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プロローグ

 この世界には穢れ、悪鬼、邪神が存在する。

 陰陽師は鬼や邪神を式神として、武将の戦で活躍し名をあげていた。


 だが、どんなに相手を勝利に導いても、決して名は書物に記載されない。

 一般人からは何も見えないからだ。


 

 俺は令和の時代に、陰陽師橘タケルとして転生した。

 前世の名は覚えているが、全くと言っていいほど記憶がない。


 確か、平将門という名で祀られているはずだが・・・・ほとんどの者は気づいていない。

 なるべく気づかれないようにしていた。

 

 記憶がない前世には、全く興味がなかった。



 じゃらん


 ポケットから小銭を出す。

 所持金505円。かろうじて帰りの交通費になるか。


 今は金がなかった。

 とにかく金がない。

 この世界は、金がなきゃ生きていけないのに、金がなかった。


 両親は消息不明。

 父親は借金だけ作ってどこかへ行った。

 母親は新しい恋人と楽しくやってるらしく、しばらく会っていない。 


 ファストフード店で土日バイトしていたけど、そもそも高校生バイトは給料が低い。

 貯金はもちろんできないし、普段の生活費さえかつかつだった。


 手っ取り早く金を稼ごうと思った。


 申し込んだ先がネットで見つけた、怪しいバイトだ。

 短期間で、かなりの額を稼げるのはありがたい。


 1日で100万? おそらく詐欺か何かに加担することになるだろう。

 まぁ、いざとなれば式神を使うか。


 どうにでもなるはずだ。


 何に祈ったって金は湧き出てこない。

 じゃあ、ドブの中の金でも拾うしかないと思った。


 指定された場所は、木々に囲まれた小さな鳥居の近く、人通りの少ない場所だった。


 で、今俺は・・・・。


「は? だから何を言って・・・」

「さっきから10回くらい言ってる。私は龍神で、君が巫女になって、私と結婚するの。決まったから、よろしく」

「・・・・・・・・」

 よくわからない状態になっている。


 集まったのは俺と、意味わからないこという14歳くらいの少女だけ。


 龍神? 

 正直、あまり、霊力が高いようには見えないが・・・。


 式神の青龍より、はるかに低い。


 まぁ、俺もしばらくこうゆうことから離れてたし、確信はないか。


「ん? どうしたの?」

「いや・・・」

 多分、こいつも闇バイトに応募したんだろう。

 今流行りの薬でも飲んで、ふわふわしてるのかもな。


 瞳は大きく、二つに結んだ髪も艶やかで可愛らしい少女だった。

 こんな少女が、犯罪に手を染めなきゃいけないとは、世の中腐ってるな。


「適当にパパ活やってるほうが稼げるだろ。犯罪は一生傷がつく。俺は別に、未来なんてないからいいけどな」

「パパ活? あ、素戔嗚尊さんへのご挨拶とか?」

「どうして素戔嗚尊が出てくるんだよ」

「ん?」

 話が通じていない。

 少女が首をかしげていた。


「悪いが、お前の電波飛んでる話に付き合う時間はない。俺は早く稼がないと、明日食う金もないんだ」

「うん。確かにお金は大事だけど」

「もう待ち合わせの時間なのに。まさかすっぽかされたのか?」

 少女を無視して、周囲を見渡す。


「依頼したの九頭龍一族だもん。旦那さんはひとりでいいの。あ、龍神がネットを使えるってことが疑ってるの? ネットのやり方は確かに苦手だけど、みんな最低限はできるよ。今の時代、神様がネットを使えるのは当然だから」

「・・・・・・・・・」

「お金が必要なの?」

「まぁな」


「大丈夫、結婚するんだからちゃんと結納金は納めるよ。14歳になったら、巫女さんと結婚しなきゃいけなくて・・・私は女だから、巫女さんは男じゃなきゃダメ。巫女さんって言い方がひっかかる? 巫男さんでもいいよ」

「・・・・・」


 完全にぶっ飛んでるな。

 14歳ならどこかの施設が保護してくれるだろうに。



「そうだ。ここに五円玉入れて」

 小さな鳥居の近くに、ぼろぼろの賽銭箱があった。

 少女が屈んで指をさす。


「ん?」

「そしたら契約することになるから」

 まぁ、いいか。


「ここに入れればいいんだな」

「うん!」


 カラン カラン


「え? 505円、所持金全部?」

「それで近くの交番まで行け。バスくらい乗り継げば次の駅まで行けるだろう。俺は歩いて帰るから」

 弱者は、どうあがいたって弱者だ。


 いつの時代も変わらないか。


 505円はかなり痛かったけど、俺以上に苦労してるやつもいるらしい。

 こんな絵巻物に出てきそうな美少女が、身売りしなければいいが。


 最近は邪神が頑張ってるからな。



 ブワッ




 突然、周辺の木々が大きく揺れる。


「!?」

「リヒメ、ついにお嫁に行くことになったのか」

「しかと見届けたぞ。少年からのプロポーズ」

「へへへ、よかった。これで私も力も安定するかな?」

「もちろんだ」


「プロポーズ?」

 木々の上から、白い装束をまとった青年が2人降りてきた。

 腕が微かに龍の鱗のようになっている。


 マジで、九頭龍一族なのか?


「うん、彼はとってもいい人。私、見る目があるよ」

「そうだな。自分のすべてを相手のために差し出す。なんで素晴らしい婿だ」

「まだ巫女だってば。ゆくゆくは婿だけど」

「すまんすまん。さっそく、式の立会人を集めなきゃな。リヒメがここまで成長してくれて嬉しいぞ」

「うん! 兄さんたちのおかげだよ。これからは立派な龍神となれるように頑張るね」

「・・・・・・・・」


 いや、ありえないだろう。

 俺が見誤ったか。冷静に考えれば気づけたものを、最近鈍ってるな。


 まさか、一番関わりたくないものに引っかかるなんて・・・。


「?」

 リヒメがくるっとこちらを見る。


「不束ものですが、よろしくお願いします。旦那様」

「っ・・・・」

 リヒメが深々と頭を下げた。


「リヒメはちゃんと料理もできる」

「ちゃんと人間への理解も深めるためによく勉強してる、自慢の妹だ。よろしく頼むよ」

「あはは、契約は取り消せないから」


「え・・・・・マジで・・・・?」

 リヒメがにこっとほほ笑む。


 こうして、俺は九頭龍の9人兄妹の末の妹リヒメと結婚することになった。

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