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33 戦

 ざああぁぁぁぁぁああああ


 雨に濡れて、着物が重くなった。

 歴史は勝者の都合のいいように塗り替えることができる。

 たとえ、無垢な犠牲者の屍の上に立っていたとしても。


 人間は嫌いだ。

 見えないものは信じない。書いてないことも信じない。

 勝者の言われるがまま描かれた世界しか、知ろうとしないのだから。


 ドン ゴオオォォォ


「!!」

 九頭龍と大蛇双がぶつかると、地鳴りが起こった。



 ドドドドドッドドドドドドド


 なぎ倒されていく木々を避けていく。

 九頭龍は普段のリヒメたちとは比べ物にならないくらい、一体一体がかなり強い霊力を持っていた。

 その辺の龍なら、すぐに消滅するだろう。


 ウオオォォォォォォ


 龍が咆哮するたびに、雷が起こっていた。


 大蛇双がやりあえているのは、滝夜叉姫の霊力があるからだ。


「なんだ? あの桁違いの力は」

 しいなが剣の星をなぞりながら、天を仰いだ。


『ははははは、楽しいのぉ』

 琴音が笑いながら攻撃を避ける。

 雨が邪魔で視界が悪いな。


『九頭龍が本気になれば、災害だって起こせるだろう。平安の恨みを令和で放つのもよい話だ。奴らも記憶をなくし、転生していることだろう。将門公もそれが望みじゃないのか?』

「俺は橘タケルだ!」

 霊力を流しながら琴音に剣を振り下ろす。

 妖狐の尻尾がバチンとはじいた。


 体勢をねじって、剣で真っ直ぐ突く。


 ズン


 琴音が剣で弾いた。

 やはり、強いな。


「前世で何をしたか、何してきたかなんて興味ない」

『ふふふふ、私はしっかりと覚えている。我が一族がどんな扱いを受けたか。将門公はまだ思い出さぬだけだ。でも、まったく何も見覚えがないというわけではないだろう?』

「っ・・・・・」

 琴音の霊力が高まる。


 ゴオオォォォ


 雨脚は強くなるばかりだった。

 九頭龍が大蛇双に雷を流すと、大蛇双が鋭い爪で切り裂いていた。


『九頭龍だって今は神の真似事をしているが、あれが本来の姿だろう。人間を供物にして崇めなければいけないほどの強さを持っていた』

「そんなに向こうが気になるか? お前と戦ってるのは、俺だろう」

 雨を拭って息をつく。


『よきことを思いついてな』

「・・・・・・・・!」

 剣を解いて、数珠に変える。


 長引くほど、この地に災害が起こってしまう。

 九頭龍も大蛇ごときにここまで苦戦すると思っていなかったのだろう。


 じゃらん


「?」

「私は雨の影響を受けないぞ」

 しいなの剣が二つに分かれる。

 後ろから飛び上がって、琴音を取り巻いている霊力を削いでいた。


 ガン ガン ガン ガンッ


「お前に恨みがある。よくも、よくも・・・・」

『ほぉ、最近現れたと聞く”星”の名を持つ邪神だったのか。それでこそ将門公に仕えるに相応しい』

 新たに生成した双剣で戦う。

 しいなは双剣を持って、うまくバランスをとっている。


「よくも寧々を閉じ込めてたな!」

『私のところにいて良き妖狐となっただろう』

「勝手なこと言うな!! 寧々は私の大切な眷属だ」 


 数珠を清めながら、霊力の流れを確認する。


『ふふふ、私の力をうまく使っているようだな。いい人形になった』

「私は人形じゃない! アイドルだ!」

 しいなが強くなったのは琴音が寧々に霊力を与えて育てていたからだろう。

 寧々はしいなの背中にぴったりくっついて隠れていた。


 ザン ガンッ ガン


 しいなが戦闘している間、九頭龍と大蛇双の戦闘を見つめていた。


 九頭龍が大蛇双を山に押し付ける。


 ガザザザザザザザザザー


 大蛇双の咆哮とともに、土砂崩れが起こっている。

 巫女が鈴を鳴らしているのは、毒龍にならないよう穢れを祓っているからだ。


 まさか、琴音の目的は、最初から・・・。

「しいな、下がれ」

 しいながすぐに察知して、俺の後ろに来た。


 ― 浄業炎 ― 


 数珠を一つ弾いて炎を放つ。


『気づいたか』

 琴音が雨の中に燃え続ける浄化の火の中で、笑みを浮かべる。


「タケル、祝詞を唱えないのか?」

「こいつは本体じゃない。ただの紙だ」

「は?」


 バシャン


「嘘だろ。こんなに強いのに・・紙だと?」

 琴音が微笑みながら、剣を筆に変えていた。 


「滝夜叉姫・・・」

『九頭龍も、将門公のものとするのなら悪くないな。思っていた以上に、贄も多いようだ。じゃなきゃここまでの力は持てないだろうからな』


「・・・・琴音を返せ。琴音から抜けろ」

『歴史書はやはり信用ならないな』


「タケル!!」


 ドッ


 地面を蹴って、琴音が持っていた紙に剣を伸ばす。


 届く前に琴音が妖術の言葉を唱え終わっていた。

 人型の紙が地面に落ちて雨に濡れる。


「!?」

『将門公の新たな式神とも遊べた。将門公よ、平安で亡くなりしときより、力は衰えず、高まるばかり。私は嬉しい限りだ』


「・・・・何を言ってる?」

『その平安の着物、いと懐かしき。やはり、貴方は気高く美しき武将、将門公にあられる』


「強情な奴だな。人の話を聞いてるか? んな奴知らないって言ってるだろ?」

 琴音が筆を消した。


『剣を交えたときより、わかっている。いまだその魂に刻まれし、憎しみの血が消えていないことを。私がこの時代に生まれてきたのは、将門公に思い出してもらうためなのかもしれぬ』

「・・・・・・・」

 尻尾が一つずつ消えていく。


「何をする気だ?」

『私が持ってきた残りの霊力を全て、大蛇双に与えるとしよう。九頭龍への餞別だ』

 琴音が手をかざすと、浄業炎の炎が一瞬にして消滅した。


『次会うときは、さらなる力を溜めておこう。試しに外へ出てみたが、世に穢れが溜まり、悪鬼がうろつき、邪神が生み出されている。戦乱になりつつあるではないか。やっぱり外に出たほうが楽しいの』

「っ・・・・・・」


『また、会おう。私の父・・・いや、今は兄か』

 琴音が目を細めて、煙のように消えていった。


 ドドドドン


 ガッ


 突然、大蛇双が九頭龍を押しのけて、噛みつく。


 グアアァァァァァアァァッァァ


 一体の首から血が流れていた。

 九頭龍がいったん下がって、体勢を立て直していた。


「ったく、お前の妹強すぎだろ」

「言っておくが、琴音は素直で可愛いからな」

「ふん、シスコンが」

 しいなが雨に濡れた髪を一本に結びなおしていた。 

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