BSSを乗り越えて
好きな女の子に彼氏ができた。
彼女――落合縁は僕の幼馴染で、母さんを除けば最も身近な異性だった。
そんな縁が知らないところで恋人なんて作ったもんだから、かなりへこんだ。そりゃもうかなり。
だけど、そんな僕を救ってくれたものがあった。もの……と言うよりジャンルなんだけど……。
僕が先に好きだったのに……所謂BSSだ。
むしゃくしゃして、親に隠れて買った成人向けの漫画がそのジャンルだった。
BSSとは端的に言ってしまえば、ただの失恋――なんだけど少しだけ違う。
この少しが大きい。本来創作物では主人公にフォーカスされるが、BSSでは女の子の方の視点も多い。
それが最高なのだ!
喉から手が出るほど欲しかったヒロインが主人公以外の男に靡く。
このシチュエーション、ヒロインと付き合った男の視点で見るともうたまらない。
主人公が落とせなかった女の子を自分のものにする。優越感、征服感は計りしれない。
僕は失恋の痛みを極上の快楽へと昇華することができたのだ。
今の僕はリアルでBSSを満喫できる環境にある。これを生かさないのはもったいない。
そして今日、なんと縁は自分の部屋に彼氏を連れ込むらしい。女の子が部屋に彼氏を連れ込む――と言ったら……。
ぐへへへ。楽しみだ。
縁の家は僕の家の真隣にある。そういうことをすれば絶対あの声が聞こえてくるはずだ。
「やん! もうちょっと止めてよ!」
「いいだろ別に。今日はお父さんもお母さんもいないんだろ?」
夜、僕の予想通り行為が始まる前兆となる会話が聞こえてきた。
壁に同化するんじゃないかと思えるくらい、僕は壁に耳を押し当てている。
「その……心の準備が……」
「こういうのは勢いが大事さ。それとも俺のこと嫌い?」
「そんなことないけど……」
「じゃあ、いいよね?」
「…………うん」
きた!
きたきたきたきたきた!
BSS! BSS!
「あん……」
おっしゃああああああああ!!
★★★★★
私の幼馴染――木村公祐は鈍感だ。いつも好意をアピールしているのに私の気持ちに気付いてくれない。
だから私は彼氏を作って公祐の気を引くことにした。もし彼が私のことが好きならば、何かしら行動してくれると信じて。
彼氏と言っても、本当の彼氏じゃない。女友達に男装してもらっての偽装彼氏。
流石に男友達にそんなことをお願いしたくない。私が好きなのは公祐。偽装とは言え、変なことになるのは嫌だ。
私は当て付けのように彼氏を公祐に見せびらかした。そういうことをしたかのように装った。
けれど彼は何も私にしてこなかった。それどころか、日に日に笑顔になっていった。
「彼氏出来たって言ったけど、あれ全部嘘。私はあんたのことが大好きなの」
「へ?」
なんだかムカついたので全部暴露してやることにした。私の気持ちも、彼氏なんていないことも。
「なんでだよぉおおおおお!!」
何故か公祐は悔しそうに地団太を踏んでいた。彼との長い付き合いの中で、こんな姿は見たことがなかった。
ちなみに告白はOKしてもらえた。晴れて私たちは付き合うことになった。
こんな回りくどいことはせず、最初から素直に自分の気持ちを伝えておけばと今になって思う。
最後まで読んで頂きありがとうございました。