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ヘル編5

「ヒッヒイイイイイ!? 許して!? ゼノビア様ー!?」

リゴールは甲高い悲鳴を上げた。場所はガスパル宮殿・玉座の間。

闇の魔女ゼノビアがリゴールの顔を手でつかみ、持ち上げていた。闇のいかずちがリゴールに加えられる。

闇は恐怖で人を支配する。闇の支配とは恐怖の支配にほかならない。

「巫女アイーダを奪われた罪は重いぞ」

ゼノビアが重苦しく言い放った。ゼノビアはリゴールが巫女アイーダを奪われた罪を追及していた。

「ヘル神に捧げる貴重ないけにえを奪われるとは。それも、あの光の英雄に!」

「ヒイイイイイ!? ゼノビア様! お助けを! ご慈悲を!」

リゴールは嘆願した。しかし、ゼノビアは本気でこのまま始末してしまおうかと、思考を巡らせていた。

「ゼノビア様! 今一度チャンスをお与えください!」

「……よかろう、今一度おまえにチャンスを与えよう」

ゼノビアは手から力を抜いた。リゴールが落下した。

「ハア、ハア、ハア…… ありがたき幸せでス」

リゴールの隣ではエリスが膝を付き座っていた。

「エリスよ、そなたにも罪があるぞ。ガスパル帝国軍と共に、アルモリカから撤退してくるとは…… 許しがたい!」

「はっ! 申し訳ありません、ゼノビア様! しかし、私の力では光の英雄セリオン・シベルスクに勝てませんでした」

ゼノビアは右手をエリスの前にかざした。

「ああああああ!?」

エリスの周りで放電が起きた。

「わらわは無能者に用はない。用がないなら始末するだけじゃ」

「ああああああ!?」

エリスが絶叫を上げた。

「しかし、まだそなたには使い道がある。それゆえ、こたびの失態を許してしんぜよう」

エリスの周りにあった放電が収まった。エリスはばたりと倒れた。

「はあ…… はあ…… 肝に銘じておきます……」

「やれやれ。ふがいない部下には失望させられるのう。まあ、よい…… 今のところは余興にすぎぬ。すべてはヘル神の復活のために!」




公園にて。セリオンとアイーダは公園のベンチに座っていた。アイーダはセリオンの隣で足をぶらぶらさせている。のどかな昼だった。陽光が二人に当たる。

セリオンは悩んでいた。セリオンはこれから皇宮に潜入するつもりだった。しかし、アイーダを連れて行くわけにもいかない。アイーダをどうするか…… 

「さて…… どうしたものかな……」

セリオンはアイーダの顔を見た。

「? どうしたの? セリオンお兄ちゃん?」

「お困りのようだね、英雄よ」

「おまえは、スラオシャ……」

二人の前に輝く銀髪の青年が現れた。服は黒で、メガネを掛けている。

「教会に彼女を預けるといい。教会なら彼女を守ってくれるだろう。それに……」

「それに?」

「ここのブレスラウ教会はレジスタンスのアジトでもあってね。君には何かと便利だよ」



「ねえ、セリオンお兄ちゃん」

「? 何だい、アイーダ」

「何かお話をして」

「お話しかあ…… うーん……」

公園でアイーダが話した。セリオンは困った。そういうものとは縁が薄かったからだ。

「そうだなあ…… 騎士パルジファルの龍退治っていう話はどうかな?」

「なあに、それ?」

「昔々、パルジファルという名の騎士がいました。パルジファルは白い馬に乗って、とある王国を訪れました」

「うん、それで?」

「王国では困ったことが起きていました。邪悪な龍がお姫様をいけにえとして要求していました。

父の国王が困り果てているまさにその時、騎士パルジファルがやってきたのです。騎士パルジファルは国王から龍退治を引き受けました。パルジファルは白い馬にまたがると、龍のいる洞窟にやってきました。パルジファルは馬から降りると、剣と槍、たいまつを持って洞窟の中へと入っていきました。洞窟の最深部で、パルジファルは邪悪な龍を見つけました。邪悪な龍はパルジファルに毒の息をはきつけようとしてきました。まさに、その瞬間、パルジファルは手にした剣で龍ののどを貫き、龍を絶命させました。かくして邪悪な龍はパルジファルによって倒されたのです。パルジファルは龍の首を持って王国へと帰ってきました。国王とお姫様はたいそう喜びました。その後パルジファルはお姫様と結婚しました。王国には平和がもたらされました。めでたし、めでたし。

……どうだい、アイーダ?」

「うん、とってもおもしろかった!」

「はは、それはよかった。俺はあんまりおもしろそうなお話を知らないんだよ。母さんならけっこう詳しいんだけどね」

「セリオンお兄ちゃんのお母さん? どんな人?」

「そうだな。神への信仰にあつい人だよ。本当に神を信じている。美しい信仰の持ち主。誇りをもって自慢できる、そんな人。それはそうと、ほかにもお話があるけど、聞きたいかい?」

