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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

強化士の私は好きな人にもうバフをかけたくない

百合作品の練習に書いてみたものです。

このまま世に出さずに消すのも勿体無いと思ったので投稿してみます。

 強化士、それはパーティの攻撃、守りの要になる重要な役割。

 私、リナはそんな強化士として恵まれた能力を持っていた。

 ⋯⋯そして、ほんの少しのデメリットも。



「今日も気張っていくかー!」

 魔物狩りへ向かう最中に声を張り上げて気合を入れているのは私のいるパーティの火力担当をしている剣士のクリス。

 紅い大剣と赤のラインの入ったプレートアーマーを身に付けたその姿は本当に格好いい。


「はぁ⋯⋯朝から本当に元気ねクリス」

「元気じゃなきゃ魔物は狩れないだろ?」

「まぁ、それはそうなのだけど⋯⋯」

 クリスと話しているのは同じく火力担当である魔術師のナナ。

 魔女帽子と呼ばれる黒いとんがり帽子を頭に乗せ、赤いローブを羽織った私達のパーティのブレイン的な存在。


「ウチが偵察に行ってる間に何言ってるのかと思ってみれば⋯⋯元気なのは良い事だけどさ」

 クリス達が話していると急に森の中から人が現れた。


「あはは、皆元気で羨ましいよ⋯⋯ボクは朝から眠くて⋯⋯」

「どうせ、シーナと遅くまでしてたんだろ?」

「そ、そそそそそんなことないよ!?」

「⋯⋯ユーリ、隠せてないし」

 急に現れたのは私達のパーティのシーフであるシーナ。

 そんなシーナは胸の部分にレザーアーマーを付け、腰にはナイフや薬などがベルトに吊るされている典型的なシーフと言った格好をしている。


 そしてクリスにツッコミを入れられておどおどしているのがヒーラーのユーリ。


 ユーリは、神官服を着た金髪の可愛い女の子みたいな見た目をしているけど実は男で、シーナと付き合ってるらしい。


 私は地味で、格好自体はナナに似ている。

 赤いとんがり帽子と黒いコートとかなりシンプルなんだけど、機能がしっかりしてれば良いからね。


 そんな五人が私達のパーティ、紅き螺旋のメンバーだ。

 紅き螺旋って言う名前の由来はよくわかんない。

 クリス曰く響きがカッコいいからだとか。


「ん? ずっと黙ってオレを見てどうしたんだよリナ」

「ううん、何でもないよ」

 本当は嘘。

 私は人に言えない悩みを抱えている。

 それはクリス、あなたが大好きだって事。

 人にどころか、本人にすら言えないんだけど。


「⋯⋯クリス、来るよ」

 そんな話をしていたらシーナが真剣な目をしながらクリスに声をかけた。


「へぇ、数は?」

「⋯⋯三匹かな、この感じウルフ系だと思う」

「リナ、頼めるか?」

「う、うんっ!」

 クリスから急に声をかけられた私はびくっと反応するとすぐさまクリスに魔法をかける。


「絆を紡ぎ、その力を増せ!」

【フィジカルボンド】

 今クリスにかけた魔法は、対象の身体能力を大幅に引き上げる。

 とても強力なバフをかけてくれる魔法ではあるけれど、この魔法は最近の私の悩みの種にもなっている。


「来た来た! いくぜ、ナナ!」

「はぁ、それじゃリナ、お願い出来るかしら?」

「うん!」

「絆を紡ぎ、その魔力を増せ!」

【マナボンド】

 今度はナナに魔法力を高める魔法をかける。


「魔力が漲ってくる⋯⋯やっぱりリナのバフは一味違うわね!」

「それじゃ私も魔法を使うわ! 皆私の後ろに来て頂戴!」

「鋭き風よ、全てを切り裂け!」

【スラッシュウインド】

 不可視の風の刃がこちらへ向かってくるウルフを切り裂く。

 魔法の制御が上手なナナは魔法で首だけを綺麗に落とすとすぐに血抜きを始めた。

 ウルフの肉や皮はそこそこの値段で売れるから協力してしっかりと手早く解体していく。


「おう、お疲れ!」

 私達と別行動をしていたクリスがウルフを二匹抱えながらこちらへやって来た。


「クリス、いつも言ってるでしょ?

