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スナメリ魔王様、不審者発見!

 啓太たちはクラスメイトから僅かに遅れて、教室を出た。ちなみに魔王は啓太の頭の上に落ち着いている。

 そして、下駄箱まできたところで、異変に気づいた。

 先に帰ったはずのクラスメイトたちが、誰も出口から校庭に出ようとしない。


「なんだ?」


 石川がするり、と人混みを上手くすり抜け、彼らが見ているものを確かめようと目を凝らした。


「おい、柏木!」


 そしてすぐに、大声で啓太を呼んだ。珍しい親友の大声に驚きつつも、啓太は石川の隣に並ぼうと前へ出る。

 それが当然の権利であるかのように、全員が場所を開けた。


「どう……」


 どうしたの、と最後まで続けることができなかったのは、すぐさま石川が叫んだためだった。


「氷川だ!」


 彼が指す方向にいたのは、直美と、それから一人の男。

 啓太は思わず絶句する。


「え……!」


 男が、銃を片手に直美を校舎に向かって歩かせていた。




 生徒達が逃げようにも逃げられない状態のまま、男と直美は下駄箱までたどり着いた。


「直美!」


 啓太が叫ぶと、男はちらり、と啓太を見て、直美を突き飛ばした。

 どん、と押されて直美がたたらを踏むのを、啓太が肩を抱いて押さえた。


「大丈夫?」


 半ば抱き締めるような態勢に、直美の顔が瞬間湯沸かし器のように、ぼん、と赤くなる。


「ちょちょちょちょ? 啓太?」


 あからさまに動転した声を上げる直美を気にせずに、啓太は自分の背後へと動かした。

 その男っぽい動作にさらに直美の顔が赤くなる。

 そこで、石川と直美の眼が合った。


「超超超超、いい感じ?」

「古い!」


 どぐあっ!

 迂闊なことを口走った石川が下駄箱に叩きつけられた。しかしそれはさして珍しくもないので、全員が無視した。

 それよりも、と視線が集中するのは、やはり銃を持った男だった。


「お? これ見てもびびんねえのか? 中々すげえガキどもだな」


 黒光りする銃身を見せつけるようにぶらぶらしながら、男が笑い声を上げた。

 楽しそうに。愉快そうに。

 それだけで、誰もが同じ感想を抱く。

 ――もう春は終わったのに、と。

 うっかりと可哀想な物を見る視線が男に集中し、ちゃんと空気を読んだ男のこめかみに青筋が浮かぶ。


「ドリマスタ!」


 叫んだ言葉が何か、理解できたのは一人だった。

 その一人が、啓太の頭の上で、立ち上がるよりも速く、男の口から、違う声が漏れた。


「オッケー、オッケー!」


 軽薄な声が同意の言葉を紡ぎ、男が引き金を引く。

 しゃげえええええ!

