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9 邪神 来堕

 平安時代に活躍した陰陽師、加茂家、安部家の他に、名を消された陰陽師がいた。

 俺の父方の子孫にあたる。


 受け継いだ神具は古びた数珠と霊力だ。

 俺の霊力は異常に高い。神よりもな。


 ガキの頃は、まだ力を押えられなかった。


「本当にタケルも行くの? 新宿はかなり危険なんだよ。タケルは巫女になって間もないから、家で待ってもいいよ。兄さんたちもいいって言ってるのに」

「問題ないよ」

 リヒメと電車に乗りながら、スマホを眺めていた。

 リヒメの神具はかなり穢れが溜まっている。

 

 本来であれば、避けるべき戦闘だ。


「んータケル、大丈夫かな? 兄さんたちが先にいるから、避けててもらおうかな。タケルに何かあったら大変だから」

「・・・・・・」

 もしかしたら気づかずに、邪神に呼ばれてるのかもな。

 様子を見てみるか。

 和紙を取り出して、筆で蝶を描く。


 ― 黒蝶 ― 


 パッ


 黒蝶が指先に止まった。

 リヒメはぼうっと窓の向こうを見つめたまま、こちらには気づいていない。


 穢れは正常な判断を奪う。

 リヒメの目は曇っていた。


「黒蝶、先回りして、様子を見てこい」

『かしこまりました』


 シュンッ


 黒蝶が窓の隙間から出ていく。


「あ、ぼうっとしちゃった。タケル、どうしたの?」

「Youtubeを見てたんだ。こうゆうのを見てたほうが落ち着くだろ?」

「ふふ、そうだね。じゃあ、私も一緒に見ていい?」

「好きにしたらいいよ」

「へへへ、この動画面白いよね。猫ちゃんが可愛いの」

 リヒメが自分の髪を触りながら、俺のスマホをのぞき込んでいた。




 ゴオオオオォォォォォ


 新宿に着くと人が密集していて、何度もぶつかりそうになった。

 新宿駅東口、ここから新宿三丁目の駅にかけて、悪鬼の住処となっている。

 未浄化の霊も多く、事故も多い場所だ。


「邪魔だ、どけろよ!」

「なんだと、うるせーな!」

 酔った人間が喧嘩している。


 あいつらが、穢れを放ち、悪鬼になっていく。

 悪鬼は嬉しくて溜まらないだろうな。


 今、新宿の空気は淀んでいた。



 ― 清め給え、祓い給え、邪気払いの剣 ―

  

 リヒメが剣を出していた。

 瞳が赤くなり、腕に鱗が浮き出る。


「リヒメ、まだ・・・」


 グルルルルルルルルルルル


 俺の声に反応がなかった。

 完全に吞まれているようだ。


 リヒメの姿は、普通の人間から見えなくなっていた。


 神は人間かられれば、姿が消える。

 でも、状況を見ればまだ早い。

 リヒメは意図せず、龍神となっている状態だ。


『タケル様』 

 黒蝶がふわっと近づいてきた。


『九頭龍一族、リュウサブロウ、リュシロウ、リュウゴロウは邪神に捕まっておりました。名前は来堕』

「聞かない名前だな。最近邪神になった者か」


『おそらく。あとはリヒメを集めれば、黒龍に近づくと・・・』

「そうか。他に神はいるか?」


『九頭龍の異変に気付いた弁才天の使いが、七福神に話しているようです。誰か来るかもしれません』

「その前に片づける。ありがとな」

『失礼します』


 黒蝶を消す。


「!?」

 ドン・キホーテを通り過ぎて、しばらく経った頃、邪神が現れた。

 数十体の悪鬼が取り囲み、街灯を暗く染めている。





『いいねぇ。新宿は楽しいねぇ』

 鼻につく声が響く。


『邪神・・・来堕さま・・・・・』

『成功者が憎い・・・みんな、不幸になればいいのに・・・』


『そうだよな。悪鬼ども。お前らもいつか邪神になれるといいな。そうすれば、こいつらを不幸にできるよ』

 邪神は人のような姿をしている。こいつは、青年のような身なりをしていた。

 悪鬼に囲まれながら、鼻歌を歌っていた。

 