 あんまり一人で突っ込まないでって」

「あーもう、いつも聞いてるだろそれ!」

 ナナがキツい口調でクリスにそう問い詰めるけれど、クリスは少し鬱陶しそうにも見える。

 でも、ナナの気持ちも分かるからあまり心配はさせないで欲しいな。


「だったら私の言う事を聞いて頂戴!」

「あーまた始まった⋯⋯」

「ウチらはいつになったらこの痴話喧嘩を見なくなるんだろうね」

「⋯⋯むぎゅー」

「どしたの、いきなり抱きついて来て」

「⋯⋯なんかシーナの事ぎゅってしたくなったから」

 私の悩みの種はこの光景。

 私のかける魔法は絆を深めると言う効果がある。

 だけど、その絆とは愛情を指していて、かけられた人の愛している人への愛情が増していくと言うモノ。


 それくらいならいいんじゃないかって?

 私の好きな人がクリスじゃなければ⋯⋯ね。



「んー! 今日の狩りも大量だったなぁ!」

「本当ね。 リナのバフがあってこそだけれど」

「リナがいなかったらボク達苦労してただろうね⋯⋯」

「まぁウチはリナのバフが無くてもユーリだけは何があっても守るけど?」

「シーナ⋯⋯」

 帰り道で今日の収穫について話しているとしれっとシーナとユーリがイチャつき始めた。

 これはいつもの光景で、最早見慣れたと言っても過言じゃ無い。


「ほらそこ、帰り道でイチャつかない」

「「ちぇー」」

「本当お前らいつも仲良いよな⋯⋯

 頼むから狩りの時に影響出ない程度にしてくれよ?」

 どうやらナナやクリスも同じ事を思っていたようで二人でシーナとユーリに注意していた。

 大丈夫だとは思うけれど、索敵はシーナに一任しているだけに二人とも不安なんだろうね。


「そ、それは悪かったって思ってるよ⋯⋯でもシーナが全然離してくれなくて⋯⋯」

「う、ウチのせいにしないで欲しいし!?」

「「いやシーナのせいだろ」でしょ」

「実は二人も仲良いよね!?」

「⋯⋯羨ましいな」

 シーナ達みたいな関係も羨ましいけれど、私からすると息がピッタリなナナとクリスが羨ましい。


「ん?リナ、何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ!」

 思わず口に出してしまっていたようで、取り繕うと何事も無かったかのように歩き出した。


「⋯⋯ふーん」

 シーナの私を見る生暖かい目に私が気付く事は無かった。



「ねぇ皆、実は話があるの」

 私は今日の狩りが終わった後、宿屋で皆に声をかけた。


「ん?どうしたんだよリナ」

「珍しいわね、何かあったのかしら?」

「大事な話っぽいね」

「相談ならウチらが聞くし!」

 皆優しくていいパーティに恵まれたと思う。

 だけど私の心はもう、限界だった。


「私、近いうちにパーティを抜けようと思うの」

「えっ?」

 私がそう言うと、クリスは大きな声を上げて驚いた。


「リナ、嘘⋯⋯だよな?」

「嘘じゃないよ」

「何で、何でだよ?

 何か、何かオレが、オレ達がしたか?」

「私も気になるわね」

「⋯⋯ウチはなんとなく察してるからあえて何も言わないし」

「えっ、シーナ理由分かってるの?」

「乙女の勘ってやつだし」

「⋯⋯ボクにはわかんないや」

 皆がそれぞれどうしてだとか私に聞いてくる。

 でも、言える訳が無い。


「ごめんね⋯⋯理由は言えない」

「⋯⋯リナ、お願い。 理由だけでも教えてもらえないかしら」

「それは絶対必要な事なのかな?

