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34 止まらず

「タケル様!」

「ん?」

 カナエと色白の背の高い女性が鈴を持ったまま、こちらへ駆け寄ってくる。


 巫女たちは傘もささずに、絶えず清めの鈴を鳴らしていた。

 妖精たちはベルのようなものを鳴らしている。


 人身供養の穢れくらいは消せるが、九頭龍がここまでなると8人集まろうと何もならないな。


「リュウイチの巫女であるサクラと申します」

「私たちは九頭龍が負けるとは思っていません。でも、このままでは」


「大規模な災害になるな。間違いなく」


 ゴォオオオオオオオ


 九頭龍と大蛇双がぶつかり合うたびに、災害級の突風が起こっていた。

 箱根山を噴火させてしまう可能性だって、ゼロではない。


「私たちは九頭龍を浄化することしかできませんが・・・」

「待て。お前ら、体力がもうないだろうが」

 しいなが巫女のほうを見ながら腕を組んだ。


「鈴が黒くなりつつある。腐るぞ」

「ま、まだ・・・大丈夫です」

 サクラが息を切らしながら言う。


 生身の人間や、ただの妖精や妖怪じゃ浄化しきれないだろうな。

 相手が相手だ。雨脚も収まって太陽が照らさない限り。


 じゃらん


 数珠を伸ばす。

「九頭龍と大蛇双は俺が抑え込む。君たちは小屋の中に入って休んでていてくれ」


 ドンッ


 グアァァアアァアアアア


 九頭龍が大蛇双に噛みつく。

 大蛇双子は悲鳴を上げながらも、九頭龍を締め上げようと回り込んでいた。


 雷鳴が轟く。


「人の犠牲が多い場所だ。1300年くらい前からか?」

 しいなが息をつく。


「邪神のことを言えないだろうが」

「人身供養は龍に限ったことではない・・・名誉だった時代もあるからな」

 着物の袖で顔を拭った。

 九頭龍が霧に隠れて、見にくいな。


「私は!」

 サクラが声を上げた。


「私は九頭龍に嫁いだことに後悔してないんです。リュウイチさんが大好きで、本当です。だから、自分が供物だとは・・・」

「わかってるって。好んで嫁になったんだろ?」

「あの・・・力になりたいんです。だから、ここで少しでも効果があるならこのまま浄化を続けさせてください。私は大丈夫ですから」

「私も大丈夫です」


 ドン


 ギギギギギギィィィィィィ


「・・・・・・・・・・」

 大蛇双の噛みつきを、鱗を硬化して止めていた。


「このまま大蛇双との戦闘が長引けば、人への被害も出てしまうんです。九頭龍が負けることはないと思っていますが・・・でも、何とかしないと、大蛇双に引きずられて九頭龍まで毒龍に・・・」

 サクラの言葉に、他の巫女からも緊張が走ったのを感じた。


「俺が何とかする」

「え?」

 数珠を出して、九頭龍を見つめる。


「2体とも封印する。しいな、お前はここで巫女たちを守れ」

「フン、面倒だけど仕方ない」

 しいなが双剣を構えて、サクラのほうへ歩いて行った。


「いいか? 状況がわかってないようだから補足するが、九頭龍は理性を失いつつある」

「!?」


「大蛇双には滝夜叉姫が付与した呪符があるから、九頭龍も力で抑え込むことも不可能。でも、九頭龍だって神だ。意地がある。人の言葉を失ってでも、ここで抑え込もうとするだろう」

 しいなが濡れた袖をまくる。


「大蛇双は毒龍。このままでは疫病を起こしてしまうからな」

「そ、そんな・・・・」

「じゃあ、なおさら・・・・」


「ここで戦えるのは、タケルだけだ。あとは足手まといになるってことだ。私も含めてな」

 靴の泥を払う。


「タケル様・・・・」

「そもそも、あいつが来たのは俺のせいだしな。尻縫いはする。しいな、頼んだぞ」

「了解だ」

 しいなが剣を構えてうなずいた。



 ― 来い、青龍 ― 


 結界から青い龍が飛び出してくる。

『おぉ、九頭龍と蛇ですか。大変なことになっていますね』

 青龍が横についた。

 軽く地面を蹴って、青龍の背中に乗る。


「まぁな。大蛇双に封印の印を結ぶ。事情があって手こずるかもしれないから、うまく逃げてくれ」

『了解しました』


 青龍が勢いよく飛び上がって、2体に近づいていった。

 巫女たちのほうから俺を呼ぶ声が聞こえたが、雨の音がうるさくて聞こえなかった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 九頭龍と大蛇双に近づくほど、びりびりとした霊力が走っていた。


『大蛇ごときがこんな力を持つとは思えないのですが、邪神か何かの仕業ですか?』

「そんなところだ。青龍、大丈夫か?」

『もちろん、私はピンピンしてます。雨とは飛びやすいですね』

 青龍が大きく翼を伸ばして、上昇していった。


「!!」

 九頭龍は攻撃では大蛇双に勝っていたが、尻尾のあたりから毒の匂いを感じた。

 大蛇双が噛みついたときだな。


 グルルルルルルルル


 九頭龍が大勢を直して、火を噴いていた。

 大蛇双が、片方の頭が滝夜叉姫の呪符を飛ばしてうまく避けていた。


『タケル様、どうしましょうか』

「九頭龍に俺たちはもう見えてないだろう。あいつらの攻撃を避けながらうまく大蛇双にの頭上に運んでくれ。30秒後に縛る。それまで目を閉じるから、頼むよ」

『かしこまりました』


「・・・・・・・・・・・・」

 腕の傷を確認した。


 渦津神の力を借りる必要はない。

 俺だけでやってやる。


『タケル様、行きますよ』

「あぁ」

 目を閉じる。


 シュンッ


 青龍に九頭龍の爪が掠めたのを感じた。



 ― 臨、兵、闘、者、皆、陳、裂、在、前 ―


 基本の厄災避けの九字印を結んで、阿仁三家の口伝の結界印に移る。

 深く息を吐く。


 阿仁三家で使える者はもういない。

 結局、本家の俺にしか受け継がれなかった印だ。



 ― 十、来、古、突、天、地、知唯、消、祈 ―


 数珠の球を変える。


 ― 来、衆、需、呪、浄・・・・・―


 ズキン


 頭が痛んだ。

 滝夜叉姫の呪符のせいだな。


『XXXの要職はXXXばかり、さらに血縁者同士であっても憎しみ争わなければいけない世の中になってしまった』

『XXX・・・・そんな悲観的になってはいけませんよ』

『いや、戦わなければいけないということだろう。甘いことを言っていられない、この身を戦に捧げよう。天照大神にそう誓ってくるよ』


『XXX・・・』

 雨に交じって、誰かの声が聞こえていた。


 目を閉じていると、見覚えのない光景が浮かんでくる。

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