「うん、アイーダは聞きたい!」

「よし、それはこんな話だ。ペルセウス神話。昔々、アルゴスという国に、老王アクリシオスがいました。

アクリシオスは娘ダナエから生まれてくる息子に殺されるという、神託を受けました。アクリシオスはダナエを塔に閉じ込めて監禁しました。神託の成就をアクリシオスが恐れたためです。これで安心かとおもいきや、そうはなりませんでした。ある夜、星のかけらがダナエのもとに降り、ダナエの体内に宿りました。ダナエは妊娠しました。月満ちてダナエは男の子を出産しました。男の子は『ペルセウス』と名付けられました。神託の成就を恐れたアクリシオスはダナエとペルセウスを木箱に入れて海に流しました。二人は漂流し、島に流れ着きました。二人は親切な漁師に見つけられ、保護されました。ペルセウスはその後、たくましい若者に成長しました。ペルセウスが二十歳になったとき、人を食べる怪物『ゴルゴン』のうわさを耳にしました。勇敢なペルセウスは、ゴルゴンを退治することを、自ら名乗り出ました。しかし、そこにまったがかかりました。賢者ケイロンがペルセウスの前に現れました。ケイロンは言いました。人食いの怪物ゴルゴンは恐るべき強敵、今のまま戦いに行っても勝ち目はない。その前に我がもとで修行するのだ。ペルセウスはケイロンの申し出を受けました。その後、ペルセウスはケイロンを父とし、修行にはげみました。やがてペルセウスは大きな力を身に付けました。時がやってきました。ペルセウスは賢者ケイロンから武具一式――剣、鎧、盾、羽のついたサンダルを受け取りました。ケイロンはペルセウスを激励し、今や修行は終わり、ゴルゴン退治に行くべき時がやってきたことを告げました。ペルセウスとケイロンは熱い抱擁ほうようをかわしました。ペルセウスはゴルゴン退治の旅に出発しました。ペルセウスは長い旅ののち、さびれた都にやってきました。ゴルゴンは壊れた神殿を根城にしていました。ペルセウスは人食いの怪物、ゴルゴンに戦いを挑みました。ゴルゴンは頭に無数の蛇がはえている巨大な首でした。ゴルゴンは精神破壊攻撃をしてきましたが、ペルセウスには効きませんでした。ケイロンと気息の修行を積んでいたからです。気息は精神の上位領域であり、自発的活動の源です。恐るべき怪物ゴルゴンは強敵でした。しかし、ペルセウスは剣でゴルゴンの額を貫きました。ゴルゴンは絶叫を上げました。ゴルゴンはどす黒い粒子となって消滅しました。ペルセウスは怪物ゴルゴンに勝利しました。ペルセウスは帰路につきました。ペルセウスの前に、一頭のペガサスが現れました。ゴルゴンの持っていたどす黒い闇黒エネルギーが暴走しました。ペルセウスはペガサスにまたがり、闇黒エネルギーの衝撃から、急いで逃れました。ペルセウスは危機を乗り切りました。ペルセウスは帰路の途中、リュミダの町に立ち寄りました。リュミダの町では、槍投げ競技会が行われていました。腕に覚えのあるペルセウスは出場を決意しました。ペルセウスは投げ槍を投げましたが、誤って観客席に槍を投げてしまいました。槍は不幸なことに、一人の老人に直撃しました。老人は息絶えました。実はこの老人こそ、老王アクリシオスでした。娘ダナエから生まれてくる息子――つまり孫に殺されるという神託はかくして成就しました。これにておしまい。

オレステイア Oresteia

昔々、ある国にオレステスという王子がいました。王子の父は戦争に出ていて十年間不在でした。オレステスは父が遠征から帰ってきたと聞き、国に戻ってきました。オレステスは墓地でいとこのエレクトラと再会しました。エレクトラは美しい娘に成長していました。オレステスはエレクトラから、今エレクトラが召使としてこきつかわれていることを聞きました。そして、母が情夫と共に国を支配していることも。さらに、母クリュタイムネストラが父アガメムノンを殺害したことも知りました。オレステスは怒りに燃え、父の仇を討つべく闘志を燃え上がらせました。そこに賢者ケイロンが現れました。彼はまずオレステスに怒りを鎮めるよう、うながしました。オレステスは怒りの炎を消しました。怒りは憎しみにつながるからです。賢者ケイロンは言いました。おまえの母は国を支配するために魔性に堕した。魔性の力は強大だ。私のもとで、気息の道を学ぶがよい。オレステスはケイロンの言葉を受け入れ、共に修行することにしました。そうしてオレステスは気息を身に付けました。そして、邪悪な存在に魂を売り渡した母を倒すべき時がやってきました。賢者ケイロンはオレステスに幅の広い剣ブロードソードを手渡しました。そして言いました。神のたまものがおまえにありますように。オレステスはエレクトラの手引きで王宮に侵入しました。オレステスは浴場で母の情夫を剣で殺害しました。オレステスは母の部屋で、実の母クリュタイムネストラと再会しました。母はオレステスとの再会を喜びました。オレステスは母の父殺しを告発しました。父アガメムノンを殺したことは断じて許せない。母はアガメムノンを非難し、妻の不遇を訴えて、命ごいをしました。オレステスはそれを無視し、これは神罰だ! と叫ぶとクリュタイムネストラのおなかを剣で突き刺し、殺害しました。オレステスはその後エレクトラと結婚し、幸せに国を統治しました。おしまい。

……どうだった? おもしろかったかい?」

「うん、とってもおもしろかった!」

アイーダはにこやかに言った。

「それはよかった。俺が知っている話なんてそんなにないからな」

セリオンはほほ笑んだ。内心、おもしろく思ってくれるか、不安だったのだ。

「セリオンお兄ちゃん、またおもしろいお話を聞かせてね」

「ああ、機会があったらな」


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