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32 婚姻の儀

 宿から出て、九頭龍の洞窟前の小さな小屋にいた。

 木々に囲まれた、人間の寄り付かない結界の張られている、神の領域だ。


 この領域に入るのは、俺も久しいな。

 真ん中には澄んだ水が湧き出ていて、龍神の力がみなぎっていた。


 狩衣を着て、数珠を袖に入れた。


「そうゆう姿を見ると、やっぱりタケル君は陰陽師って感じがするね」

 ハチルが小屋の中に入ってくる。


「ただの平安時代の着物だ。束帯は持ってないからな。つか、高校生だし、別に制服とかでもいいんだけど」

「まぁまぁ、着物のリヒメにあわせてやってよ」

「・・・・・・」

 息をついて、椅子に座る。

 頬杖をついて、窓の外を眺めていた。


「で? ハチルは何しに来たんだ? もうそろそろ、祭儀が始まるだろ?」

「リヒメにタケル君の式神がべたべたしてないか見張っててって言われて」

 ハチルが気まずそうに頭を掻いた。


「タケル君を信用してないわけじゃなくて」

「俺みたいな陰陽師を婿にするっていうことはそうゆうことなんだけどな」

「え・・・・・」

 袖から和紙を筆を出す。


 ― 黒蝶 ― 


 黒蝶を指に止める。

「俺には式神が常にいる。神々が嫌いな邪神や過去に罪を犯したものだ。この黒蝶も悪鬼から人にはなれず、邪神になろうとしていたところ捕まえた奴だ」

「・・・・・・・・」

「式神を手放すことはできない。それでも、いいのか?」

「リヒメがいいんだからいいんだよ」

 ハチルが前の椅子に座って、足を伸ばす。


「リヒメはさ、9兄弟の中でも霊力が低い。でも、人一倍正義感が強くて、穢れに苦しむ人を放っておけないタイプでさ」

 窓の外の木がさらさらと揺れていた。

「戦闘ばかりで大変な思いをさせたよ。これは、俺含めて、兄さんたちもみんな同じことを思ってる。リヒメには幸せになってほしい」

「俺といても幸せになれる保証はないけどな」

「なれるさ」

 黒蝶がハチルの指に止まる。


「今のリヒメを見たら、想像つかないかもしれないけどリヒメは元々喜怒哀楽が乏しくて、何を考えてるかわからなかった」

「それはないだろ。リヒメは初めて会ったときから、テンション高かったぞ」

「タケル君と出会ったからだよ。本当だ」

 ハチルが嘘をついているようには見えないけど、信じられないな。


 トントン


「リヒメの用意ができたぞ」

 リュウイチの声が聞こえた。


「じゃあ、行きますか」

「あぁ」

 小屋から出ると、しいなとりことももが武器を持って立っていた。

 黒蝶がしいなのほうへ飛んでいく。


「しいな、何かあったら頼む」

「わかってる。これでも私は星の名をもらった邪神だ。すぐに判断し、行動に移す」

「よろしくな」

 大蛇双は必ず来る。


「ここは九頭龍の洞窟だ。どんな奴であろうと、入れないと思うけどな」 

「まぁ、用心に越したことはない」

「九頭龍兄弟、全員に会うのは初めてだったね」

「そうですね」

 8人にその巫女・・・。

 リュウイチとリュシロウは顔も似てるし、覚えられるか微妙だな。


「シチリュウ兄さんも来てるの?」

「スマホでリモート参加だ。巫女は来てる」

「ん? シチリュウさんはなんかあるんですか?」


「まぁ・・・・よくあることなんだが・・・」

 リュウイチとハチルが顔を見合わせる。


「シチリュウは最近邪神との戦闘になったときの穢れが取れていないんだ。今は禊の期間で、この結界内には入れない。危うく黒龍になり、毒をまとうところだったよ」

「シチリュウ兄さんは個人主義だからね。一人でよく動くんだ」

「リュウサブロウ、リュシロウ、リュウゴロウみたいにチームで動いてくれればいいんだけどな」


 九頭龍の洞窟に入ると、キンと張りつめた空気が走っていた。

