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21 ライブ会場

「穢れに満ちてるね・・・新宿にいた悪鬼とは違う種類の穢れ」

「あぁ」

 リヒメが袖で鼻を押さえる。


 ライブ会場のある駐車場についた途端、人々の穢れが濃くなっていた。

 ただれた目、膨張した体、異形な姿を持つ悪鬼たちがいた。


 こちらに気づいていたが、襲ってくる様子はない。 

 人間の穢れにうま味を感じてるんだろうな。


『しいな・・・・さまぁ・・・』

『うぅ・・・うううううううううう』 


『しいなさまに・・・あいつらを・・・』

 人間たちとともに、悪鬼たちもライブの会場の中に吸い込まれていく。

 俺たち見える側からすれば凄まじい光景だが、人間たちには当然見えていない。


「ライブで穢れを撒くなんて、最低だよ」

 リヒメが顔をしかめた。

 それにしても熱狂的なファンが多いな。


「俺とタケルくんは裏口から行くよ。目立っちゃったら困るしね」

「もう少し、控えめな服だったら目立たなかったと思うのですが・・・」

「かなり控えめだと思うが?」

 日本武尊さんが上から下まで、ヴィ〇ンのモデルが着るような服で現れた。


 俺の人生でここまで派手な人を見たことがない。

 幸い、ライブ会場に向かう人間は日本武尊さんなんて視界に入ってないけどな。


「俺たちもしっかりライブスタイルに変装したんで」

「絶対に目立たないと思います」


 バッ


 クマソ兄弟が勢いよく、パーカーを脱ぎ捨てる。


「・・・・日本武尊さん、これはいいんですか?」

「変装とのことだ」

「・・・・・・・」

 邪神の推しグッズに身を包んでいた。

 Tシャツはキャラ絵、バッグは缶バッチ、キーホルダーも『すりーすたー』。

 ベルトにペンライト10本ぶら下げている。


 これだけの穢れに包まれても肉体的に平気でいられるのは、さすがクマソ兄弟。

 日本武尊さんと戦っただけあるか。


「わ・・・穢れがすごい・・・くらくらする」

「だから、家にいろって言ったのに」

「でも、穢れを・・・・私、九頭龍だから。頑張らなきゃ」

 リヒメがクマソ兄弟の本気度を見て、酔っていた。


 ― 式神 白虎 ―


 トン


『いかがされましたか? タケル様』

 白虎が現れて、地面に足をつける。


「リヒメの護衛。よろしく」

『護衛?』

「あ、白虎ちゃん! 可愛い」

 リヒメが白虎を撫でる。


「・・・じゃなくて、私は別に大丈夫だけど」

 リヒメがはっと我に返って、頬を膨らませる。


「私だって、前線で戦いたい」

「他の九頭龍兄弟に言っても来れなかったんだろ?」

「一人で大丈夫だよ・・・・私、弱くないから」

「リヒメを弱いと思ってないって。ただ、俺の式神をそっちに置いておきたいだけだ。何かあったとき、連携取りやすいだろ?」

「・・・うん・・・そっか」

 リヒメが少し不服そうな顔をして、頷いていた。


 白虎がいれば、悪鬼が群がることはないだろう。

 クマソ兄弟は完全に染まってるし。

 九頭龍兄弟の妹しかいないってなれば、悪鬼も群がるだろうからな。


「では、行こう。『すりーすたー』のライブに」

 日本武尊さんがサングラスをかけて前を歩いて行った。





「邪神め、俺を呼んではめるつもりだったのか。返り討ちにしてやる」

 日本武尊さんが草薙剣を出していた。

 高まる霊力で、手すりが揺れている。


 関係者口から入った、2階から人間と悪鬼たちの様子を眺めていた。

 キャパ1万以上ある会場のチケットが即完売。


「しいな、しいな、俺らのしいな!」

『うーま、うーま、うまのひづめ! しいなはみんなのしいなちゃん! 悪い子は粛清しちゃうぞ』

「おぉぉぉ、悪い子、悪い子」


『悪い子は―、しいなにすべてを捧げなさい』

 天井に吊り下げられたモニターで、しいなが踊りながらピースをしていた。


「うおおぉぉぉぉぉ」


「なんだ、この状況・・・・」

 どの角度から見ても異様な光景だ。


 会場に入ったとたんに、音楽と掛け声が始まっていた。

 ここまでくると宗教だな。


 ところどころある、モニターに、『すりーすたー』のメンバーが映っている。

 センターのしいなが一番人気らしい。


「日本武尊さん、大丈夫ですか? 俺は穢れ慣れしてるのでって」

「ももぴ、ももぴ、俺らのもも・・・あっ」

 日本武尊さんがはっとして口を押える。


「ダメだ。リズムに乗せられるな」

「邪神も考えますね。これなら、広まりやすい。穢れは穢れを呼びますし、穢れのある所には悪鬼が集まる。自然と、邪神の力も強くなっていく」

「まったくだ。しかし、こうやってライブに足を運ばないと気づかないものだ」

 物販に並ぶ人間たちを眺める。


「俺たちもいつかこうゆう場所でライブするのが夢だが、まさか邪神に先を越されるとは」

「えっ、歌えるんですか?」

「練習中だ」

 日本武尊さんが自信満々に言う。


「あ・・・そうですか・・・・」


「ももぴ、りこぴょん、ももぴ、りこぴょん!」

 人間にとりついた悪鬼も一緒になって跳び跳ねている。

 完全に穢れに染まっているな。


 物販では悪鬼が判断を狂わせて、金と生気を集めている。

 生活が苦しい者もいるだろう。



「俺は今回、周囲の穢れを払い悪鬼を蹴散らすことはできるが、邪神を倒すことはできない。これだけの信者が集まってしまった以上、神の名をもってしても抹消することは不可能だ」

「でしょうね」

「悔しいけどな。本来はこんなことになる前に止めるべきだった」

 荒星こうせいが自信ありげに話してたのは、神の事情を知っているからだ。


 もし、邪神を倒せば『すりーすたー』の活動は停止となる。


 人間たちが依存している存在がいなくなるってことだ。

 憎しみが生まれ、穢れ悪鬼を呼び、さらなる邪神を生み出すだろう。


「・・・・・・」

 邪神を呼ぶのはいつだって人間だ。

 自分たちが気づいていないだけで・・・。


「タケルくん、大丈夫か?」

「はい。俺の邪神に加えますから」

 数珠を出して、剣の玉に触れる。


「あいつらは、俺が使役します」

 霊力を高めていく。


「頼りにしてるよ。タケルくん」

「了解です」


 ドンッ


 ぎゃぁぁぁぁぁぁ


 日本武尊さんが草薙の剣で近くにうろついていた悪鬼を切り裂いていた。

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