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スナメリ魔王様、お食事!

社畜の本業があれで、スナメリの癒やしを求めていつもと違う時間に投稿_(:3」∠)_

 再びあっさりと現実に順応して、漫画に没頭し始めた魔王を置いて、啓太はリビングに向かった。いつの間にか夕食の時間だったからだ。

 日曜の食卓にはすでに父が席について、ニュースを見ている。つられてテレビに視線を向けると、地域のニュースで銀行強盗があったことが伝えられていた。

 物騒だが、犯人が逮捕されたということを知り、興味を失って、啓太も席に着く。

 啓太に合わせるように、母がすぐに料理を運んできた。豚の生姜焼きの香りが鼻腔をくすぐる。


「いただきます」


 手を合わせて、食べ始める。軽く片栗粉をまぶして旨みを閉じ込めた豚肉と、母特製のタレがみごとにマッチしている。豊かな味が生姜のアクセントと共に、口内に広がった。


「うん、母さんの料理はいつもながら美味いな」


 啓太が思ったこととまったく同じ感想を父が口にして、母は柔らかな微笑みで答えた。そのまま、わいわいと談笑が始まる。

 話題は天気のこと、テレビのこと、仕事のこと、次々と変わり、弾んでいく。リビングに暖かい空気が満ちる。

 不意に、父が啓太に水を向けた。


「今日は何をしていたんだ?」


 その言葉に、啓太の周囲だけ空気が一気に氷点下へと落ち込んだ。

 まさか例によって直美の思いつきに付き合わされて、魔王を呼び出してしまったとは言えない。言っても、電波扱いされるだけなのはわかりきっている。最悪、そのまま病院である。


「いいい、いや。いやいやいや? なななな、なんにもないヨー」

「なんだ? 電波でも受信したのか?」


 しかし結局、あまりにも怪しいどもりかたをしてしまったために、父親に電波扱いされることとなった。

 ちょっとへこんだ啓太は、口数少なく食事を続けた。もそもそ、という表現がぴったりだった。


「ゴチソウサマ」


 啓太は食べ終えると、逃げるように席を立った。




 お粗末様、という母親の声を背中に聞きながら、啓太は自室へと続く階段を上っていく。

 これから、どうするか、などと漠然とした考えとも言えない考えに没頭して、啓太はほとんど身体が覚えているだけの動作でドアを開けた。

 そして、気づく。

 部屋の中の、異様な空気に。まさに異界、と呼べるその雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、啓太は奇跡的な量の意志を動員して、それを見た。