 人間には見えない。


『うまくいけば殺せるかもな』

 でも、奴らの周囲にいる人間は、今にも死にそうな顔をしている。

 穢れは穢れを呼ぶからな。

 これだけの悪鬼が集まっているなら、いつどこで人が死んでもおかしくない。



 グルルルルルルルルルル



 リヒメが悪鬼を飛び越えて、邪神の前に立つ。


『ははははははは、やっと来たな。竜宮のお姫様か』

 邪神が高笑いしながら話す。


 リヒメが襲い掛かろうとしてきた悪鬼を切り裂いていく。

 街灯がチカチカしていた。

 リュシロウたちは、穢れを祓えず、一部が黒龍となっていた。


 ガンッ


 グルルルルルゥゥゥゥ

 ガルルルルルウルルルルルル


『俺には敵わないよ。これだけの力を得たんだ。いいなぁ、新宿。これなら俺の名も、広まるだろう』

 リヒメが手を龍のような形にして、真っすぐ邪神に切りかかっていく。

 邪神が笑いながら片手で止めてい


「リヒメ!!!」

 電柱に隠れて、鈴を鳴らしていたカナエが叫ぶ。



『君も俺らのように邪神になればいいのに。黒龍になれば、こっち側だろ?』


『クソッ』

「リュシロウさん!」

『リヒメだけは・・・』

 リュシロウが穢れを祓えないまま、剣を握ろうとしていた。



 ― 式神、白虎 ― 


『!?』

 片手で陣を組んで、白虎を出す。

 真っ白な虎が悪鬼に飛び掛かっていった。


 ザザーッ


 悪鬼に嚙みつき暴れまわると、悪鬼は勢いよく消えていった。


 ジャラン


 数珠を鳴らす。


『なっ・・・・』

「久しぶりだな。この感覚。いいねぇ、悪鬼が弱ってく様子を見るのも悪くない」

 笑いながら邪神に近づいていく。

 リヒメが飛び掛かってこようとしたのを、数珠で止めた。


「お前は来堕というのか。新入りだろ? 若いな」

『!?』

 俺の顔を見て、邪神が顔色を変える。


 近くで見ると、歌舞伎町のホストのような顔をしているな。

 このあたりの穢れを吸ったからだろう。


『あ・・・貴方様は』

 邪神が俺を見て怯んでいた。


「ここまでやってわからないってことはないだろ?」

 新宿の穢れを集めて、一時的に城を築いてるだけだ。

 こいつ自体、そこまで強くはない。


「一応有名らしい。俺は別に目立ちたいわけじゃないけどな」

『どうしてここに・・・・阿仁三タケルが?』


『は・・・早い・・・・』

 後ろから、リュウゴロウの声が聞こえていた。


 軽く飛び上がって、数珠の形状を小刀に変える。 

 悪鬼がこちらを見て固まっていた。


『阿仁三タケル・・・?』

 リュシロウの声を無視する。


『っ・・・九頭龍一族とともに行動しているという噂は聞いていましたが、まさか・・・』

 来堕が硬直していた。


「はは、俺、今、高校生なんだよ。よく成長してるだろ」

『・・・・・・・そんな・・・タケル様・・・』

 人間たちがこちらにスマホのカメラを向けている。

 これだから人ごみは嫌いだ。


 今の時間を、消すことができるのが神だ。


「依頼は九頭龍たちの穢れを祓い、連れ戻すこと。どうする? 俺の式神になるか? まぁ、式神も多すぎて、どれがどれかわからなくなってきてるけどな」

 数珠を触りながら言う。


『最強陰陽師、阿仁三タケル・・・貴方様は邪神にも近い方だったはず。どうして神なんかに・・・』

「っと、手が滑った」

 邪神の腕に小刀を刺す。 


 ぎゃあああぁぁぁぁぁ


「これくらいで痛いのか? 注射針より痛くないはずだ。修行が足りないな」

『っ・・・』

「獄門はこんなものじゃない。試すか?」

 笑いながら言う。


『か・・・敵わない。でも、お、俺はここで死ぬわけにはいかない・・・・陰陽師、阿仁三・・・』



 しゅううぅぅぅぅ


「!!」

 邪神が腕を押さえて、舌を噛む。

 瞬時に、霧となって消えていった。




「逃げたか。ドブの匂いがする・・・これだから、新宿嫌いなんだよ」

 小刀の穢れを祓う。

 どこかに親玉が居そうだが・・・現れないか。


 とりあえず、目的は達成された。

 数珠をしまう。リヒメの神楽鈴は使うことないだろうな。



『うぅぅぅうううううう』

『タケル・・・さま・・・・・・』

 人だかりの間から、悪鬼のうめき声が聞こえる。


「お前らごときが俺の名前を呼ぶな。今は金次第だ。ガキの頃と違う」


 逃げ遅れた悪鬼たちもまとめて消滅していった。

 リュシロウは気を失い、リュウゴロウ、リュウサブロウと巫女たちがこちらを見ていた。


 俺のほうを見て、呆然としていた。

 

 阿仁三の名は呪われている。俺もな。

 神なら嫌うだろうな。


 手をかざしてリヒメの穢れを祓い、抱える。

 龍にしては軽かった。


「カナエさん・・・俺は両手が塞がってるので。後始末、いいですか」

「あ、はい!」

 カナエが九頭龍の水晶を掲げて、新宿の街を日常に戻していた。

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