 それともやっぱり私のバフが必要だから、止めたいのかな⋯⋯?」

「違うわ。 確かにリナのバフは強力よ?

 だけど、無理矢理リナを縛り付けるような事はする気は無いわ。

 ただ、理由だけははっきりさせておかないと私達も次に活かせないの」

「な、なぁリナ⋯⋯考え直してくれよ⋯⋯」

 ナナの言いたい事も分かる。

 だから私は、覚悟を決める事にした。


「⋯⋯分かった。

 じゃあ、クリスにだけ、理由を話したいと思うんだけど、皆はそれでも良い?」

「⋯⋯分かったわ」

「オッケーだし」

「ボクもそれで大丈夫だよ」

「という事だから、少しクリス借りていくね」

「えぇ」

「オレだけってどう言う事だよリナ!」

「いいから⋯⋯着いて来て⋯⋯お願い、クリス」

「お、おう⋯⋯」

 私が真剣な目でクリスを見ると、クリスは渋々といった様子で私に着いて来てくれた。



 私の部屋にクリスを入れると、私はとてつもなく重く感じる口を開けた。


「ねぇ、クリス。

 理由本当に、聞きたい?」

「あ、当たり前だろ!」

「後悔、しない?」

「する訳ない!」

「じゃあ言うよ」

 私はすーっと大きく息を吸い込んでからクリスの目を見ながら話始めた。


「あのね、私の魔法、実はデメリットがあるんだ」

「で、デメリット? もしかしてリナが病気になったり、なんて言わないよな!?」

「ううん、そんな事はないよ。

 ただ私の魔法の副作用、それは⋯⋯」

「それは?」

「私の魔法を受けた人が好きな人をもっと好きになるって言う効果があるの」

「へっ?」

「それでね、私はもう、クリスにこの魔法を使いたく無い、どうしても、使いたく無いの」

「ど、どうして? それくらいなら、別に副作用でも何でもないだろ!?」

「ううん、私にとっては副作用だもん」

「どう言う事だよ⋯⋯?」

「だって、私、クリスの事が大好きだから」

「へっ!? リナが、オレ⋯⋯の事?」

「うん、気持ち悪いよね⋯⋯ごめんね⋯⋯こんな事言って。

 でも、クリスが私じゃない誰かのことを好きになるなんて耐えられなく⋯⋯て⋯⋯」

 私の目に涙が溢れ出てきた。

 もう、終わりだ。

 これで私の初恋は終わり。


「ぐすっ、ごめんねっ、くりすっ、ごめんねっ」

「嫌じゃ無い」

「えっ?」

「オレの気持ちは間違いじゃ無かったんだってやっと分かったよ、リナ」

「しょれって⋯⋯」

 私の心が期待しているのが分かる。

 今、私の心の底から欲している言葉を言われたらきっと、私は⋯⋯


「オレ、いや、オレもリナの事が大好きだ」

「うそっ、絶対うそっ!

