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エピローグ

 街に夜の帳が下りる頃、直美はようやく校舎を後にした。


 魔王が驚異的なスピードで復活した後、ひとしきりの口喧嘩はあったものの、最終的に魔王は直美の主張を受け入れて、明人とドリマスタを分離した。


 そこまでは、何も問題はなかった。


 続いて魔王はいつの間にか――というよりもそうでもなければ色々と辻褄が合わない――空間的に隔離されていた教室を世界と再接続した。


 それも、問題はなかった。むしろ必要不可欠なことだった。


 問題だったのは、その後だった。


 それぞれが家路につこうと我先にとドアへ向かい、開けた瞬間――


 数人の教師が、鬼の形相で立っていた。


「お前達! 何をしている!」


 生活指導担当の教師がそう怒鳴ると、まるでシュプレヒコールのように他の教師たちも口々に怒りを撒き散らした。


 なんというか、教師が集団で怒りの声を上げる様子はシュールで、普通に怖かった。


一斉にズザザッ、とドン引きするように教室へと戻ってくるクラスメイトたち。


「ちょっと、どういうことよ?」


 あからさまに目立つ魔王を隠すように、ゆっくりと教室を出ようとしていた直美は、魔王に小声で尋ねた。


「彼らの感覚からすれば、ドアがずっと開かなかったのに急に開いたということになる。少女たちが故意に閉じこもっていたと判断するだろうな」

「最悪……」


 直美は頭を抱えたが、問題はもちろん、それだけでは終わらない。


 誰もが忘れかけていたが、明人は銀行強盗であるわけで、いつまでも警察が放っておくはずもない。ドラマのワンシーンのように、校庭に機動隊が駆け付け、慎重に校内へと入ってきた。


 そしてそこで、直美たちは教師に囲まれ、説教を受けていたわけであり、更に肝心の明人は気絶している。


「全員生徒指導室へ来なさい!」

「こんな大人数無理ですよ!」

「気合いだ! 気合いがあれば何でもできる!」

「それが教師のセリフかー!」


 大カオスの始まりだった。

 教師と生徒の小競り合いに、さらに機動隊が突入しようと割り込んでくる。


「全員動くな! 手を後ろに回して腹這いになれ!」

「俺たち容疑者?」

「ええい! 逆らう者は……斬る!」

「いつの時代だー!」

「ならば撃つ!」

「それはやめてー!」

「ええい! 全員黙れー!」

「それは、できない。できないのよ……」

「よくこの状況でさらにかき回せるなお前……」

「天才ですから」

「バスケが、したいです……」


 それぞれがそれぞれに言いたいことをいい、状況に困惑しつつも話をまとめようとして更に収拾がつかなくなっていく。

 しばらくの大混乱の後、まだ中学生に過ぎない直美たちは、とりあえず一旦自宅に帰る。必要があれば後日話を聞くために呼び出される、という事だけが決まり、大人たちはいまだカオスの真っただ中にある。


「さあ、はじめようか」

「ここからが本当の地獄だ……」


 直美としては、いまだ怪しげな主張を繰り返す教師陣と機動隊が、話をまとめて出てこられるかは大いに疑問だったが、深く考えないことにした。

 直美は校門を出て家の近くまで来ると、一足先に逃走し、そこで待っていた魔王に声をかけた。


「啓太は?」

「私がかなり彼の体力を使用した。今は眠っている」


 魔王は直美の意図を正確に汲み取って、続ける。


「少年に話が聞こえることはない」


 その言葉に直美は一つ頷いて、はっきりと魔王を見据える。


「あたしの願い、やっぱり叶えてくれなくていいわ」

「ほう」


 魔王は驚きの声を上げたが、予想していたのか表情は変わらない。


 それに気づきながらも、直美は続ける。


「あの明人って人を見て思ったの。誰かにすがるしかない、ってちょっとカッコ悪いよね」

「人それぞれだが。少女がそう感じたのならば、そうだろう」

「それでさ、そんなカッコ悪いあたしって、やっぱり啓太はがっかりすると思うんだ」


 わずかに直美は俯いて、そして顔をあげた。


「だから、あたしは自分の力で――」


 そこまで言ったところで、ぽん、と軽い音がした。

 見ると、そこにいたのは美形の魔王ではなく、スナメリのぬいぐるみと――

 直美の幼馴染で、大切な人。柏木啓太だった。


「は?」


 直美が思わず顎が外れそうになっていると、啓太が頭をかきながら歯切れの悪い様子で口を開いた。


「え、えーと……」

「ち。時間切れか」


 一方の魔王はあからさまに舌打ちをした。


 そこで、直美の頭の中ですべてがつながった。それは、エジソン以来の光と言っても過言ではないほど、はっきりとつながってしまった。

 すなわち、全部聞かれていたということに。


「う……」

「ん?」


 ぷるぷると震える直美に、つぶらな瞳をわざとらしく向けるスナメリ魔王。

 啓太は大体の状況を理解して、溜息をついた。

 そして眼前で、予想通りのことが起きる。


「嘘だっ!」

「待て待て待て待て! 目つきおかしいぞ!」


 くわっ! とこれ以上ないほどに眼を見開いた直美に、魔王は後ずさった。

 それを追いかけるように直美がまるで鉈でも取り出すかのような勢いで襲いかかる。


「この世界を消して! やり直しを要求するっ!」

「無茶言うな!」


 啓太を完全に置き去りにして、ドタドタと音を立てて走り回る二人を見て、啓太は笑みを浮かべた。そして――


「待たんかあ!」


 空気鉈エアナターを振り回す直美も。


「ふふふははは! 私は今、風になる!」


 逃げ回る魔王も。

 同じ笑みを浮かべていた。




 そして、ふと思う。

 洒落にならない事件はいらないが――

 この騒がしい毎日は、続いて欲しい、と。




「いいだろう。契約は、成立した」


 魔王のそんな声が、何故か聞こえた気がした。

魔王:大・団・円!

直美:どこがよ! やり直しを要求するわ!

啓太:やり直しはないけど、続きが読みたい、という方はぜひ、評価、ブックマークをお願いします!


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