12 Youtuber天下一の白鳥
「はぁ!? 心霊企画?」
「そうだ。最近、ネタが尽きてきてな。浮き輪なしで漂流してみたとか、身一つで山を登る方法とかは、過激過ぎてBANされる可能性もある。ほかの3人のメンバー、エタケルとオトタケルは燃え尽き症候群になってるし、タケヒコは車出してくれるっていうけど・・・」
「つか、エタケルとオトタケルってクマソタケルだろ? 討伐したのは日本武尊って・・・・」
「1900年も前の話だ。今は自由に生きてる」
「・・・そうっすか」
確かに俺も前世なんか忘れて、自由にやってるほうか。
「日本武尊さん、お茶飲みます?」
「あぁ、ありがとう」
リヒメが緑茶を出していた。
「あの・・・今日、休日なんですけどいつまでいるんですか?」
「休日だから来たんだよ。君たち、学校に通ってるって聞いてるからね」
「はい! 私、高校に通い始めました」
「・・・・・・・・」
リヒメが呼ぶからか、当たり前のように家に神々が入るようになってきてしまった。
九頭龍の兄たちはいなくなったけど、なぜか猿田彦さんだけテレビの前にいる。
まだ、ウズメさん見てるし、家に帰るぞぶりもない・・・。
喧嘩でもしてるのか?
「陰陽師の少年と、心霊スポットを巡るって言ったら、なんか再生数伸びそうな気がする・・・・」
「俺、自分が陰陽師だって明かしたくないんですけど」
「わかった。霊の見える少年Aでどうだ?」
「そうゆう意味じゃなくて」
スマホを持って、畳の上に寝転がる。
「俺はそうゆう目立つこと苦手なんです・・・すみません」
「私はYoutuberってすごく興味があったんです。SNSとか、九頭龍一族みんな苦手で、でも、そうゆうので宣伝しなきゃって気持ちもあって」
「わかるよわかるよ。今は神々もSNSを駆使する時代だ」
「はい!」
「ショート動画とかもいいんだ。バズったら一気に有名になれる」
「ふむふむ。ショート動画」
リヒメがのりのりで頷いていた。
SNSなんて、悪鬼の製造機みたいなものだろうが。
わざわざ、そんな面倒なものに首突っ込むかよ。
「タケルくんは・・・」
「あー、俺、パスします。昨日の疲れもあるので、体もだるくて」
具合悪いふりをした。
「なるほど、そうだよな。新宿の邪神を倒したばかりだったもんな。残念だよ」
「日本武尊さん、その袋なんですか?」
「あぁ、企画の出演料だよ。人間のエネルギーの相場がわからないから一応、10万持ってきたんだが・・・んー足りなかったら、また持ってこようと思ってたけど」
「是非やらせてください! その企画」
飛び上がって、座り直す。
「え・・・・さっきまで疲れてるって」
「いや、俺、実はそんなに疲れてないっていうか、ちょっと食べすぎちゃっただけみたいなんで。天下一の白鳥よく見てて、本当はずっと企画参加してみたかったんですよね。登山企画とか面白かったです。やっぱ最後に勝つのは友情ですよね」
「そうかそうか」
白い袋に、1万円札がちらちら見えた。束になってる。
リヒメが来てから、金の流れがいい。
龍神の加護ってやつなのだろうか。
「よかった。じゃあ、私も準備しなきゃ!」
「リヒメはマジで疲れてるだろ?」
「そ、そんなことないって。私も行けるよ。大丈夫」
「俺にごまかしは通用しない」
ポケットから九頭龍の水晶を出す。
親指くらいしかない、小さな水晶だが濁りかけていた。
「あ・・・・」
「リヒメの浄化は済んでる。この濁りは体力的な疲れだ。一日休んでろ。今日は学校も休みだからな」
「でも、龍神と巫女は一緒にって兄さんが・・・」
「その体力で悪鬼に会えば、隙を突かれてもおかしくない。いくら九頭龍の末の妹でも、負ける時は負けるぞ」
強い口調で言うと、リヒメが口をつぐんだ。
「・・・・・・・・」
紫の布に包んで、ポケットに入れる。
「ここにいれば、多少気を抜いても安全だ。猿田彦さんもいるし。まぁ・・・いつまでいるのかわからないけど・・・リヒメがもとに戻るまではいてくれるだろ」