 リュウイチについて、洞窟の中に入っていく。


 そうだ。

 前世の俺も神に祈っていたな。


 今では記録に残っていないが、当時の国民は苦しんでいた。

 祈っているだけじゃどうにもならなくて、行動していなければいけないと思ったことを。


 怨霊を陰陽師として転生させて、龍神の巫女にするとは、この国の神々の考えることはよくわからない。


「タケル!」

 白無垢を着たリヒメがこちらを見て微笑む。

 九頭龍兄弟とその巫女たちが並んで正座していた。

 ハチルが空いた場所に腰を下ろす。


 神具とともにおかれた鏡の前に、龍の像があった。

「似合うな」

「へへへ、タケルも似合うよ。陰陽師の正装?」

「いや、平安時代の着物だ」


 シャラン シャラン シャラン


 神主の格好をしたリュウジが、数回鈴を鳴らす。

 リュウイチが深々と頭を下げた。


 - たかのあまはらにましまして 

   てんとちにみはたきをあらわしたまうりゅうおうは

   だいうちゅうこんげんのみおやのかみにして・・・・ ―


 巫女が龍神祝詞を唱える。

 リヒメがこちらへと言って、龍の像の前に立たせた。


 時空を超える龍か。

 龍の像の周りには清らかな水が流れていた。


『我を目覚めさせたか、リュウイチよ』

 龍の像の目が光り動き出す。


「リヒメの婿が決まったんだ」

「・・・・橘タケルです」

『そうか。陰陽師か。彼ならリヒメの婿として申し分ないな』

「・・・・・・・・」

 適当だな。

 俺が親だったら、絶対に許さないんだが。


『結婚は年齢的にまだ。となると、婚約の儀か』

「はい。よろしくお願いします」

 リヒメが少し化粧をしていて、唇がほんのりと赤くなっていた。


 おそらくこの洞窟は、昔、人身供養で使われていたのだろうな。

 力を持たない人間の涙が残っていた。


『お前は前世で何か持ってるな? 陰陽師となり、ここへ繋がったか』

「・・・それを知って止めるか」

「駄目!!! タケルは私の巫女だから」

 リヒメが強い口調で言う。


『はははは、真逆の者の縁を結ぶことは珍しいことじゃない。半身であると互いに辛いから、婚姻を結ぶのだ』

「半身?」


『知らぬか・・・まぁよい。では、始めるとしよう』

 龍が手に持っていた、大きな水晶を湧き水に浸そうとした時だった。


 ドーンッ


「くっ・・・・」

「しいな!!」

「我に触るな! 無礼者!!」 

 しいな息切れしながら、剣を構えていた。

 足に細かい傷が見える。


「しいな様!」

「私たちも戦います!」

 りことももがしいなに駆け寄ってくる。


「お前らは出るな。消されるぞ。タケル! 頼む、2人を」

「あぁ」

 数珠を出して、鳴らす。


 ― 動 ―


「きゃっ」

 りことももを強制的に遠くを飛ばして印を結んだ。


『ねぇ、あのときの眷属は私も気に入ってたんだけど。可愛いし、若いし一生懸命で』

「お前になどやるものか!!!」


「誰だ!?」


 ― 清剣 ― 


 リュウサブロウがすぐに剣を構えた。


『ちゃんとぶち壊すから。将門公は、龍神の婿になるにはもったいない』

「将門公?」

「俺は生まれ変わった。ただの人間だ。前世の記憶など知らない」

 数珠を出して、剣に変える。


『でも、私はちゃんと覚えている』

 琴音の背中から妖狐の尻尾が見える。

 化けているのか?


「誰だか知らんが、九頭龍の聖域に入ることは許さない」

 リュウイチとリュウジがそれぞれ、弓矢と剣を持つ。

 頬に龍のうろこが浮き出ていた。


「琴音・・・・」

「琴音?」

 二又の頭を持つ龍の上に、琴音が楽しそうに座っていた。

 牙をむいて、九頭龍を見下ろしている。

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