2 リヒメ初登校
「じゃーん、女子高生になったリヒメ」
「似合う、似合う、兄さんたちにも見せてあげたいなぁ。こんな可愛い龍神見たことないよ」
「よかったわ。ぴったりで」
「へへへ・・・・」
リヒメの兄貴とおしらさまという20代前半くらいの着物の女性が家に入ってきていた。
蚕の神だ。
なんか、俺の家無法地帯になったな。
「リヒメ、結婚式はどうするんだ?」
「タケルの学校がないときじゃなきゃダメなんだって。月曜日から金曜日まで学校で、あと、ほら私も今忙しくて疲れてるから・・・・。だからお日柄とか考えると、んー櫛預けの儀式やってみたかったのにな」
「あははは、いいっていいって。天照大神様にはリュウイチ兄さんたちが先に報告してるから」
「ありがとう。さすが仕事が早いね」
「・・・・・」
俺からすると、どうでもいいことなんだけどな。
「待って、タケルってば。じゃあ、いってきまーす」
「頑張ってね。リヒメ」
「はーい!」
「ついてくるの・・・?」
「もちろん!」
本当について来ようとしている。
リヒメが龍神だとしても、高校は手続きしなきゃ入れないのに。
「ねぇ、高校ってどんなとこ?」
「勉強するところだって。制服着たって入れないよ」
「大丈夫。その辺は、大国主のおじさんがうまくやってくれるから」
「その、大国主のおじさんって・・・」
「そっか。会ったことあるかな? 国造りの神様だよ」
「ふうん・・・・・」
大国主命が関わってるのか。神はきまぐれだな。
さらっと流して歩いていく。
金があるから、しばらくは困らない。
家に100万あるというだけで、心が潤った。
つか、あの100万に税金かからないだろうな。
借金だけじゃなくて、滞納していた家賃の支払いもあるし・・・。
ズン・・・
「!?」
横断歩道を渡っていると、急に時間がずれるような感覚になった。
すっと、振り返る。
ザアァァァ
『きゃああああぁぁぁあぁぁ』
2メートルくらいある、人間のような形をした真っ黒な何かがゆらゆら動く。
周囲の奴らに、訴えるように叫んでいた。
『ぎゃぁぁぁ、はすへへ・・・・』
なんだ、アイツらか・・・。
驚かせやがって。
悪鬼が集まろうとしている。
俺、というよりは、リヒメに反応してるのか。
九頭龍は珍しいからな。
「タケル・・・タケル!!」
「っと・・・」
リヒメがぐっと手を引っ張ってきた。
赤信号が点滅していた。
走って横断歩道を渡り切る。
「悪い。ぼうっとしてた」
「アレ・・・びっくりしたと思うけど、気にしないで」
「ん? あぁ・・・」
歩道を歩く人たちは、普通に黒い何かの傍を通り過ぎている。
「あれは穢れなの」
リヒメが冷たい視線を向ける。
「この横断歩道は事故が多いはず。でも、あの穢れは弱いから・・・。放っておいても、悪鬼にはならないよ」
「悪鬼ねぇ・・・」
「災いを起こすもの。未浄化霊が集まって形になり・・・妖怪と呼ぶ人もいる。最近は神への信仰心がないから・・・余計に、悪鬼が多い」
「・・・・・・・」
リヒメがため息をつく。
リヒメは俺のことを知ってて、結婚したわけじゃないみたいだ。
まぁ、あえて伝えることでもない。
「リヒメ、爪が刺さってるって」
「あっ、ごめん」
制服に龍の爪が刺さっていた。
一部龍化してたようだ。穢れに反応したか?
「そうだ、学校いいの? 転校初日だから、時間に間に合いたいんだけど。せっかく制服も用意したし、タケルの学校風景も確認しておきたいし」
「あ!」
スマホで時計を見る。
「行くぞ!」
「龍に戻れば早いよ。乗る?」
「いいって。普通に登校するんだよ」
走ってぎりぎり着くような時間帯だ。
遅刻が重なると、呼び出されるんだよな。
ん? 転校?
「今日から1-A組に転校してきた、竜宮リヒメさんです」
「竜宮リヒメです。家の事情で隣の県の高校から、引っ越してきました。よろしくお願いします」
リヒメが先生に紹介されていた。
神様っていえば何でもありなのかよ。
しかも、14歳ならまだ中学生だろうが。
「可愛い・・・芸能人みたい」
「ふうん、美少女が転校ね。クラスの男子的にはどうなの?」
「いやいや、あんな可愛いんだから、絶対彼氏持ちだよ」
クラス中がざわついていた。
大国主のおじさんも、なかなか強引に縁を結ぶな。
一応、公立の進学校だし、高校受験もあったのに、誰も疑問に思わないのか。
「では・・・席は、端になるけどいいかな?」
「大丈夫です。タケル君の横で」
昨日まで、隣にいた生徒が、いつの間にか前に座っていた。
すっ・・・
クラスメイトが一気にこちらを見た。
「橘タケルとは知り合いかな?」
「いえ、えっと・・・私、みんなの名前覚えてるんです。前は、日和さん、その斜め前は傑君ですよね?」
「そ、そうだけど・・・」
「へぇ、すごいね!」
「クラスメイトの名前は初日に覚えておきたくて。みんな、これからよろしくね」
リヒメがほほ笑むと、わぁっと空気が和んだ。
「はははは、わからないこともあると思うから教えてやってくれ」
「はーい」
もともと暗いクラスだったのに・・・リヒメの龍神の力もあるのかもな。
別のクラスに来たような感覚だった。
「・・・・・・」
冷めた目で見ていた。
俺はそもそも、神が嫌いだ。
こっちは苦労して馴染んでるのに、神は神の力を使ってどうにでもできる。
人間の世界に降りてくるなんて、遊びみたいなものだろう。
リヒメとの結婚だって、金があったからだ。
金がなければ、巫女なんて面倒なことするかよ。
「?」
リヒメの横に、白い蛇が浮いていた。
弁才天の使いか。
こちらを見ると軽く頭を下げてきた。
ほかの人間は、本当に何も見えないんだよな。
「タケル、よろしくね」
リヒメがほほ笑む。
陰陽師だという、疑いの欠片もないな。
温室で甘やかされて、育ったんだろう。
九頭龍の姫だもんな。