10 宴
俺の霊力は、平家の没落とともに募った恨みを代々受け継いだ部分もある。
名を消された陰陽師の一族の子孫は、神にも邪神にもなり得るという。
受け継がれる血の契約があった。
ガキの頃は、式神を集めるのに、便利屋のようなことをやっていた。
式神がいないと、俺は問答無用で邪神になるしかない。
この肉体はただの人間。
霊力を分散させておかなければ、コントロールできなくなるからだ。
まぁ、今はやっていないしやる気もない。
もう、式神は十分いる。これ以上増えると、管理も面倒だしな。
この世界は金で成り立ってるんだから、対価が支払われないなら意味もない。
「タケル・・・?」
「気が付いたか」
リヒメをそっと下ろす。
筆で浄化の文字を描く。
サアァァァァァァァァァ
この場にいる全員の穢れが抜けて、体から鱗のような模様は消えていた。
「すごい・・・こんな霊力があるなんて・・・」
「タケル!」
「待ってください・・・リュシロウ」
九頭龍の浄化くらいなんてことない。
陰と陽は表裏一体。
邪神を従える者は当然、浄化する能力も持っている。
「リュシロウ、穢れは抜けても、体がまだ完全に回復してませんから」
リュシロウがふらふらしながらついてこようとすると、カナエが止めていた。
「タケル?」
「もう立てるだろ?」
そっと、リヒメを下す。
「ありがとう・・・」
俺の正体がわかれば、九頭龍家の巫女になるって話は破談になるだろうな。
まぁ、あの100万がなくなっても、とりあえずは猿田彦さんから貰った50万がある。
しばらく、食うに困ることはないからいいか。
「あ、タケル・・・・」
「俺は陰陽師だ。残念ながら、その辺で人間救ってる陰陽師とは違う。金は返す。黙ってて悪かったな」
息をついて、数珠をしまった。
残りの悪鬼は白虎に倒すように言ってある。
さっきの邪神は殺したし、しばらくは他の邪神もおとなしくしてるだろう。
「わぁ、ここがリヒメの新居か」
「可愛らしい部屋だね」
「うん! 弁天様にいろいろ貰っちゃった」
「・・・で、どうしているんだよ」
リュシロウ、リュウサブロウとリュウゴロウとその巫女、(2人は西洋の妖精っぽい小さな女の子)が来て、なぜか宴が始まっている。
目の前には普段食べることのないような、ピザやフライドチキン、ポテトフライが並んでいた。しかも、持ち帰りじゃなくて、出前で持ってきてもらっている。
リュシロウの奢りらしい。
「お祝いだって。新宿の邪神をやっつけたから」
リヒメがほわんとした笑顔をこちらに向ける。
「やっつけたって・・・」
「すごいね。悪鬼もばーっといなくなっちゃって、邪神もしゅんって消えて」
リヒメが身振り手振りで説明していた。
「あぁ、すごかったな」
「さすが、大国主のおじさんの縁結び」
「効果絶大だったね。いい婿が来たな」
リュウゴロウがピザを食べながら言う。
「ははははは、式神かぁ。かっこよかったなー俺もやってみたいなー」
「リュシロウさん、飲みすぎないでくださいね」
「わかってるって」
リュシロウは日本酒を飲んで、上機嫌になっていた。
カナエが細々と、皿を片づけたりしている。
「俺は、お前らが倒している邪神を飼ってる。敵といえば、近いものがあるんじゃないのか? 別に、今から破談にされても恨まないって。金で・・・」
「絶対いや! 破談なんてしない!!!」
リヒメが大声を張り上げる。
雨雲が集まってきていた。
通り雨が来そうだな。
「リヒメ」
リュウゴロウが咎めるように言う。
「あっ、ごめんなさい。つい・・・」
「ケチャップついてるぞ」
「チキンナゲット美味しくて。結婚式までにダイエットするって決めてたのに」
そっちじゃない。
やっぱり、九頭龍の神々ってズレてるんだよな。
「タケルのことはすでに九頭龍で共有してる。このままリヒメの婿として頼むよ」
ばたん
突然、扉が開く。
「あ、猿田彦さん!」
「おいしそうだな。いい匂い、おぉ! 酒があるのか」
「どうぞどうぞ。新宿の邪神を倒した宴なんですよ。今日は、禁酒開放日ー」
リュシロウがハイテンションで酒を掲げていた。
カナエがため息をついている。
「猿田彦さん、よくここに来るんですか?」
「まぁな。ここはテレビがあるから、妻の応援ができる」
「そっか。ウズメさんの」
「家ではできないんですか?」
「ふむ。家で妻のアイドル活動を応援することは禁止されている。アイドルは人が生み出す虚像を演じ続けなければいけない、僕が応援すると家でも安らげないらしいからね。お、ありがとう」
猿田彦さんがいつの間にか、リュシロウからお酒をもらっていた。
「ウズメさんがアイドル?」
「ウズメさん、リコ知らないの? 猿田彦さんの奥さんはアイドルの雨宮ウズメさんだよ」
「んー、リコはテレビ見ないから」
妖精っぽい巫女たちが、ちょこんと座りながら話している。
「ウズメさん可愛いよね」
「ふふふふ、でへ・・・ふひ、はははははははは」
道開きの神が壊れてる。
「はぁ・・・・」
座り直して、ピザを食べる。
とりあえず、こんなに具沢山のピザなんて食べることないからな。
俺にとっては高価なものだ。食えるだけ食っておこう。