ウズメさんの映ってる部分を何回も巻き戻していた。
聞いていないようで、聞いていると思うことにしよう。
「・・・・わかった。待ってる。早く帰ってきてね」
「それは企画次第だけどな」
「うん」
リヒメがすとんと座った。
後で式神に見張らせておくか。
何もないと思うけど、一応な。
「タケルくん、よろしくね。あ、君もタケルって名前だったね。俺と同じだなんて、いい名前を持ったな。ははははは」
「っと・・・・」
日本武尊さんが肩をたたいてきた。
熱いな。
ついていけるかわからないけど、とりあえず目先の金のためだ。
「それで、心霊企画って何するんですか?」
「廃墟探検だ。ここから高速で3時間走ったところにある、ホテルタイタン2というところだ。心霊スポットで有名だけど、もともと村があった場所に、建てた建物だから穢れが多いだけなんだけどな」
「えっ、ホテルタイタン2って・・・許可取ってるんですか?」
「その辺はタケヒコがうまくやってくれてる」
日本武尊さんが白い歯を見せてくる。
「・・・ちなみに、日本武尊さんの巫女はどこにいるんですか?」
「もちろん、きちんと神棚で毎日祈りを捧げて浄化してもらってるぞ。あとは、動画編集したりスケジュール管理してもらってるんだ。今日はオフィスで打ち合わせって言ってたな」
「そうですか」
神によって違うけど、この人についていく巫女は大変だな。
かなりのスキルが求められているようだ。
ブオンッ
窓から車の音がした。
「タケヒコが来たようだ。さぁ、行こう」
「あ、ちょっ・・・。リヒメ、行ってくるから」
「はーい」
リヒメがソファーに寄りかかって、両手を振っていた。
「いってらっしゃい」
少し寂しそうに微笑んだ。
「やぁ!」
Youtuberの天下一の白鳥の一人のタケヒコさんが車から出てきた。
車名はわからないが、芸能人とかが乗ってる車だった。
「高そうな車・・・ですね? 目立ちません?」
「Youtuberは目立ってなんぼだよ」
タケヒコさんが焼けた肌に、金色のネックレスをしていた。
なんで今まで普通に見てて、神だって気づかなかったのか理解できた気がする。
あまりに変わり過ぎて、誰だかわからないんだ。
「こんにちは。君がタケルくん。陰陽師なんだってね」
「はい・・・一応」
「すごいなぁ。乗って乗って、巫女が掃除してくれたから。新宿の邪神を倒しちゃうなんて、びっくりしたよ。あ、ここにカメラ設置してるけど、撮ってないから気にしないで」
Youtuberって感じだな。
車内は輝くように磨かれていた。
ベンツっていうか、白馬に乗ってるような気分だ。
「いやぁ、YoutuberやってるとあらゆるSNSで炎上しまくって大変なんだ」
「ベンツが羨ましいなら買えばいいのにな。人間たちは不思議だ」
「嫉妬ですよね。指摘すると炎上しちゃいますし」
「でも、これでも10代には大人気なんだ。純粋な子供は見る目が違うね」
「・・・・・・・」
たぶん、買えねぇんだよって言葉を飲み込んだ。
天下一の白鳥は人気Youtuberだけど、人間の感覚と離れすぎてたまに問題発言をしたりする。
「ん? ヤマトさん、どうしました?」
「前髪がうまくいかないなって思って」
日本武尊さんが車のバックミラーで髪を整えていた。
「せっかくだ。ちょっとSNSにアップする写真撮るから。タケヒコ、撮影頼めるか?」
「了解です」
パシャ パシャ
タケヒコさんがハンドルから手を放して、日本武尊さんの写真を撮っていた。
すごい構図だな。
「あ、いいですね」
「ん、こっちの角度から撮った方が顔が小さく見えるんじゃないか?」
「いやいや、こっちだと光の当たり具合が・・・こうゆうふうになっちゃいますよ」
「なるほど」
背もたれに寄りかかって、紙と筆を出す。
長くなりそうだから、式神でも整理してるか。




