表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/57

2 リヒメ初登校

「じゃーん、女子高生になったリヒメ」

「似合う、似合う、兄さんたちにも見せてあげたいなぁ。こんな可愛い龍神見たことないよ」


「よかったわ。ぴったりで」

「へへへ・・・・」

 リヒメの兄貴ハチルとおしらさまという20代前半くらいの着物の女性が家に入ってきていた。

 蚕の神だ。


 なんか、俺の家無法地帯になったな。


「リヒメ、結婚式はどうするんだ?」

「タケルの学校がないときじゃなきゃダメなんだって。月曜日から金曜日まで学校で、あと、ほら私も今忙しくて疲れてるから・・・・。だからお日柄とか考えると、んー櫛預けの儀式やってみたかったのにな」

「あははは、いいっていいって。天照大神様にはリュウイチ兄さんたちが先に報告してるから」


「ありがとう。さすが仕事が早いね」

「・・・・・」

 俺からすると、どうでもいいことなんだけどな。




「待って、タケルってば。じゃあ、いってきまーす」

「頑張ってね。リヒメ」

「はーい!」

「ついてくるの・・・?」


「もちろん!」

 本当について来ようとしている。

 リヒメが龍神だとしても、高校は手続きしなきゃ入れないのに。


「ねぇ、高校ってどんなとこ?」

「勉強するところだって。制服着たって入れないよ」


「大丈夫。その辺は、大国主のおじさんがうまくやってくれるから」

「その、大国主のおじさんって・・・」

「そっか。会ったことあるかな? 国造りの神様だよ」

「ふうん・・・・・」

 大国主命が関わってるのか。神はきまぐれだな。


 さらっと流して歩いていく。


 金があるから、しばらくは困らない。

 家に100万あるというだけで、心が潤った。


 つか、あの100万に税金かからないだろうな。

 借金だけじゃなくて、滞納していた家賃の支払いもあるし・・・。



 ズン・・・


「!?」

 横断歩道を渡っていると、急に時間がずれるような感覚になった。

 すっと、振り返る。


 ザアァァァ


『きゃああああぁぁぁあぁぁ』

 2メートルくらいある、人間のような形をした真っ黒な何かがゆらゆら動く。

 周囲の奴らに、訴えるように叫んでいた。


『ぎゃぁぁぁ、はすへへ・・・・』

 なんだ、アイツらか・・・。

 驚かせやがって。


 悪鬼が集まろうとしている。

 俺、というよりは、リヒメに反応してるのか。


 九頭龍は珍しいからな。


「タケル・・・タケル!!」

「っと・・・」

 リヒメがぐっと手を引っ張ってきた。


 赤信号が点滅していた。

 走って横断歩道を渡り切る。


「悪い。ぼうっとしてた」

「アレ・・・びっくりしたと思うけど、気にしないで」

「ん? あぁ・・・」

 歩道を歩く人たちは、普通に黒い何かの傍を通り過ぎている。


「あれは穢れなの」

 リヒメが冷たい視線を向ける。


「この横断歩道は事故が多いはず。でも、あの穢れは弱いから・・・。放っておいても、悪鬼にはならないよ」

「悪鬼ねぇ・・・」

「災いを起こすもの。未浄化霊が集まって形になり・・・妖怪と呼ぶ人もいる。最近は神への信仰心がないから・・・余計に、悪鬼が多い」

「・・・・・・・」

 リヒメがため息をつく。


 リヒメは俺のことを知ってて、結婚したわけじゃないみたいだ。

 まぁ、あえて伝えることでもない。


「リヒメ、爪が刺さってるって」

「あっ、ごめん」

 制服に龍の爪が刺さっていた。

 一部龍化してたようだ。穢れに反応したか?


「そうだ、学校いいの? 転校初日だから、時間に間に合いたいんだけど。せっかく制服も用意したし、タケルの学校風景も確認しておきたいし」

「あ!」

 スマホで時計を見る。


「行くぞ!」

「龍に戻れば早いよ。乗る?」

「いいって。普通に登校するんだよ」

 走ってぎりぎり着くような時間帯だ。

 遅刻が重なると、呼び出されるんだよな。


 ん? 転校?




「今日から1-A組に転校してきた、竜宮リヒメさんです」

「竜宮リヒメです。家の事情で隣の県の高校から、引っ越してきました。よろしくお願いします」

 リヒメが先生に紹介されていた。


 神様っていえば何でもありなのかよ。

 しかも、14歳ならまだ中学生だろうが。


「可愛い・・・芸能人みたい」

「ふうん、美少女が転校ね。クラスの男子的にはどうなの?」

「いやいや、あんな可愛いんだから、絶対彼氏持ちだよ」

 クラス中がざわついていた。


 大国主のおじさんも、なかなか強引に縁を結ぶな。

 一応、公立の進学校だし、高校受験もあったのに、誰も疑問に思わないのか。 


「では・・・席は、端になるけどいいかな?」

「大丈夫です。タケル君の横で」

 昨日まで、隣にいた生徒が、いつの間にか前に座っていた。


 すっ・・・


 クラスメイトが一気にこちらを見た。


「橘タケルとは知り合いかな?」

「いえ、えっと・・・私、みんなの名前覚えてるんです。前は、日和さん、その斜め前は傑君ですよね?」

「そ、そうだけど・・・」

「へぇ、すごいね!」


「クラスメイトの名前は初日に覚えておきたくて。みんな、これからよろしくね」

 リヒメがほほ笑むと、わぁっと空気が和んだ。


「はははは、わからないこともあると思うから教えてやってくれ」

「はーい」

 もともと暗いクラスだったのに・・・リヒメの龍神の力もあるのかもな。

 別のクラスに来たような感覚だった。


「・・・・・・」

 冷めた目で見ていた。


 俺はそもそも、神が嫌いだ。

 こっちは苦労して馴染んでるのに、神は神の力を使ってどうにでもできる。

 人間の世界に降りてくるなんて、遊びみたいなものだろう。


 リヒメとの結婚だって、金があったからだ。

 金がなければ、巫女なんて面倒なことするかよ。


「?」

 リヒメの横に、白い蛇が浮いていた。


 弁才天の使いか。

 こちらを見ると軽く頭を下げてきた。


 ほかの人間は、本当に何も見えないんだよな。



「タケル、よろしくね」

 リヒメがほほ笑む。

 陰陽師だという、疑いの欠片もないな。


 温室で甘やかされて、育ったんだろう。

 九頭龍の姫だもんな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