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ヘル編4

セリオンはブレスラウに到着した。ブレスラウは絢爛豪華けんらんごうかな都だった。ガスパル帝国の首都としての威容を誇っている。

「さて、これからどうしたものかな」

セリオンは列車から駅に降りた。駅から公園に移動する。

「まずは情報収集かな」

セリオンは公園内を歩いた。

「ん?」

セリオンはふと、茂みの近くで倒れている女の子を見つけた。セリオンは近づいて声をかける。

「おい、君! 大丈夫か?」

「? ここは……?」

女の子は目を覚ました。そして、立ち上がった。

「ここは公園だ。君の名前は?」

「Mius Naasch sint Aiida. (私の名前はアイーダ)」

「!? 驚いたな。シベリア語が話せるのか」

「お兄ちゃんは誰?」

アイーダは目をぱちくりさせた。

「俺はセリオン。セリオン・シベルスクだ」

「セリオンお兄ちゃん?」

「ははっ、好きに呼んでいいよ」

アイーダの髪は長い黒で、瞳は赤紫色であった。アイーダの服装は異国情緒な洋風巫女装束だった。

「君はどうしてこんなところに倒れていたんだい?」

「アイーダ、逃げてきたの」

「逃げてきた?」

「うん。怖い人たちのところから逃げてきたの」

「訳ありみたいだな。シベリア語が話せるとうことは、君はシベリア人だね。ほかに親はいないのかい?」

「アイーダに親はいないの……」

「親もいないのか…… しょうがない。ほかに誰もいないし、俺が君を保護しよう」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「ははは。まるでシエルやノエルみたいだな」

セリオンは左手でアイーダの右手をつかんだ。アイーダは自分の右手に力を込めて握り返した。

「見つけましたよ、巫女よ。こんなところにいたのですね」

「!?」

アイーダはセリオンにしがみついた。声のほうをセリオンは見つめた。

そこには黒い衣の闇黒教祭司が立っていた。

「闇黒教祭司か…… 何が目的だ?」

「わたくしの目的はその巫女です」

「巫女?」

セリオンはアイーダに視線を向けた。

「闇黒龍ヘルの巫女のことですよ」

「また闇黒龍ヘルか。そんなにヘルが好きのようだな」

「当然です。闇黒龍ヘルは我らの『神』! 崇拝の対象なのですから!」

「この子はシベリア語が話せる。この子はシベリア人だ。つまり俺たちの同胞、姉妹だ。おまえたちに渡すつもりはない」

「それでは、あなたには死んでいただくしかない。さあ、死にたくないなら巫女をこちらに渡しなさい!」

「断る!」

「では、死んでもらいましょう! 死霊破しりょうは!」

闇黒教祭司は手から冷たく暗い闇の球を出した。セリオンは片刃の大剣・神剣サンダルフォンを召喚した。セリオンは右手で大剣を持ち、左から右へと大剣を振るった。死霊破は斬られた。

「アイーダ、少し離れていてくれ」

「うん……」

セリオンはアイーダを守るように前に出た。

「フハハハハ! 巫女から離れましたか。むしろそれは好都合というもの。手加減する必要がなくなったのですからね。わたくしは闇黒教祭司ノーフォルク! わたくしの呪術によってお相手いたしましょう!」