 どうせわたしのバフが目当てなんでしょ!」

 本当だと信じたい、だけど、もしこれが私の力を求めての言葉だったらきっと立ち直れない。


「そんな訳無いだろ!」

「ごめん、私、信用出来ないの⋯⋯」

 私は泣きながらクリスにそう言った。

 きっとクリスを傷付けてしまったと思う。


「じゃあさ、これで」

「んっ!?」

 クリスが突然私の唇を塞いで来た。

 クリスの唇で。


「⋯⋯これで、嘘じゃ無いって、分かってくれたか?」

「⋯⋯まだわかんない」

 まだ頭が混乱しているのが分かる。

 だから、ついおねだりしてしまった。


「オレも恥ずかしいんだぞ!?」

「次は、ぎゅって、して」

「ほら、これで良いか?」

「⋯⋯うん」

 優しい声で私にそう言ったクリスに包まれ、私は夢を見ている気分になった。

 大好きな人と触れ合っているこの瞬間。

 本当に、本当に幸せな気分になる。


「クリス」

「どうした? リナ」

「クリスの心臓、ばっくばくしてる」

 私の心臓の音を聞かれないように私はあえてクリスの心臓の音について喋った。


「仕方ないだろ、大好きだったリナとこうしてるんだから⋯⋯」

「大好き? 本当?」

「じゃなかったらこんな恥ずかしい事しないだろ、リナ」

「そう⋯⋯だよね」

 それからクリスは私が泣き止むまで抱き続けてくれた。


「クリス⋯⋯ありがとう。

 もう、大丈夫だよ」

「大丈夫か?」

「うん」

「そっか、でも、ごめんリナ」

「えっ?」

 私に急に謝って来たと思ったら私はクリスに押し倒されていた。


「もうオレ、我慢出来ない」

「もっと、リナとこうしてたい」

「クリス⋯⋯その、私も⋯⋯」

 それから私達はお互いの鼓動を確かめ合うようにぎゅっと抱きしめ合い続けた。


 そろそろ戻らないと皆が心配するかも。


 でも、あと少しだけ、この幸せを噛み締めていたい。



「皆、待たせたな!」

「ごめんね、皆」

「おかえりー」

「おかえりなさい! って、あー、なるほど⋯⋯」

「そう言う事だったのね⋯⋯」

 部屋から出て食堂に戻って来た私達は手を繋ぎながら、皆の所へ戻って行った。


「オレ達、付き合う事にしたんだ」

「⋯⋯ねぇクリス、堂々と言われると恥ずかしいんだけど」

「ウチは絶対そうだと思ったし!」

「まさか、そんな理由だったなんて⋯⋯」

「お、おめでとう二人とも!」

「ありがとう!」

「ありがとな!」

 皆から祝福されて、心の中にあったモヤモヤとした気持ちが無くなった。

 最初はどうなるかと思ったけど、丸く収まってくれて本当によかった。


「⋯⋯と言うわけで私がパーティを抜ける話はなかった事にしてもらえたりしない、かな?」

「ふふっ、リナのいない私達は私達じゃないわよ、改めておかえりなさい、リナ」

「⋯⋯ありがとう、ナナ」

 正直、ナナがクリスの事を好きなんじゃないかってずっと不安だっただけに少し気まずい。


「それにしても、ナナは誰が好きなんだ?」

 唐突にクリスがナナに私も知りたい疑問を投げかけた。


「へっ? いきなり何なのかしら!?」

「リナ、言ってもいいか?」

「うん、いいよ」

「実はな、リナのバフには少し副作用があるらしくてな、リナのバフを受けると受けたヤツは好きな人に対する愛情が増えるらしいんだよ」

 クリスがそう言うと、ナナは何か考え込み始めた。


「⋯⋯通りで」

「思い当たる節でもあんのか?」

「⋯⋯実はこの街の孤児院にいる子が凄く可愛くて、最近ヤバかったのよ」

「ちなみに脈は⋯⋯?」

「ありありのアリよ!」

「お姉ちゃん大好きっていつも来てくれるんだから!」

「ちなみに性別は⋯⋯」

「女の子よ!!」

「良かったなリナ、仲間がいたぞ」

「喜んでいいのか分かんないよクリス⋯⋯」

面白いとか二人このあとどうなるの???と思って貰えたら評価とかして貰えると泣いて喜びます...

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[一言] ※ネタバレ注意 ネタバレ含みますのでまだ読んでない方は注意ですよー なるほどなるほど、こういう表現ですか、ありですね! 元々百合作品という前提で読んでるから分かりましたが、前提がなければこ…
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