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13 廃墟

 ホテルタイタン2は、過疎化した村を活性化するために建てられた建物だった。

 初めは大々的に広告を打って、それなりに人も入っていたらしい。

 でも、村の者の嫉妬が集まり、穢れとなって、悪鬼を集めるようになった。


 ホテルタイタン2に関わった人間は、不慮の事故で亡くなるという。

 よくある、定番の廃墟だ。 



 車の窓から、山々の景色を眺める。

 都会から離れると、悪鬼の勢いはいったん落ち着く。

 久しぶりに新鮮な空気を吸ったような気がした。


「でも、どうして俺を参加させようと思ったんですか?」

「俺は君たちくらいの年齢層をターゲットに活動してる。学生メンバーが一人いたほうがいいって意見になったんだ」

「ふうん・・・え、メンバー?」

「そう。あれ? 聞いてなかったのかい?」

 タケヒコがバックミラー越しにこちらを見る。


「クマソタケルたちが燃え尽き症候群になってしまって・・・充電期間に入ってしまったから、新たなメンバーを探してたんだ」

「俺・・ですか?」

「そう。もちろん、報酬もちゃんと出すよ。九頭龍の巫女になれば、なかなかバイトに入れない日も出てくるだろうしね」

「・・・・・・・」

「俺らなら事情も分かるし、融通きくよ」

 

 神かと思った。

 神なんだけどさ。


 巫女として契約した以上リヒメに何かあったら浄化しなければいけない。

 今のバイトのシフトを空けると怒られるし、辞めさせられるのも時間の問題と思っていた。


 目立つのは嫌だけど、安定的な収入のためなら仕方がない。


 Youtubeって、最近はあまり収入にならないって言ってたけど、んなわけないよな。


「ありがとうございます。ぜひお願いします」

「はははは、よかったよ」

 


 ― 黒蝶 ― 



 パタパタ・・・


「行け」

 紙に黒蝶を描いて、飛ばす。

 家の前で待機させて、何かあるようだった俺に伝えるように言っていた。


「今のが君の式神か」

「・・・そうですね。猿田彦さんがいるから問題ないと思いますけど、リヒメを家に残すことになるので」

 筆と紙をしまう。


「綺麗だな。タケルくんの持つ式神は、元は悪鬼や邪神だった者たちだろ?」

「そうです。綺麗かはわかりませんね。ガキの頃から集めてたんで、選んでませんから。中には、人間を廃人にしたやつとか、死に追いやったやつとかもいるんで」

「ははははは、それで君のところで徳を積むならいいだろ」

「・・・・そうですね」

 軽く流す。

 流れていく景色をぼうっと眺めていた。



「スタートします。3,2,1」

 カメラを構えて、日本武尊さんとタケヒコさんを映す。


「なんと今日は何かといわくつきの、ホテルタイタン2にいます」

「俺はここへ来てから背中がぞくぞくして、うわっ」

 日本武尊さんが大げさにリアクションする。


「虫ですよ。さっきもここに来てから、ラップ音が聞こえたりおかしなことが起こってるんだよね」

「そうそう。本日はここに泊まってみて、この廃墟にいる霊たちに、俺たちのすごいところ見せてやろうと思います」

「しかもなんと! 2時からはここからライブをしようと思います。呪われると思う方、覚悟してくださいよ」


「ハハハハ、天下一の白鳥のチャンネル登録者は絶対俺たちが守るんで、安心してください」


「・・・・・・」

 泊まるのかよ。 

 てっきり日帰りだと思ってたら。


「はい。止めていいよ」

「わかりました」

「どう? カッコよく撮れたかな?」

 2人が駆け寄ってきて、カメラを確認する。


「うん。これなら、流してもいいな。今日の服はちょっと派手だったかと思ったが、廃墟をバックにするにはちょうどよかったな」

「Youtuberはビジュアルも大事ですもんね」

「うんうん」

 日本武尊さんが腕を組んで頷いていた。


「しかし、まぁ・・・」

 タケヒコさんにカメラを渡して、ホテルタイタン2を見つめる。

 窓ガラスは割れて、一部壁が崩れている部分もあった。


 村の者の恨み、憎しみが渦巻いている。

 ただの廃墟ではないみたいだな。


「穢れだらけじゃないですか。邪神もパーティーとか開いてそうな雰囲気ですよ」

 風の音に混ざって、いろんな声が聞こえた。




 ごそごそ ごそごそ


「!」

「ここは、もともと罪を犯して、江戸にはいられなくなった者たちが集まって作った村だった。このままじゃいけないと改心した時期もあったんだが、罪人たちに足を引っ張られたんだろうね」


 カンカンカン


「稲荷神社があったはずなんだが、ここに神はいなくなってしまってね。もう、長らく放置してるから、悪鬼たちも好き放題やってるんだ」

「ウカノミタマさんがいればこんなになることなかったんだけどな」

「あの方、各地にお社があるから忙しいんですよね」


 カンカンカンカン


「えっと・・・さっきから何出してるんですか?」

「テントだよ。今日はテントに泊まるんだ」

 タケヒコさんが慣れた手つきでテントを張っていた。

 

「今、キャンプの動画って流行ってるだろ? 癒し動画みたいな」

「ここで?」

「はははは、変わったことをしなきゃ動画が伸びないからね」

 日本武尊さんが杭を打ちながら話す。

 悪鬼がさっきからこちらをじろじろ見てるんだけど、完全無視か。


 さすが、武神だな。


「日本武尊さん、こっちのBQセットも一応出しておきますね」


 カンカンカン 


「あぁ、よろしく。タケヒコ、後でここを押えててもらえるか?」

「了解です」

 穢れ、悪鬼の群がる場所でキャンプ・・・。

 リヒメの霊力なら完全に龍化してしまうだろうな。



 2人の息はぴったりで、俺にやることはない気がした。

 まぁ、力仕事は苦手だし、このままその辺歩いてみるか。


「じゃあ、俺その辺歩いて」



 ズンッ・・・・



『タケル様!』

 いきなり、朱雀が飛び出して、抱き着いてくる。

 赤い着物を着た同い年くらいの少女の姿をした式神だ。


「朱雀、呼んでないだろうが」

『白虎が呼ばれたと聞いてつい・・・タケル様、しばらく私を呼んでくださらないので、忘れてしまったかと思ったのです』

 朱雀が短い髪を触りながら悲しそうな顔をする。


「君が、朱雀ちゃん?」

『日本武尊!? タケヒコ!?』

 朱雀が身構える。


「別に彼らと対立してるわけじゃない。白虎から聞いてないのか?」

『聞かずに飛び出してきましたので。タケル様、神々と交流を持つようになられたのですか? タケル様が楽しいなら朱雀は賛成です』

「まぁ・・・・」

 そういや、式神たちに、九頭龍一族のことを話していなかったな。


「はははは、そりゃそうだ。タケルくんは九頭龍の神々の巫女、竜宮リヒメの婿になったのだからな。九頭龍には我々も世話になってる」

『へ? 婿?』

「そう、夫婦ってことだ」


『婿・・・タケル様が。結婚? 嘘・・・・』

「朱雀・・・」

 朱雀がふらっと倒れそうになったところを支える。

 だから言うのが面倒だったんだよな。

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