①道行き、大体、同じ
いろいろ勉強しながら書き進めていこうと思います。よろしくお願いします。
移動の旅に翻訳や検索を逐一行う、といったことはもうほとんどしなくなった。空港も電車もバスも、必要な情報はきちんと拾えるようになった。初めのうちは、緊張してるくせにアナウンスの声や掲示板の文字を全部理解しようとするせいで、乗り換えの度に足止めを喰った。でも慣れてくると、結局母国語も外国語も似たように処理できるようになる。必要な単語だけに注意を向け、文章はきちんと読み聞きせずに雰囲気で内容を知る。ここまで散漫にしても案外、異変があった時にそれを察知し損ねる事は無い。人間とはよくできた生き物である。
しかし最近はいよいよ移動の仕方の普通が変わってきた。去年あたりから、現地人と仲良くなっては一晩飲み明かし、翌日に目的地まで送ってもらう、といった旅路がほとんどである。ただでさえ母国より低い物価水準なのに人の家で寝食を済ませる、となると支出の機会はほとんど無い。財布の中身の心配をしない旅人なんてものは流石に数えるほどしかいないだろう。流石に幾らかは支払おうとするが、それも止められる。向こうにとっては栄華を極めた島国の住人というのは興味深い存在らしく、見慣れないキャラバンが見たことのないような品を持ってやってきたような感覚らしい。私の個人的な趣味も重なって、私の話を聞くのも面白いそうだ。だからお金なんかどうだっていいらしい。どうでもいいわけないだろうに。
砂埃を巻き上げながら車は山へと向かう。伸び伸びと車窓から朝の景色を眺める。普通の客席からのそれと比べて、助手席からの景色とはいいものである。
「にしても、忍者なんて今はいないんだけどなぁ。」
「まぁいいじゃねーの、兄ちゃんよぉ。どうせ俺たちが日本に行く事はねぇんだ、本当の事ばかりじゃつまんないだろう? あれくらいでいいんだよ、夢があってちょうどいい! それにあれだ、忍者だろう? 兄ちゃんに存在を確かめられてりゃそれは忍べてねぇってこった! そんなのは忍者とは言えねぇな! だから本物は実はまだいるのかもよ?」
「ふっ、賢いのかアホなのか分からないね、その発想の転換。」
「ポジティブってやつだよ!」
車を走らせてくれているこの青年の家族との宴の中でいくつか日本の話を聞かれた。その中で忍者を本気で信じている少年がいた。しかもやけに詳しい。そこまで詳しいのになぜ実在するかどうかの情報だけ拾えてないんだと思い、真実を伝えようとしたら彼に邪魔されたのだ。
「にしても兄ちゃん、よくこんなところ知ってたな。このあたりの人間でも若者はほとんど知らないんだぜ? 頭のいかれた一族が住んでる、としか理解してねぇ。」
「人しか見てないんだろうね。しかもそれすら不十分。だからそういう印象になるんだろう。よくある事だよ、何回も見てきた。」
「へぇ、そうかい。そろそろ着くぜ、この辺りで降りるんだろ? 支度しな。」
「うん。ありがとう。帰りもまた君の所を訪ねるかもね。」
「おう! 今度は村のやつらみんなでパーティーだ!」
「いいね。それじゃ、行ってくる。」
世界どこでも日本車はあるらしく。去っていくエンジン音にはあまり旅情を感じない。しかし景色は違う。木の一本も育たない、砂場で子供が作りがちな山が現実に出現したような、そんな山がいくつも眼前に広がる。この山の向こう側の麓にその一族は住んでいる。いいや、社会がある。
民間のバスも素通りするらしく、やはり人が訪ねる事はほとんど無いのだろう。そう思い始めると、宝物を独り占めしたような心地になり、胸が躍る。さぁ、行こう。




