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第四話 やーっと骨折がわかるまで

 話を骨折に戻したい。

なんとか日曜日を終えた自分は、相変わらず鬼のように多い白米と味の薄い食事に閉口しながら、左肩を下にして片手でそれを食してはほとんどを下げ返し、吸い飲みから用意してもらったお茶を飲んで時間を過ごしていた。

今日は月曜日。

通常業務も行われる病院がやっと昼の患者を全てさばき終えるのを待ってから、自分は検査予約を入れられていたMRIを受けることになった。

夕方前早めにやってきた看護師は、夜勤では看護師が四人だけになるから今のうちにと言って、自分の腕にルートをつけて慌ただしく帰っていった。

ここから痛み止めの点滴を入れられて感覚が麻痺した後、MRIに放り込まれることになるらしい。


事前の説明ではMRIは上を向いて三十分は動けないらしい。

自分はそれ無理と先に伝えたが、痛み止め入れますからと言われてそれ以上は考えないようにしていた。

それがあまりに酷い楽観だということは、時間が迫るほどわかってきた。

そして現れた多分夜勤の看護師はどうですか? と自分に尋ねるが、痛み止めなんか微塵も効いた気がしない自分は、首を横に振って無理だと思うと答え、実際姿勢を直してはみたがやはり痛みで十秒も耐えてはいられなかった。

困った顔の看護師は誰かに相談。

結局筋肉注射をすることになった。

ちょっと痛いですけど我慢してくださいと言いながら看護師は、自分の左肩奥深くに向けて針をえぐり抜くように刺してくれた。

それは思わず声が出るくらいは痛みを伴うもので、もう止まっていいだろ貫通するわというところよりさらに奥を突かれたような気分だった。

それでも今思えばあの看護師はまだうまいほうだったのかもしれない。

後で聞くと終わった後も延々痛いという話があったくらいだが、自分はその時痛い痛い!と思わず叫んだくらいでそう痛みが長引きはしなかった。

それでも打たれた時は大分痛かったのは覚えているが。

そして少し時間を置いてからどうです? と尋ねられたが、確かに少し痛みが引いて今までより動けるようにはなったが、それでも三十分上向きで寝るのはやはり到底無理なのはわかった。

次第に切れだす看護師は「もういいです! 今日の検査は中止になりました!」と寝たきりの自分にマジギレしていたが、怒りたいのはこっちじゃ、と今でも吐き捨てたい気持ちは変わらない。

あれは酷い態度だったと思う。

そしてその日はまた無駄に過ぎて翌日。

朝知らせを受けた医者が慌ててやってきて言ったことは、自分を切れさせるに十分な一言だった。

「うちも救急病院ですから……いつまでもただ寝かしておくわけにはいかないんで」

この時自分は、本気で「じゃあ帰るわ!」 と立ち上がってベッドを蹴ってやろうかとどれだけ思っただろう。

後に脳梗塞の時にあれだけ仏になれたのは、こういう経験が先にあったからでもある。

さすがにこの余裕のなさはないだろうと自分が言いたくなるのも、少しはわかっていただけるものと思いたい。

結局ベッドの上の重病人である自分は、本当は怒りっぽくて切れやすい感情の生き物である自分の本性を必死でなだめて

「なんとか考えます」

と引き下がる医者に従った。

この時自分とこの医者を辛うじてつなぐ糸は、以前言われたどっか折れているとは思いますの一言だけだった。

その糸に全体重をかけられている自分は、ふつふつと湧き上がる怒りに冷静さを失ってはいたが、やはりなにも出来はしなかった。


その後改めてやってきた医者は

「麻酔で意識を落としている間にMRIに入れます」

と告げた。

これが相当乱暴な仕事らしいというのはなんとなく察せられたが、自分としては特に逆らうことはなかった。

そしてまた日常業務が終わってから検査室に運ばれた自分は、後の主治医で手術の執刀医でもあるメガネ医師に、取ったルートから薬を流し込まれた。

「どうですか?」

「いえなんとも……」

「じゃあもうワンセット」

そして二回目の注射後、自分は完全に意識を失った。

その時一緒についてきた看護師が後に語ったところによれば、自分は顔を結構派手に叩かれながら名前を呼ばれて起こされたらしいが、意識は完全に落ちていたので当然記憶にはない。

そして次に意識を取り戻したのは、MRIの狭い空間の中だった。

事前に耳栓をしていたのでほとんど音はわからなかったが、やけに狭い天井に見慣れない模様が浮かんでいるのが見えた。

自分は昔の漫画にこんな奴いたな、結局大事なもの食っただけでなんか役に立ったっけ、とぼんやり考えていた。

まだ半覚醒ではっきりしない自分は、無事MRIから排出されて、兄ちゃん医者の「これからCTも撮ります」という言葉を聞き、そして人手で移動させられてCTも上向きで撮られた記憶はあるのだが、その間ぼんやりした意識で痛覚もなかった自分は、ほとんど身動きもしていなかった。

そしてベッドに戻され、最初に診てくれた若い兄ちゃんの医者がすぐ傍で看護師と自分が使った耳栓をネタに「使う?」「やだ」と遊んでいるのをやっぱりぼんやり聞きながら部屋に帰った。

医者ってのはつくづく人でなしだと思う。

まあこの程度は本当に序の口なのでいちいち恨みはしないが。


次の日若い兄ちゃん医者がやってきて、やけに嬉しそうに自分に語る。

「今回はばっちり写ってました。やっぱり折れてました。来週手術します」

全てが回り出して気分もいいのか、朗らかに語る彼は昨日朝のちょっと不機嫌な態度はどこにやったのか肩で風を切って帰っていったが、多分そうなるだろうと思ってはいたが心構えの一つをする間もなく速攻で手術と言われた自分は、どーんと打ちひしがれるしかなかった。

入院が日曜日、月曜日検査失敗、火曜日再検査、水曜日手術決定。

そしてあれよあれよと話が進んで、手術は月曜日となった。

早すぎるぅ。

だが考える時間がないというのは救いでもあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか、身につまらせる話ですね。 ところで、レビューを書きたいと思ったのですが、 いかがでしょうか。
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