11 九頭龍一族の決意
「来い。白虎」
部屋の中に真っ白な虎が現れる。
俺の近くまで来ると、ゆっくりと腰を下ろした。
『珍しいですね。先ほどの九頭龍ですか。あと、道開きの神・・・タケル様はずいぶん見ない間に神々と交流されるように・・・』
「あぁ、いろいろあって、俺は九頭龍の巫女になったんだよ」
『えぇっ!? タケル様が?』
白虎がしっぽをピンと立てて驚いていた。
『九頭龍の巫女って婿になったってことですよね』
「話が早いな。そうゆうことだ」
『なんと・・・・タケル様が動くということは、対価のようなものが・・・』
「まぁ、それなりに・・・」
白虎含め、四神を式神にしたのは3歳の頃だ。
俺の性格をよく知ってる。
『そうですか。それにしても、神々たちは自由ですね』
リュシロウたちは寝ている。
カナエがせっせと後片付けをしてくれていた。
猿田彦さんは・・・・まだ、酒を飲んでる。
テレビにYoutubeを映して、ウズメさんのドラマを見ていた。
「はい。リヒメの巫女でお婿さんになってもらいました。白虎さん、どうぞよろしくお願いします」
『は、はい。よろしくお願いします』
リヒメが頭を下げると、白虎がデレデレしていた。
「白虎は式神の中でも一番付き合いが長い。力もあるし、信頼を置いてる」
「虎はネコ科だから、ねこじゃらしとか好き? はい!」
「ちょっ・・・」
リヒメがどこからともなく、猫じゃらしを出す。
『はっ・・・体が衝動的に。がるるるるるるう・・・くぅーん』
寝転がって遊んでいた。
リヒメが頬杖をついて楽しそうに笑っている。
「白虎・・・・」
『はっ、失礼しました。つい』
白虎が軽く飛んで座り直す。
龍と虎は相性がいいようだな。
「ねぇ、ほかの式神もいるの?」
『もちろん、いるけどな。ここでは出さない。正直、神々にあまりいい思いを持っていない奴らもいるんだよ。こうゆう場は特にな』
リュシロウもリュウゴロウもリュウサブロウも大の字になって寝ていた。
リコとナミという妖精たちは猿田彦さんとテレビを見ている。
一緒に踊っていた。
俺の持つ式神の奴らの中には、神のこうゆう姿を妬むやつもいる。
みんなが白虎のように賢いわけではない。
「そっか。でも白虎がいれば安心だね」
白虎がさりげなくリヒメににじり寄っていた。
調子のいいやつだ。
「どうしてまた、九頭龍一族だけで邪神を倒そうとしたんだ。しかもたった4柱だけで・・・甘すぎるだろ。新宿は日に日に穢れが増えている。正直、俺がいなかったら浄化が間に合わなかった」
猫じゃらしをくるくる回す。
「九頭龍含め、今神々は力を失いつつあるの」
「まぁ、それは何となくわかるけどさ」
「・・・・・・・・」
リヒメが壁に寄りかかって、窓を見つめていた。
「穢れが蔓延してる。自分たちが邪神や悪鬼を集めてることに気づかない人間ばかりだ。悪鬼を感じ取っていた時代だったら陰陽師も少しは食える職業だったかもしれないんだけど」
父親の消息は不明だ。
爺さんの代には、まだ食えるくらいは金があったのにな。
「穢れは確実に溜まってきてる。見えない穢れが多いの。ほかの神々も、SNSを駆使したりして頑張ってるけど、人の穢れは止められない」
「穢れはそもそも自己責任だ」
白虎を呼んで、頭を撫でる。
「そのままにしておけばいいだろうが。邪神が力を持って人間たちが狂っていこうが、死んでいこうが、すべては人が引き寄せたこと」
「タケルが陰陽師なら知ってると思うけど・・・」
リヒメが小さな九頭龍の水晶を取り出す。
「九頭龍一族は、毒龍と呼ばれていたこともあった。でも、人々を助けた善行が認められて、神として祀られるようになったの」
「・・・まぁ、そうらしいな」
九頭龍一族も、紙一重だったというのは知っている。
昔は、贄も多かっただろう。
今ではお社を持つ神であることには変わり無いけどな。
「私たちは邪神と真っ向から戦う。9兄妹、力を合わせて人々を救うって決めてるの。それに、他の神々は各地にお社があるもの。穢れたら大変でしょ?」
リヒメが水晶を紫の布に包んで、こちらに差し出してきた。
「はい、私の水晶と神楽鈴」
「いいよ。見ただろ? 九頭龍の浄化くらい、自分でできる。記憶を消すことだってな」
「違うの、タケルに持っててほしい」
鈴がシャリンと音を立てる。
「これは契約だから。九頭龍一族の巫女が持たなきゃいけないの」
「わかったよ。俺は俺のやり方でやらせてもらうけどな」
「うん・・・・それでいいよ」
神具を受け取ると、リヒメがほっとしたような表情を浮かべていた。
ぶわっ
清々しい風が吹く。
バタンッ
「なんか盛り上がってるって聞いてきた」
「ヤマトタケルさん!」
「・・・一応、ドアから入ってきてもらっていいっすか?」
窓から日本武尊が入ってきた。
「はははは、九頭龍のリヒメから俺のファンだって聞いたんだ。日本で2番目に登録者数の多いYoutuber、天下一の白鳥だ」
「・・・俺、いつファンだって言ったっけ・・・?」
声を潜める。
「知ってる=ファンってとらえるのが日本武尊さんだから」
「あ、そう・・・」
「うんうん。ファンが俺らの力になるんだ。俺たちはいつか日本一になって、ファンのみんなを明るく照らすんだ」
「・・・また抽象的なことを・・・」
「日本武尊さんは、勢いが大事だから」
「・・・・・・・・」
よく見てたけど、目の前に現れると普通の神だった。
神っていうか、今はYoutuberか。
一気に部屋の温度が上がった気がする。
熱い男だよな。この神様。
コーラを飲み干して、立ち上がる。
「あ、タケル・・・」
「俺、そろそろ行くよ。眠くなってきたしな」
こいつらといたら、日が昇ってしまう。
それに、俺は根本的に神のいる空気が苦手だ。
「あぁっ、ちょっと・・・・」
日本武尊さんを無視して部屋を出ていく。
「彼はシャイなのかな?」
「日本武尊さん、すみません。私たち、新宿の悪鬼を倒して帰ってきたばかりで、この通りみんな寝てしまって・・・・」
ドア越しにリヒメがタケルに説明している声が聞こえた。




