・・・シチリュウとユミさんは冥婚を挙げたんだ」

「冥婚・・・・」

 彼女は死後に婚姻を結んだということか。

 現代では考えられないな。


 リュウイチが立ちあがって、周囲を見渡す。


「我々が起こした嵐で、町では洪水が起こってるだろう。人々にも被害があったはずだ。九頭龍は、大蛇双の毒に吞まれ、制御が効かなくなり、あと少しで人間たちの生活も命も奪うところだった」

「自我を失ってましたね。でも、シチリュウ兄さんが・・・」

 ハチルが頭を抱える。


「シチリュウ兄さんはいつもこうやって背負ってしまうんだ。優しすぎるから」

「あれは九頭龍のせいじゃない。九頭龍がいなかったら大蛇双はもっと大きな災害を起こしていた。誰かのせいだとしたら、滝夜叉姫だ」

 立ち上がって、数珠をしまう。


「天照大神に聞いたらどうだ?」

 リュウイチに言うと、首を振っていた。


「天照大神が我々の一柱をイザナギノミコトのところへ行かせた。我々は祀られる神として許されないところまでいってしまった」

 イザナギノミコトは黄泉にいる神だ。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 少しの沈黙が流れる。


「リュウイチ兄さん、私とタケルが黄泉にお供します」

「え?」

 リヒメがすごいことを言い出した。


「どうゆう意味だ?」

「冥婚を挙げれば黄泉と最初から死んでいた伴侶は現世を行き来できるようになる。ただし、魂の契約は固い。両方が黄泉に行けば、2人とも戻ってこれなくなる」

「だから、龍族の者と人間の生きてる者が現世への案内人として必要なの」

「・・・・・」


「私たちなら大丈夫!」

 強引すぎるだろ。

 リヒメが両手を握り締めて言う。


 頭を掻いた。

 ちらっと周りを見渡したが、龍と人間の組み合わせで動けそうなのは俺たちだけだ。

 巫女は妖精や妖怪も半分くらいいるんだよな。


「幸い、タケル君とリヒメの婚姻の儀は無事終わった」

「はい」

 リヒメが大きく頷く。


「・・・・・・」

 いつの間にか、右手の薬指に金色の指輪がはめられていた。


 天照大神が承認したからか。

 儀式という、儀式はやってないような気がするが。


「ね、タケル」

「わかったよ。黄泉に行くか。しいな・・・・」

 しいなに数珠を渡す。


「ん?」

「持っててくれ。黄泉は着衣以外の現世の物を持っていくことは許されない」

「ほ、本当に黄泉に行くのか? 死んでないのに」

 数珠を受け取りながら戸惑っていた。


「式神は呼ばない。安心しろ」

「そうゆう問題じゃ・・・・」

「大丈夫。タケルは絶対に私が連れて帰るから」

 リヒメが黒水晶のような瞳を輝かせながら言う。


「約束する。必ず!」

「・・・じゃあ、信じてやるか。嫁とは認めてないけどな」

「でも、嫁だからね」

 リヒメとしいながバチバチとにらみ合っていた。


 体を伸ばして、シチリュウを見下ろす。

 確かに、黄泉にはいってるな。


 イザナギノミコトってイザナミノミコトが逃げ出すほどの容姿らしい。

 リヒメと関わってから、本当に厄介ごとにばかり巻き込まれる。


「タケル、私がついてるから大丈夫だよ」

 リヒメがにこっと微笑む。


「・・・あぁ」

 まぁ、仕方ないか。

 元は滝夜叉姫の起こしたことだ。


「?」

 ふと、台座で岩に戻ったはずの龍がこちらを見て笑った気がした。

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