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30 可愛い可愛い

『奴は沼地に現れし二つの頭を持つ双龍、大蛇双とも呼ばれる。江戸時代に毒龍となり人々を苦しめ、洞窟に封印された。歴史書には書かれていない。封印した陰陽師は阿部家』

「へぇ・・・・」

『九頭龍に沈められたところを、阿部家にやられたため、今も恨みを持っている』


「こいつは?」

「西洋の邪神グリモアだ。歴史書の敗れた部分を記している」

『うん』


「日本の邪神じゃないのにわかるのか?」

『僕の能力に国境はないから』

 手のひらくらいの金髪の少年の邪神が本を広げていた。

 コウモリのような翼を折りたたんで、しいなのほうを不思議そうに眺めている。


「西洋の悪魔か。可愛いな」

『よく言われる。君も可愛いよ』

「心がこもってないな。私はアイドルなのだぞ。可愛いに決まってる」

『可愛い。可愛い。僕が会った中で一番かわいい』

 グリモアが淡々と言う。


「まぁ、そこまで言うならいいだろ。認めてやる」

 しいながまんざらでもないような表情を浮かべた。

 単純な奴だな。


「悪魔にファンと同じものを求めるなよ。それに、グリモアは世渡りがうまいし、口もうまい。真に受けるな」

「私は可愛いのだからな。ファンのペンライトの数もダントツなのだからな」

「はいはい。グリモア、ありがとな。戻れ」


『了解』


 シュンッ


 グリモアが西洋の魔法陣の中に消えていった。



「ま、とりあえずこんな感じだ」

 ソファーに寝転がって、スマホを眺める。


 『すりーすたー』事務所移籍がトレンドに入っていた。

 昨日の配信で、ももとりこが事務所移籍の話をしたらしい。


「こんな感じって、封印を止めなくていいのか?」

「滝夜叉姫が眷属を放った時点で、もう手遅れ。封印は確実に解ける。俺ができることといえば、九頭龍のリヒメが戻ってきたときに、大蛇双が九頭龍を狙ってるって説明することくらいだな」


「フン、やはりお前は金がないと動かないのか」

「当然だ。金はこの国のエネルギーなんだよ」

 しいなが上からこちらを見下ろす。


「では、私とコラボ配信でもするか? お前も日本武尊との動画で有名になっただろうに。今がチャンスだファンがスパチャ投げてくれるかもしれんぞ」

「この時間にお前と配信したらリヒメが荒れるだろうが」

「私はそれを狙ってるがな」

「だろうな」

 しいなが意地悪そうに笑う。ツインテールがソファーについていた。


「邪神の手には乗らない。今日は疲れてるし、もう寝る。そろそろ、りことももも帰ってくるだろうし、その辺で適当にやっててくれ」

「ふん、面白くないな」

 息をついて、ソファーの反対側に座った。


「・・・タケル、お前に野心はないのか?」

「ん?」

 イヤホンをつけようとすると、しいなが話しかけてきた。


「お前の前世は武将だったのだろう? 野心とか、そうゆうものは残ってないのか? 戦で名をあげてやろうとか、政府を滅ぼして新たな世界をとか・・・」

「いつの時代の話をしてるんだよ。今は戦などない平和な世の中だ。まぁ、平和だけじゃ生活できないけどな」


「お前ががその気になれば、戦も起こせるだろうに」

「それに何の意味が意味があるんだよ」

 片耳にイヤホンをさす。


「俺は琴音みたいに前世の記憶がない。まぁ、陰陽師の知識はうっすら残ってるけど、それだけだ。自分が何をしてたなんかどうでもいい。目先の問題は、今金がないってことくらいだな」

「へぇ・・・・」

 しいなの肩に妖狐が飛び乗る。


「つか、あまり詮索してくるなよ。四神でさえその辺わきまえてるぞ」

「私は主に興味があるのだ。変じゃないだろ」

「お前、人間に近いな」


「なっ・・・」

 適当な音楽を聴きながら、しいなのほうを見る。


「俺よりも近いと思うよ。邪神にならなければ、人間に生まれ変われたんじゃないか?」

「馬鹿にしてるのか? 私の影響力を見ただろ? あれほどの悪鬼を生み出す力があるのだからな。あまり見くびるなよ」

「そうゆう意味じゃないって。元々大切にされた人形だったんだろうなと思っただけだ。邪神にしては珍しいよ」


「・・・・!?」

 しいながはっとして一歩下がる。


「く、口説いておるのか?」

「どうしたら、そうゆう解釈になるんだよ。とにかく、純粋な魂は、意外と邪神に利用されやすいんだ。これからは俺が利用するけどな」

「・・・知ったような口を・・・・」


「俺はお前らの主だ。忘れるな」

「ふん・・・・・」

 しいなが何か言いたげにしていたが、少しうつむいて、リビングから出ていった。






 - たかのあまはらにましまして 

   てんとちにみはたきをあらわしたまうりゅうおうは

   だいうちゅうこんげんのみおやのかみにして

   いっさいをうみいっさいをそだて・・・・ - 


 遠くのほうで龍神祝詞を唱える声が聞こえた。

 九頭龍の巫女の声が・・・。


「タケルー」

 ふわっと暖かい毛布を感じた。かすかに空が明るい。


「こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ。ん? タケルって強いから風邪ひかないのかな?」

「リヒメか。風邪は普通に引くって」

 イヤホンを取って、体を起こす。


「じゃあ、そのときは看病してあげる」

「あぁ、期待してるよ」

 顔をあげるとリヒメがにこっと微笑む。

 しいなたちは、いつの間にかいなくなっていた。


「どうしたんだ? また、邪神退治か?」

「違うよ。私たちの結婚の契りが、まだだったから。えっと、日本ではまだ結婚できる年齢になってないから、婚約? ってことになるんだって」

「ん?」

「九頭龍家で行う契りの準備をしていたの。明日は学校休みだよね? 祝日だもんね?」

「・・・まぁ、そうだな」

 リヒメが目を輝かせながら近づいてくる。

 スマホでスケジュールを確認していた。


「あ、でもバイトが・・・」

「明日九頭龍家に行って、婚約の契りを正式にかわしましょう。櫛預けの儀式はあこがれだったけど、それは結婚式に取っておくことにしたの」

 ちょっと髪を触りながら、前に座った。


「ということで、明日と明後日はよろしくね」

「・・・え・・・・あ、あぁ・・・・」

 押されるようにうなずいていた。

 ファストフードのバイトはいよいよクビになるだろうな。


 日本武尊さんに仕事をもらうか。


「私は久しぶりの正装、あと、髪もきちんと整えなきゃ」

 リヒメがぱっと立ち上がって、自分の部屋に戻っていった。


 朝日が差し込んで、軽く開いた窓に風が吹き込む。

 大蛇双の封印が解かれて、九頭龍を潰しに行こうとしていることをどのタイミングで伝えればいいか迷っていた。


 廊下からリヒメの鼻歌が聞こえてくる。

 俺がよく聞いてたボカロのG-Pの曲だ。

 龍神じゃなければ、普通の14歳の中学生にしか見えないんだけどな。


 いつも邪神を退治してるリヒメだ。


「タケルはどんな髪型が好みかな? 正装をするのも久しぶりだし、髪飾りは何色がいいかな?」

「・・・・・・・」

 いざとなれば俺が何とかすればいい話だし。

 束の間の休息を楽しんでいるのを邪魔する気分にはなれなかった。

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