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13話

「うっ……!」


 橋から飛び降りたアスベルは、命綱が伸びきった際の衝撃を身体に受け呻き声を上げる。その瞬間、捜索隊と盗賊が十人近く乗った吊り橋は、アスベルに繋がった命綱によって強くねじれる力を受け、大きく傾いた。


「つかまれー!」


 捜索隊の人間が叫ぶと、自分たちも危険に晒されている盗賊たちは縄をしっかりとその手に掴む。ねじれた橋は、先ほどよりもさらに大きくミシミシと悲鳴を上げ、各所で縄がほつれ板が割れていく。特に、アスベルが命綱を結んだ所はごく細い縄で人二人分の重さを支えている状態であり、その周囲のボロボロになった縄が目に見えてほつれていくのが分かる。


「まずいぞ……!」


 捜索隊の一人が声を上げるのを、盗賊だけでなく遥か下方にいるアスベルとスピカも聞いていた。二人が橋の方を見上げると、二人から見ても明らかに橋の中央にある縄が順番に千切れていく。


「スピカ……しっかりつかまっ……」


 アスベルが言い終わるよりも早く、橋をかろうじて繋いでいた中央の縄が大きな音を立てて千切れ、そのまま渓谷を繋いでいた橋は真っ二つに割れ、その両端を支点にして勢いよく振り子運動を始める。


「うわああああ!」


 橋の上にいた捜索隊、盗賊、そしてアスベルとスピカは、自分たちの体が勢いよく崖へ向かって叩きつけられようとしていることに恐怖し、叫び声をあげる。特に、橋の中央から吊るされていたアスベルたちの体は凄まじい勢いで岩壁へと向かっており、アスベルは咄嗟に何としてもスピカを守ろうと彼女の体を強く抱きかかえる。


「ぐあああ!」


 アスベルたちの頭上でかろうじて縄を掴み落下しないように耐えていた盗賊たちであったが、岩壁に叩きつけられると同時にその痛みに耐えきれず縄から手を離し、叫び声を上げながら河へと落下していく。反対側の捜索隊たちも同様で、数人は何とか縄に掴まったままであったが、その大半は河へと落下していった。


 そんな中、最も勢いよく岩壁に叩きつけられたアスベルは、自身の体をクッションとすることで何とかスピカを守ることに成功していた。しかし――


――ボキッ


 岩壁に叩きつけられたアスベルの背中――その内部から、鈍い音が響いた。


「アスベル――!」


 スピカの叫び声が辺りに響き渡ったが、先ほどまで彼女を力強く抱いていたアスベルの腕が重力に任せてぶらりと揺れる。さらに、その首はぐったりとスピカの方へとうなだれてしまい、命綱によって宙づりになったまま動かなくなってしまったのだ。


「アスベル! アスベル――!」


 二人の頭上からは盗賊や橋の破片が次々と落下していく。かろうじて橋とアスベルと繋いでいた命綱だったが、二人の重さによってそれが結ばれている縄が次第にほつれていってしまう。このままでは、二人も他の人間たちと同じように河へと落下するだろう。


――どうしよう……どうしよう……!


 パニックになるスピカは、アスベルの首に回した自身の腕に、何やら生暖かいものがじんわりと広がっていくのを感じた――何かと思いその箇所に目をやると、ドレスの袖にアスベルのものであろう血液がべっとりとついていた。おそらく、岩壁に頭を強打した際に怪我をしたものだろう。


――そんな……アスベル!


 かろうじて彼に息があることをスピカが確認した途端、二人の重さに耐えきれなくなった縄はついに千切れてしまい、スピカは叫び声を上げることもできず、アスベルを抱いたまま河へと落ちていくのであった。






「何ということだ……。 すぐに河の下流へ部隊を集結させろ! 何としても、王女様の無事を確認するんだ! 急げ!」


 橋の中央から宙づり状態になっているところに駆けつけた別の捜索隊たちは、橋からスピカが落下していく一部始終を目撃し、背筋が凍り付いていた。王女の無事を確認したのも束の間、橋が崩壊しその体は誘拐犯と思われる男と一緒に崖へと叩きつけられ、挙句の果てにそのまま河へと落下していってしまったのだ。


「このままでは……!」


 指示を出した隊長も、馬に乗って下流へ向かった隊員たちを追いかける。彼の後に続くように、渓谷の上から落下していくスピカを見ていたユーリは、彼女の身を案じてその手を震わせていた。


――スピカ様……どうかご無事で……!


 そしてその震えは、同時にアスベルに対する怒りによるものでもあったのだった。


――アスベル……! 貴様、スピカ様の身に何かあれば、ただじゃおかねぇ!






「行ったか。それにしても、無茶なことをするお姫様だ」


「どうでしょう。状況から察するに、例のガキが王女を連れて飛び降りたように見えましたが……」


 部下の言葉を聞いて、意識を取り戻し吊り橋での出来事を遠方から眺めていたゴードンが――ふん、と鼻を鳴らす。


「だとしたら、あの娘と『魔石』の価値を何も理解していない――これで万が一、石が使い物にならなくなっていたら、あのガキ……何としても殺してやる……!」


 苛立つゴードンに怯えた部下は、彼の機嫌を損ねないよう可能な限り存在感を消そうとする。


――さっき不意打ちしてきたクソガキも、あの様子じゃまともに動けまい。問題は、王女の命と石が無事かどうかだが……


 もしも王女の意識が戻らない、または『魔石』が破損しているなどいうことがあれば、治癒術によって大金を稼ぐことができるこの千載一遇の機会は二度と訪れない。


 とんでもない無茶をした青髪の青年を恨みながら、ゴードンは部下と共に、捜索隊が向かった下流の方へと移動を始めるのであった。

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