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8話 本気と10倍

 そこは、決闘場と呼ぶには、少し寂しい作りをした場所だった。


 屋根もなければ、壁もない。

 土の地面に、戦闘領域を示す白線が引かれているだけの空間。


 もはや、「決闘場」という名前がついているだけで、ただの「空き地」と言ったほうが正しいくらいだ。



 そんな場所だからーーー本当は、ギルドに使用するための許しを得なくちゃいけないのかもしれないけどーーー正当な手続きを持って許可を取るだなんて、面倒な手続きは誰もしようとしなかった。


 勝手に侵入をして、勝手に使わせてもらう。



 今、この場には、俺とヒナリアちゃん…………それと5人組の合計7人がいる。



「ケビンさん……」


 ヒナリアちゃんが、俺を心配そうな目で見つめてくる。

 ……自分のせいで俺を巻き込んでしまった、との罪悪感もあるのかもしれない。


 ……こんなに可愛らしい子に……、こんな顔、させやがって……。

 奴らに対する苛立ちが増してきた。



「別に、ヒナリアちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、100%あいつらだ。あいつはきっと、学生時代から、俺がずっと気に食わなかったんだ。どうにか因縁をつけて、こうやって戦いに持ち込む腹づもりだったんだよ。遅かれ早かれ……、ヤツとはこうやって決闘する羽目になっていたさ」

「そうで……しょうか……?」


「『炎炎陸亀(ファイアー・タートル)』のときも言ったでしょう。大丈夫。安心して見てて。…………戦闘には、そこそこ自身があるんだ」


 俺は、ヒナリアちゃんにそう言い残すと、決闘場の中央で待ち構えるギンザの方へと向かっていく。




「…………武器はいらねぇのか?」



 剣を手に持ったギンザが言う。

 楽しい見世物でも始まったと思ってるのか、ギンザのパーティーメンバーの4人は、ニヤニヤと汚い笑みを浮かべていた。


「いらないよ。素手が、俺の武器だ」


 『炎炎陸亀(ファイアー・タートル)』のときも、素手で敵を倒した。……こいつが、あの亀よりも強いとは思えない。

 素手で、十分すぎるくらいに十分。


「そうかよ。………まぁ、武器を持とうが結果は変わらねぇだろうけどな」


 ギンザは、剣を上段に構える。

 構えを見て、気づく。

 ………なるほど。

 ギンザは、剣を持った素人ってわけじゃあなさそうである。

 一応は、冒険者。

 ーーーそれに、「冒険者育成学園」を卒業している。


 剣術に関する授業もあったなぁ……。

 実技の授業を全て欠席するわけにはいかないので、適当に剣を振って、時間を潰していた思い出がある。


 ギンザの構えからは、研鑽を積んだもの特有の雰囲気が、醸し出されていた。


 ………真面目に訓練してきたならば、その成果は、モンスター相手にぶつければいいものを……。

 それを、人間相手に披露しようとするから……。


 ーーー悲劇が起きる。


 これから、ギンザの身に起きることを考えると、少しだけやるせない気分になってきてしまった。


 …………やるのは、俺なんだけどね。




 戦闘開始の合図をかける第三者はいない。

 いつ始めるからは、俺ら次第。


 俺から仕掛ける気はない。

 ただじっとギンザを見つめて、ギンザが攻撃してくる瞬間を待った。


 かかってこい、と。

 ーーー目で伝える。



「オラァァァァァァァッッッッッ!!!!」



 俺の立ち姿から、隙でも見つけたのかーーーギンザは、威勢のいい掛け声とともに、剣を振り下ろしてくる。

 俺は、少しの動かずにーーーむしろ、足の裏を地面へと強く押し付けて、ギンザの剣を待った。


 ………のろい。

 のろすぎだろッ!!


 俺は、ギンザの剣の軌道を、しっかりと視界にとらえ続けて………その刃を「額」で受けた。


 フンッ!

 額で剣を叩き折る。



「………………なッ!!」



 信じられないものを見るかのような表情を、ギンザがする。

 『落ちこぼれ』のはずの俺に、あっさりと剣を折られた事実が、受け入れられないのだろう。


「……剣が、お前にとっての最強の武器ってわけじゃないだろ……?」


 冒険者になるような人間は、そのほとんどが、スキルを持っている。

 特に、うちの学園の卒業生ならば尚更だ。

 卒業できた者の全員が、何かしらのスキルに目覚めているはずである。


 ………………俺も含めて。



「使えよ、スキル。そうじゃなきゃ………相手にならないよ」

「…………どんなトリックを使ったのかはわからねぇけど……いいだろう。本気でやってやるよッ!これが、俺のスキルだッ!!」


 ギンザがそう叫んだ瞬間、ギンザの身体が青白い光に包まれる。


 ーーー『青光能力波(スキル・ブルー)』。


 スキルを発動した者に現れる身体反応だ。

 大抵のスキルを発動した際に、身体から出てくる可憐な『光』である。


 『青光能力波(スキル・ブルー)』は、スキルを習得している者なら、誰でも見ることができる。


 ギンザがこれを発しているということは、ギンザが何かしらのスキルを使った証なのある。




「俺のスキルは、『限界突破ノ火事場力リミット・ブレイク・パワー』。このスキルを発動している際………、俺の身体能力は10倍まで上がるッ!!」



 ギンザは、聞いてもないのに、ペラペラと自分のスキルを説明を始めてくれた。

 …………自分を不利にするだけの愚かな行為。


 好意的に解釈するなら……自分の優位を証明し、俺を絶望させるための策といったところだろう。

 ビビらせて、足をすくませる。



「こいつは、便利なスキルでよぉ………。モンスターを全力で殴るとなぁ、分厚い肌を貫通して、腹わたをブチまけさせることができるんだよ。……本気で、人間相手に使ったことはねぇけどさぁ……、まぁ、生き残ることは無理なんじゃねぇのぉ? 素手で十分なのは、お前だけじゃないぜ?」



 ペロリ。

 ギンザは、下品に舌なめずりする。



 ーーー『限界突破ノ火事場力リミット・ブレイク・パワー』。

 身体能力を10倍にするスキル。


 …………なるほど。確かに、いいスキルだ。


 身体能力ということは、腕力はもちろん、走力、跳躍力など、筋肉を駆使するあらゆる「力」が10倍になるということだろう。

 シンプルで汎用性が高くて、使い勝手が良さそう。

 どんなモンスターを相手取ったとしても、有効に使うことができるはずだ。


 スキルを見るに、ギンザは口だけの男じゃなかった。


 威張り散らすだけの「自信」と「力」をしっかりと持っていた。

 …………まぁ、だからって人様に迷惑をかけてもいいわけじゃないけどね。



「くくくくく………。今すぐ土下座して謝るんだったら、許してやることも考えてやらなくはねぇよ」

「えっ? 何言っちゃってるの? もしかして、ビビっちゃった。もうさぁ……、いい加減にお前の顔も見飽きたからさぁ……、トドメさしてやるよ」

「そうかよ、そうかよ。そういう態度かよ………」



「じゃあ、死ねやッ!!!!」



 ギンザは、俺に向かって殴りかかってきた。

 10倍の力がこもった拳が、俺の身体に照準を合わせたッ!

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