ドーパミン過剰
「最近、集中力が長続きしなくて……」
立野くんが珍しく研究室から泣き言を言った。
「働きすぎなんじゃない?」
博士の奥さんが心配して言った。
「ドーパミン不足かもしれん」
博士はそう言って、棚の奥から薬の入ったおおきな瓶を取ってきた。
「これを……4錠」
薬の粒をザラザラ出して、立野くんに飲ませた。
「何の薬?」
「お前も飲んでみるか?」
「なんで私まで」
「編み物がはかどる魔法の薬じゃ」
「わー、飲む!」
博士の奥さんは1錠飲んだ。
「おっ!なんかやる気が出てきた!」
「うむ」
立野くんは手こずっていた報告書をちょちょいのちょいでやり終えると、今度は研究論文に取りかかった。
にゃーん。
黒猫のマルが立野くんのズボンに擦り寄ってきた。
「あはは。マル。ちょっと待ってろ、今いいところなんだ!」
あははははははははははははははははは。
「た、助けてぇ」
ハイテンションになりすぎて自制がきかなくなった立野くん。
「あなた!また変な薬飲ませたんでしょ!」
博士の奥さんが博士につめよった。
「ドーパミンを出す薬じゃよ。立野くんの場合、ちょっと量が多すぎたかもしれん」
「でええええええええ」
立野くんは3回回ってとんぼ返りをうち、床に座り込んだ。
「何か、幻覚が見える……。半透明の飛行機が救援物資を運んできた。あははははは」
これはいかん、と博士は別の薬を出してきて立野くんに飲ませた。
がくん。
立野くんはセロトニンの作用でテンションが落ち着き、平常心を取り戻した。
「立野くん。もしまた何か得体の知れないものを飲まされそうになったら、私が止めます!」
博士の奥さんが博士をきっ、と睨んで言いました。