 明らかに銃声と違う音が響き、銃口から光がほとばしる。

 ばきばきばき! と盛大な音を立てて、光の顎が下駄箱を食い散らかすように、粉砕していった。

 さすがに洒落にならない事態に、全員が沈黙する。

 その様子に満足したのか、男は笑みを浮かべて、宣言した。


「よーし! てめえらは人質だ」


 言っていることはわかるが、端々がぶっ飛び過ぎていて、理解に苦しむ事態に飲み込まれ、啓太たちは教室へと強制送還されることとなったのだった。




 男は啓太たちを教室へ入れた後、鍵を閉めさせて、自分は教壇にどっかりと座りこんだ。


「さて、てめえらは人質だ」


 先程と同じことを繰り返し、銃口を向けながら、机を窓際と扉の前に固めさせる。

 簡単なバリケードが完成したことに満足したように、一つ大きく頷く。

 その瞳は異様に大きく見開かれ、血走り、瞳孔が収縮している。


「正気じゃないな」


 石川が小さく洩らした言葉に、啓太も小さな動作で頷いた。

 それを、頭の上の魔王がやはり小声で否定する。


「違うな。あれは憑かれている」


 そして、そのまま直美に視線を送る。


「少女よ。お前が何を望もうと、あれが末路だ」


 言われた直美はじろり、と魔王を睨んだ。


「あんた……実はツンデレ?」

「違うわ!」


 即座に魔王が怒鳴り返した。

 それがスイッチかのように、あるいはうっ憤を晴らすかのように、直美も叫ぶ。


「どこが違うのよ! 魂を狙っているくせに! わかったような顔で説教なんかして!」

「私はお前のことを思ってだな!」

「あんたは親かあっ!」


 二人のボルテージはドンドンと上がり、つられて声のトーンも上がっていく。

 クラスメイトにとっては、この二日ですっかりとお馴染みになった光景のため、特に騒ぐ者もいないが、今の教室には一人、その光景を見慣れていない人間がいた。


「おうわあああ! ぬ、ぬいぐるみが喋ってんぞ!」


 かなりの危なさを言動で示していた男は、何故か真っ当な一般人的反応を見せた。

 しかし、もちろんそれは一瞬のことでしかない。


「どどどどど、どうなってんだ? どうなってんだ? なあ、ドリマスタ!」

「いやいやいや、明人あきとよお! 俺に振られても困るってもんだぜえ!」


 またしても、男の口から二人の声が響く。

 もはや、疑いようもなかった。

 明人、という名前らしい男はドリマスタと呼ぶ何かに話しかけ、ドリマスタが明人の口を使って、返事をする仕組みらしい。

 啓太はそれこそが魔王が言った、『憑かれる』という意味かもしれないな、と思いながら、正気ではないが、すぐに発砲されることもないだろう、と判断をして、口を開く。


「あなた達は、なんなんですか? 僕たちを、どうするんです?」


 その言葉に、明人はニヤリと笑って見せた。


「さっきから言っているだろ? 人質だっての」


 ニヤニヤとした笑みを貼り付けたまま、くるくると拳銃を回して見せる。


「何に対しての、ですか?」


 一方の啓太は固い表情を崩さない。明人はふーん、と呟いてから、答える。


「お前すげえな、大したもんだ。普通はこんな状況に放り込まれたら、ガキはパニックを起こすか、思考を停止するかのどっちかなんだが」


 感心したように、しきりに頷いてから、指先で遊ばせていた拳銃を、無造作に啓太に向けた。

 実際、啓太の内心に余裕などあるはずもなかったが、それを押し隠すことには成功したらしい。


「でも、うるせえよ」


 その言葉に、啓太は口を噤んだ。

 明人は啓太の強張った表情を見て満足したのか、銃を再びくるくると回し始めた。


「でもまあ、教えてやるよ。お前たちは、警察への人質さ」


 その、現実に近づいた言葉に、スイッチが入ったかのように教室がざわめく。

 それぞれが小声で近い友人と会話をするが、集まると結構な音量になる。しかも、交錯する会話はノイズと変わらない。


「うるせえ、つってんだろ!」


 苛ついたように拳銃を振り回しながら明人が怒鳴ると、途端に教室は水を打ったように静まり返る。

 視線が明人に集まるのを確認してから、明人が告げる。


「てめえらは俺の質問に答えてりゃいい」


 クラスの代表として認めたかのように、明人は啓太を見る。


「っつーか、その頭の上のぬいぐるみはなんなんだ?」


 ――もとい、啓太の頭にしがみついている、魔王を見た。

 啓太をはじめ、誰もがどう説明したものやら、と悩んでいると、当人が口を開いた。


「私は魔王。単にそう呼べばいい」


 気負うことなく、淡々とそう述べる魔王に、明人は驚いた表情を見せた。

 それは驚愕というよりは、鳩が豆鉄砲を食らった、と表現するにふさわしいというか、むしろ額に入れて見本にしたいぐらいのものだった。


「はあ?」


 そして、再び常識的な反応を見せるが、もう一人、ドリマスタは違った。


「ぶわっはっはっは!」


 彼は、爆笑した。

 従って明人は、驚きつつも爆笑するという、実に奇妙な状態となり、クラスメイトはお互いをつねりあいながら、笑いをこらえなければならなかった。

 ぷっくく。

 誰かの声が漏れたが、懸命に総スルーされた。

直美:なんか悪い奴っぽいのが出てきたわねー

魔王:しかし動揺しない子どもたちだな、まったく

啓太:ある種高度な教育を受けてますからね、ここ数日で。

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