23 リヒメと婿
「おい、お前どけろよ。何が起こったかわからないだろ?」
「俺の足を踏むなって」
「お前こそ、さっきから香水臭いんだよ」
「なんだと?」
『うわぁぁっぁぁぁぁっぁ・・・・邪神様・・・・・』
『しいな・・・様は・・・・・・・・』
悪鬼が集まり、客席の人間とともに奇声を発している。
日本武尊さんと俺を倒したいようだ。
『タケル様。我々の前にも、悪鬼が群がってきました』
蝶の式神を介して、白虎の声がした。
「倒せないか?」
『いったんこのままいきます。もし、無理そうだったら』
「開放する。安心しろ」
ぐわぁぁぁぁぁぁ
頭上から悪鬼が積み重なるように落ちてきた。
呪詛剣をステージに突き立てる。
― 浄化 ―
じゅっ
目のただれた悪鬼たちがのたうち回る。
「!?」
槍をこちらに向けていた、ももに向かって降りていく。
「戦えるのか? お前・・・」
「馬鹿にするな。私だって」
「じゃあ、容赦はしない。まずは、一体」
剣を一瞬で数珠に変えて、ももを縛りあげる。
「!?」
― 呪詛鎖 艶蛇 ―
「もも!!!!」
しいなが星の刻まれた双剣の片側で襲ってくる。
ふわっと飛んで避けた。
「っ・・・・・」
「俺に従え、邪神白桃。従わぬなら、殺す」
力を強める。
「いっ・・・・あ・・・・・あ・あ・あ・・しいな・・・様・・・」
ももが長い髪を床に着けたまま、天を仰いで首を押さえていた。
「痛いか。だが、お前に利用された者に比べたら生ぬるい。お前に金かけて、家族を失ったものもいるらしいな。人間に生まれれば裁かれたものを」
「わ・・・私は邪神よ。正義をかざして、神にでもなったつもり?」
「正義か・・・正義って、誰が決めるんだろうな」
涙目になりながらこちらを見つめる。
数珠から禍々しい力があふれてきた。
霊力が渦を巻くように、穢れを放つ。
「うっ・・・助けて・・・くる・・・・・」
「俺の霊力に馴染んでもらわなきゃ困るんだ。抵抗しなければ、すぐ痛みは消える」
「阿仁三タケル!!!」
後ろから襲い掛かろうとした、しいなの剣を素手で止めた。
「はははは、もう片方の剣も失くしたいか?」
「やはり、人間じゃない。邪神か?」
「そう見えるよな・・・・やっぱり・・・・」
りこが俺のほうを見て怯えていた。
誰が、どう見ても今の俺は邪神だ。
あやふやな正義を振りかざして、取り繕ってきた俺の先祖はこんな感じだったんだろう。
そのまま邪神になってくれれば、回りくどいことをしなくて済んだのに。
スッ
「!!」
「タケルは私のお巫女さんだよ」
リヒメがいきなり俺の前に出た。
「手を出さないでもらえる? 九頭龍の巫女は結婚してるってことだから」
「は・・・・? 手を出すって・・・」
しいなが一瞬戸惑っていたが、すぐに戦闘モードに切り替えていた。
リヒメがステージにあったコードを蹴った。
目を赤く光らせて、剣に霊力を込める。
「リヒメ、こいつらを倒す気はない」
「わかってる。日本武尊さんから聞いた。タケルが使役するんでしょ?」
「まぁな」
ももにかけていた数珠を戻して、地面に封印用の魔法陣を描いた。
「もも・・・!!」
しいなとりこが、駆け寄ろうとした。
「痛みはない。ただ、俺の配下に置くだけだ」
ももが気を失って、その場に横たわる。
阿仁三家に伝わる封印術だ。
目を覚ましたころには、俺の式神の一体になっている。
「しいな様」
「許すものか。せっかくここまで3人でやってきたのに」
「だから、3人まとめて配下に置くんだよ」
数珠の形を変えようとした時だった。
― 清め給え、祓い給え、邪気払いの剣 ―
「リヒメ!」
リヒメが俺を無視して、しいなに剣を振り下ろす。
キィンッ
「きゃっ」
同時にりこの槍を止めた。空間凍結術?
リヒメが使ったのか? これだけの穢れの中で?
少し、九頭龍の力を甘く見ていた。
リヒメも九頭龍の一柱、社を持つ神だしな。
「九頭龍と一緒だったか・・・・」
「私、絶対浮気とか許さないタイプだから!!」
「ん? 浮気?」
しいなとりこが顔を見合わせる。
「・・・・・・」
なんとなく、一歩下がる。
「今までタケルが集めた式神はわからないけど、これから集める式神は私が倒してからタケルが使役するの。朱雀みたいにべたべたするの禁止だから!!」
リヒメの目が赤く光る。
「覚悟して」
「ん・・・な・・・なんのことだかわからない。りこは?」
「私も・・・です・・・」
「そうゆうのが一番危ない!! 本当はアイドルなんて、式神に入れてほしくないけど、仕方なく、仕方なく許すんだからね!! 絶対2人きりの時間とか許さないから」
「アイドルじゃなくて、邪神の間違いじゃないのか・・・?」
「アイドルだから入れたくないの!」
「い・・・・意味が分からないぞ」
「しいな様、混乱させるのが九頭龍の手かもしれません」
「おぉ・・そうだな。あやうくその手に乗るところだった」
しいなが剣を握りなおす。邪気を込めていた。
「・・・・・・・・」
完全にリヒメの私情が入ってる。
邪神はピンとこないだろう。
サアァァァァァアァァァァァ
リヒメが休む間も与えずに、浄化の舞を舞う。
小雨が皮膚に当たった。
ジャラン
呪詛剣を解く。白虎がステージに上ってきた。
『タケル様、すみません。止めたのですが・・・』
「いい。リヒメは神だ。止められなくて当然だからな」
『はい。あれ? リヒメ様、いきなり強くなりました?』
「・・・さぁな」
時折、龍神の風が巻き起こり、ステージのライトが激しく揺れていた。
白虎が隣に来て、リヒメとしいなとりこの戦闘を眺めていた。
『そうそう。さっきから、朱雀が会いたがってうずうずしてます。呼びますか?』
「今、朱雀の話するなって」
『ん? 』
リヒメは、まだ、朱雀のこと根に持ってるらしい。
朱雀は、いつまでも俺が子供だと思ってるだけなのにな・・・。




