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32 九頭龍

「あれは俺の妹だ」

 琴音が満足げに笑っている。

 大蛇双が手を硬化して振り下ろそうとしてきた。


 ― 呪詛剣 浄衆阿修羅 ―


 ガンッ


 剣を出して、龍の手を止める。

 本来の力よりも重いのは、滝夜叉姫の霊力が高まっているからか。


「タケル!!」

「リヒメ、近づくな」

 リヒメを制止すると、琴音が嬉しそうに笑う。


『将門公はまだ目覚めてないだけだ。私のようにな』

「俺は俺だ!」

 霊力で弾き飛ばす。



 ガガガッ


 大蛇双が痛そうに、足を引っ込めていた。

 片側の頭は暴れたそうにこちらを見ている。


「前世は関係ないんだ。お前も・・・」

『忘れてるなら、思い出させるまでだ』

 琴音が大蛇双の足のほうに手をかざして、霊力を流していた。


「大蛇双と夜叉姫よ、九頭龍の領域で暴れるとは、どうゆうことかわかってるのか?」

『九頭龍が私に指図する気か? 面白い』

 リュウイチが弓矢を大蛇双の頭に向かって放つ。


 シュウウゥゥゥゥゥゥ


「!!」

 矢が焼けて塵となり、消えていく。


『ククク、私がいるのだ。その矢ごときが貫通するわけないだろう?』

 琴音が笑いながら言う。


『この狭い洞窟で戦う気か? 壊してしまうぞ。なぁ。大蛇双よ』


 オォォォォォオオオオオ


 大蛇双が咆哮をあげると、天井から岩が崩れ落ちてきそうになっていた。


 浅く息を吐く。俺なら戦える。

 でも、この洞窟はさすがにやりにくいな。


「琴音・・・」

「タケル、心配しないで」

 リヒメが隣で頷いた。


「ここは封印の洞窟なの。九頭龍はそろってる。封印を解けばいいのよね? リュウイチ兄さん」

「あぁ、タケル君もいろいろ事情があるみたいだね」


「・・・はい」

 剣に一気に霊力を流して、襲い掛かる龍の爪を受け止める。



「俺は・・・」

「でも気にしなくていい。我々は九頭龍だ。何があろうと引け目に感じることはない。リヒメが君を選んだのだから」


 リュウイチが指を動かす。

 石像の龍が持っていた宝玉が、リュウイチの手のひらに落ちてくる。


「リュウイチ兄さん! シチリュウを連れてきました!」

 ハチルがいつの間にか、シチリュウの手を引っ張っていた。

 金髪でピアスをつけたホストのような姿をしている。


「・・・・禊は終わってなさそうだが、仕方ない」

「了解です」

「暴れるのは久しぶりだなぁ。まぁ、夜叉と大蛇双が相手となれば天照大神も許してくれるだろう。封印を解く」

 リュウジが剣を立てる。


 ― 清め給へ、祓い給へ XXXXX XXXX ―


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


『そう来なくては、面白くないわ』

 琴音が手に口を当てて笑う。

 龍語で祝詞を唱えると、洞窟の天井が割れた。


 ゴゴゴゴゴロ ゴロゴロゴロゴロ


 空には雨雲が立ち込めて、雷が轟いている。


 しいなが大蛇双の隙を見て駆け寄ってくる。


「タケル、こいつらどうする気だ?」

「俺とお前で、琴音の相手をする。大蛇双はいったん、九頭龍に任せよう」

「・・・わかった」

 しいなが霊力を整えながら、剣を持っていた。 



 シャン シャン シャン


 巫女たちが鈴を鳴らして、龍の像の周りに集まっていた。

 穢れ祓いか。


「リュウサブロウ兄さん、勝手にどっかいかないでね」

「リュシロウには言われたくないね」

「兄さんたち、はしゃぎすぎだって。完全体になるんだからどこか行くなんてことはないでしょ」

 ハチルが呆れたように言う。


「リュウイチ、リュウジ、リュウサブロウ、リュシロウ、リュウゴロウ、ロクリュウ、シチリュウ、ハチル、リヒメ、我らの力を一つに」


 カッ


 リュウイチを中心に光が走る。

 9人の人の姿は消えて、巨大な九つの頭を持つ龍となった。


「これが九頭龍・・・」

「リヒメたちの本来の姿だな」

 大気が震えていた。

 おそらく、山を一つ崩すことのできるほどの力を持っている。


 毒龍となれば、取り返しがつかないな。


「滝夜叉姫、その大蛇ごときが敵うわけないだろ。早く撤退したほうがいいんじゃないのか?」

『ふふふふ、大蛇双には我が呪符を与えてやろう』

 琴音が半紙に筆を走らせて、大蛇双に張り付けた。


 ドドドドドドドドドッ


『頼んだぞ』

 琴音がふわっと飛び降りた。

 大蛇双が九頭龍と同じくらいの大きさになっていく。


「霊力を付与したか・・・」

『そうだ。私の霊力を与えてやったのだ。九頭龍に踏みつぶされて終わりということはないだろう。あやつも元は毒龍だったのだからな』


 琴音が筆を回して、剣に変える。

 空を見上げて笑っていた。


『たまには外の世界もよい。癖になりそうだな』

 地面を蹴って、琴音に剣を振り下ろす。


 ザッ


『私と戦うか?』

「九頭龍と大蛇双の戦いを見ているだけじゃ暇かと思ってな」

 琴音が遊ぶように剣を切り返してきた。

 飛び上がって避ける。


『まぁ、確かに暇だ』

 しいなが琴音の懐に剣を持って、突っ込んでいく。


 カンッ


 妖狐の尻尾がしいなの攻撃を弾いた。


 じゅうううう


 しいなの剣が焼けたようになる。

 すぐに霊力を練り直して剣を元に戻していた。


 ドンッ


 ザアアァァァァァァァァアアアアアア


 大蛇双と九頭龍がぶつかり、バケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。

 予報にない、災害にもなり得る、土砂降りだ。


『よきな。贄の声がよく聞こえるわ』

「・・・・・・」

『私にはその者の気持ちがよくわかる。奴らは名のなき犠牲者で、神々の恥部だ』


「滝夜叉姫・・・」

『他者に都合よく歴史を上書きされた者たちだ。将門公よ。私らのようにな』

 琴音の目が光り、尻尾はいつの間にか三本になっていた。


「言っただろ? 俺は俺だ。琴音を返してくれ」

『・・・・』

 琴音が雨に濡れながら両手を広げていた。

 雨に交じって、大蛇双と九頭龍に捧げられた人間たちの声が聞こえていた。


 人や龍、神には聞こえない、悲しみの声が・・・。

 

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