プロローグ
そこは、どこかの異世界。
場所は魔王城。
今、まさに勇者が魔王に勝負を挑んでいた。
勇者は聖剣を玉座に座る魔王に向ける。
その刃の先に、綺麗な金髪から黒い2本の角が生えており、すらっとした長身の男を捉える。
「ついに追い詰めたぞ、魔王‼今日こそ、おまえを討ち取ってくれる‼」
「クックック……よく来たぞ、勇者スレイブよ。俺様に挑む愚か者よ。多くの苦難を乗り越え、俺様の下に着たことだけは褒めてやる。しかし、貴様はもう、ここまでだ‼」
魔王が右手をかざせば、黒いエネルギー球を形成して勇者に向かって放つ。
「ダークネスボール‼」
「させない‼シャイニングウォール‼」
勇者は1人でここに来たわけではない。
魔導士、僧侶、女騎士などのパーティーを連れている。
光の壁を展開して黒いボールを防御するが、それは簡単に押し切られては破られる。
「きゃぁああ‼」
「おのれ…魔王‼この人類の希望、聖剣リジェネシスでおまえを斬る‼」
勇者は聖剣の柄を両手で握り、上段に掲げて魔力を注ぎ込み、一気に振り下ろす。
「ブレイブバースト‼」
光の斬撃が飛んでくる中でも、魔王は冷静に右手の人差し指を向ける。
「くだらん……。ダークホール」
目の前に黒い穴を展開して斬撃を防ぎ、そのまま勇者たちも暗黒の中に吸い込もうとする。
勇者は聖剣を床に刺して踏ん張ろうとするが、彼やパーティーメンバーからほとんどのアイテムが奪い取られていく。
ポーションやハイポーションのみならず、戦闘不能に陥っても復活できる不死鳥の涙すらもだ。
「ぐっ…‼この力……流石は、魔王…‼」
「手応えが無さすぎるぞ、勇者よ。このまま暗黒空間に消すのは容易いが、それもつまらん。ここは俺様自らが相手をしてやろう」
暗黒の穴を塞ぎ、立ち上がっては勇者パーティーに歩み寄る。
「みんな……諦めるな‼魔王を倒さなければ、この世界は……人間に未来は無いんだ‼」
「おまえたち人間との長きに渡る因縁。ここで決着をつけてやる」
魔王が左手をかざせば、勇者パーティーは何かに押しつぶされるように地面に倒れる。
「異能力『重力』」
「「ぐぁあああああああ‼‼」」
勇者たちにゆっくり歩みより、身動きが取れないパーティーの周囲に無数の紅い剣を展開する。
「これで、終わりだ。せめてもの情け。最後は俺様自らの手で止めを刺してやろう」
紅い剣の1つを手に取り、勇者に刃先を向ける。
そして、上段から振り下ろす。
勇者にはもはや、聖剣を握る力もない。
しかし、勇者スレイブは諦めることを知らない男だった。
「ま……まだだぁ‼」
彼は懐から最後のアイテムを取り出し、それを魔王に向かって投げつけた。
それは、勇者が王国で旅立ちの時に聖剣と共に渡されたレアアイテム。
瞬間移動用のテレポーターだった。
テレポーターは魔王に触れて発光し、その光は魔王を包み込む。
「・・・え?」
そして、呆気に取られている間に放たれる光は強くなり―――。
「えぇええええええええ!?」
光が魔王を飲み込み、それが収まる頃にはその姿は消えていた。
勇者やパーティーは、その後、魔王城を占拠しては人間にとって細やかな平和が訪れるのであった。
その後、その世界の人間で、魔王セレス・カルトリスを見た者は居なかったという。
さてさて、魔王様はどこにテレポートされたのか?