 それは、小さな物体だった。俗にイルカと呼ばれる種族の、小さく、白い一種。

 そして、今日直美の偽召喚によって、魔王をその中に宿すもの。

 スナメリの、ぬいぐるみ。

 ――それが何故か、うつ伏せに倒れ、干からびていた。真綿が詰まっているぬいぐるみにも関わらず、頬がげっそりとこけ、身体は枯葉のようになっている。


「ちょっとちょっと魔王さん! 死の匂いが満ちていますよ!」

「……少年、か」


 啓太が駆けより、仰向けに抱きかかえると、魔王はうっすらとだけ目を開き、唇を小さく動かした。その衝撃で、割れた唇にうっすらと血が滲む。


「私は、どうやらここまでだ……はは、無様な、ものだな。私ともあろうものが、こんな、得体のしれない物の中で果てるとは」

「一体、何が……?」


 啓太はわけがわからなかった。つい一時間ほど前には、すっかりと順応して漫画の虫になっていたはずだ。

 なのに、何が起きたというのか? 啓太の疑問に答える者はなく、ただ腕の中でその命が削れていっている現実だけがのしかかる。


「私はもう死ぬ……だが、地球人も皆殺しだ……」


 そう呟き、魔王の身体が風船のように膨らみ始める。


「またそっちのネタですかあああ!」


 国民的アクション漫画を拝借するのが好きらしい魔王に魂の叫びをぶつける。


「いつか訴えられますよ! いやむしろ訴えてやる!」


 びしっ! と指を突き付けて、ぜえぜえと肩で息をしてから、改めて座り込んで、啓太は尋ねた。


「で、どうしたんです?」


 すると、干からびてこそいるものの、意外と元気な魔王はこちらも普通に座り直して、答えてくる。


「うむ。この寄り代がとても効率が悪くてな。ともかく存在するだけで力を使う。魔法を使えるほどでなくとも、何か力を補充しなくてはならん」


 筋の通った主張に、啓太は魔王が答えを既に持っていることを確信して、尋ねる。


「具体的には?」

「なんか食わせてくれ」


 ごーん、とどこからか音が聞こえた。気がした。啓太の身体がぐらりと傾く。


「腹減った」


 ごごーん。魔王の追い討ちに、啓太はうつ伏せに倒れた。



 リビングで談笑する両親に頼みこみ、夜食という名目でお菓子をもらった啓太は、魔王の前へと差し出した。


「どうぞ」

「うむ」


 恭しく差し出す啓太と重く頷く魔王。お菓子はさながら供物のようであったが、神ならぬスナメリの身では、絵面は最悪と言えた。

 自分の姿にそこはかとない疑問を覚える啓太とは真逆に、魔王はまったく疑いを抱いていないらしい。当然のようにお菓子に手を伸ばした。

まずは、シンプルなバタークッキー。ショートブレッドと呼ばれるそれは、イギリスの伝統的なお菓子だが、小さな姿に凝縮された、圧倒的な満腹感とそれを裏切らない高カロリーのせいで、日本ではいまいち歓迎されていない。

 もっきゅもっきゅ。

 どうやっているのか啓太には想像もつかないが、魔王がぬいぐるみの身でありながら、ショートブレッドを咀嚼していく音だけが部屋に響く。

 だが、魔王の表情は生気に欠けたままだった。


「美味いが……それほど魔力にはならんな。存在の維持が限界か」


 失望のコメントを残し、魔王は次のお菓子へと手を伸ばす。

 今度は国産の柔らかいクッキーに、チョコチップが埋まった物。ショートブレッドと大差のないそれを、魔王は口へ運ぶ。

 もっきゅもっきゅ。

 さっきも思ったカーラ様漫画風の音を立てながら、魔王がクッキーをかみ砕き、飲み込んでいく。

 ――瞬間、魔王の顔に生気が戻った。

 それは、素人の啓太にもわかるほど、はっきりと。

 青白かったスナメリの顔に、赤みが差していく。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐに健康的で愛くるしい白へと落ちついていく。

 その顔が作るのは、驚愕の表情。


「む、うう」

「どう、ですか?」


 唸る魔王に、啓太が期待の声をかける。魔王の身体が、痙攣するように、震えた。


「キターーーー!」


 なんか変な顔のお面でもつけそうな勢いで、魔王が叫ぶ。

 シュタッ、と軽く飛びあがり、綺麗に両足から着地する。


「震えるぞハート!」


 叫びながら、魔王が右手を顔の高さへと持ち上げる。


「燃え尽きるほどヒート!」


 その右手に、白く、細い光がまとわりつく。


「刻むぜ! 魂のビート!」


 その光がつながり、掌から伸びるように、波紋の軌跡を――

 ぷしゅううううう。

 ――描こうとして、霧散した。


「む、むう。効果はあるが、一枚ではこの程度か……」


 ばったりと倒れながら、魔王が震える声で、呟いた。


「何がしたかったんですか、あんた……」


 啓太は三白眼で突っ込みつつ、それでもとりあえずの前進に満足していた。

 細かいことはわからないが、このチョコ入りクッキーなら、充分魔力になる。

 最近サクサクにバージョンチェンジしてしまった方でも大丈夫かすら微妙ではあるものの――

 ようやく、長い一日を終えることができそうで、啓太は微笑んだ。


「み、みず……」


 再び現れたスナメリミイラは、とりあえず無視した。




 魔王に再び水とチョコクッキーを与え、ぬいぐるみが本来あるべき姿に戻ったことを確認して、啓太はベッドに横になった。

 魔王は床にそのままころん、と横になった。特に寒くはないらしく、文句も言わない。

 すぐに白いぬいぐるみは、規則正しい寝息を立て始める。お約束のような、大きないびきは、ない。


「はちゃめちゃな一日だったなあ……」


 啓太は誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。表情には疲れた口調とは裏腹に、笑みが浮かんでいる。


「明日は、もう少し落ち着くといいな」


 自身、そう期待しているわけではないかのように、笑みに僅かに苦みを混ぜて、啓太は眠りへと落ちていった。

魔王:ハラヘッター(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

啓太:そういやスナメリなんだから生の小魚とかがいいのかな

魔王:勘弁してくださいm(_ _) m

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