ノーフォルクは両手を上げた。ノーフォルクの両手に魔力が集まる。

「くらいなさい! 怨霊破おんりょうは!」

闇の怨霊たちがセリオンに降りかかった。怨霊が悲鳴を上げるような音が響きわたった。セリオンは怨霊の群れに呑み込まれた。

「フッハハハハハ! どうです! すばらしいでしょう、闇の力は!」

ノーフォルクはアイーダに目を向けた。

「さあ、巫女よ。私と一緒に来なさい。ゼノビア様がお待ちですよ」

アイーダは身じろいだ。

「いや! 絶対にいや!」

「フッフフフ、それも無駄なこと。いやでも力ずくで……」

「そうはさせない!」

「!? なんですと!?」

その瞬間、セリオンによって怨霊破は叩き斬られた。怨霊破が薄れてセリオンが姿を現した。

セリオンの大剣が光輝いている。

「ええい、忌々しい! これでもくらいなさい!」

ノーフォルクは再び怨霊破を出した。

「無駄だ!」

怨霊が波のようにセリオンに襲いかかる。セリオンは左下から右上へ大きく光の大剣を振るった。

セリオンの刃が怨霊破を斬り裂いた。

「なぜです!? なぜ怨霊破が斬られるのです!?」

「この剣は神剣サンダルフォン。闇を断ち切るつるぎだ」

「くっ、おのれ!」

「遅い!」

セリオンはダッシュするとノーフォルクを斬りつけた。

「ぐはあっ!? そんな…… この、わたくしが……」

ノーフォルクは倒れた。

「お兄ちゃん!」

「アイーダ」

「怖かった!」

アイーダがセリオンに抱きついてきた。アイーダの両手に力がこもる。

「よしよし、よく耐えられたな」

セリオンはアイーダの頭を撫でた。セリオンのほおが緩まる。セリオンは闇黒教祭司ノーフォルクの死体を眺めた。その影に注目する。

「おい、そこにいるんだろう? 気配を隠しても、分かっているぞ?」

「ウフフフフフ、まさかばれているとはネ! バアア!」

突然ノーフォルクの影から一人の道化が現れた。顔には仮面をかぶっている。

「道化、か……」

「はじめまして! 私は道化師リゴール Rigoor でス。闇黒教の幹部でス。あなたのお名前をお聞きしましょウ」

「俺の名はセリオンだ。おまえもこの子を連れ戻しにやって来たのか?」

「ウッフフフフ! はい、その通りでございまス! 巫女アイーダを連れ戻しにやってまいりましタ」

アイーダがいっそう力を込めてセリオンにしがみついてきた。

「アイーダ、少しのあいだ、俺から離れているんだ。安心しろ。俺がこいつを追い払うからな」

「うん……」

しぶしぶアイーダはセリオンから離れた。

「イッヒヒヒヒヒ! できるでしょうカ? 死にたくないのでしたら、おとなしくどくことですねエ?」

「俺はこの子を守ってみせる! 同胞を見捨てはしない!」

「ではあなたには死んでもらいましょウ!」

リゴールが両手を上げた。魔法を使用する。

「あなたを亜空間に招待してさしあげましょウ!」

セリオンの周囲の空間がグニャグニャと歪む。

「何だ?」

セリオンはとっさに両手で大剣を構えた。周囲の空間は絵の具のようにカラフルな色を見せた。やがて空間の歪曲が終わる。セリオンは夜の砂漠にいざなわれた。満月が煌々(こうこう)と輝いている。

「あなたとノーフォルクとの戦いは見ていましたヨ。かなりできるようですが……」

リゴールは右手を前に出しておじぎした。するとリゴールは三人に分身した。

「三対一ではどうでしょうねエ……? イーヒヒヒヒヒ!」

セリオンは険しい表情を浮かべた。リゴールAのとなりにリゴールBとリゴールCが立つ。

「さらに!」

リゴールたちはセリオンの周りを高速で運動した。しばらくするとリゴールたちの動きが止まった。

「さあて、誰が本物のリゴールでしょうカ? イーヒヒヒヒ!」

「どうです? たのしいでしょウ?」

「わたくしは楽しくて楽しくてしかたがなイ!」

リゴールたちはセリオンに襲いかかった。それぞれが鎌を武器として持つ。

リゴールCがセリオンを背後から鎌で攻撃した。セリオンはリゴールCを斬り払った。リゴールBがセリオンに襲いかかる。セリオンは大剣をリゴールBにぶつけた。さらにリゴールAが躍りかかった。リゴールAはセリオンに対して鎌を振り下ろす。

「くっ!?」

セリオンはリゴールAを払いのけると、リゴールAの鎌をはじき、リゴールAに斬りかかった。

「おっと!」

リゴールAは華麗なバックステップでセリオンの攻撃をかわした。

「イヒヒヒヒヒ!」

リゴールAは不敵な笑みを浮かべた。リゴールたちはセリオンの周りを跳びはねた。

リゴールたちはセリオンという獲物を狙うサメのようであった。リゴールたちは遊んでいた。セリオンは周囲を見渡した。リゴールBとリゴールCは同時に同じタイミングでセリオンに攻撃を行った。

二人のリゴールたちが迫る。セリオンは振り返って大剣で二人の同時攻撃を防いだ。キインと武器が響く音が聞こえた。

「雷よ、落ちなさい!」

リゴールAが雷の魔法を唱えた。セリオンはとっさに後方に跳んだ。セリオンがいた位置に雷が落ちた。

「ですが、まだまだ!」

リゴールAは手から魔弾を五つ出した。魔弾がルーレットのように回転する。

「くらいなさイ!」

魔弾がセリオンめがけて飛びだした。セリオンはくるりと振り向くと、大剣で五発の魔弾をはじきとばした。

「やはりやりますねエ…… これほどまでできるとはわたくしも思っておりませんでしたヨ。ですが、お楽しみはまだまだこれからですヨ! これでどうですカ!」

リゴールは妖しげな魔法を展開した。足元に魔法陣が浮かび上がる。セリオンの両手と両足に黒い円が現れた。

「!? これは!?」

セリオンは体全体に重りを乗せられるような感覚に陥った。

「くっ!? 重い!?」

「イーヒヒヒヒヒ! それはそうでしょウ! 呪法はわたくしにとって、得意中の得意でス! 今あなたの体は二倍の重力がかせられているのですヨ! この呪法は亜空間魔法! 亜空間を通して対象に働きかけまス! さあて、今度はわたくしたちの攻撃がかわせるでしょうカ! イーヒヒヒヒヒ!」

再びリゴールたちはジャンプしながら、セリオンの周りを回った。じわりじわりと間合いをつめてくる。

リゴールたちは三人とも笑っていた。セリオンは不利な状況に陥った。

この空間――うす暗い砂漠そのものが敵の味方となっている。それでもセリオンは冷静だった。

セリオンは目を閉じた。呼吸を整え、瞑想した。神剣サンダルフォンを両手で構える。静かに息を吸い、かつ、はいた。

「イーヒヒヒヒヒ! これはこれは楽しませてくれますねエ! この状況で目を閉じるとは、もはや勝ちをあきらめたのですカ?」

セリオンは目を開けた。

「勝利をあきらめたわけじゃない。気息を集中させたんだ」

セリオンは目の前にいた、リゴールCに攻撃した。大剣を重く振り下ろす。リゴールCは鎌で大剣を防御した。セリオンはリゴールCの鎌をはじきとばした。すかさず、セリオンはリゴールCを叩き斬った。

「ウッフフフフ! ハアズレ!」

「!?」

リゴールCは赤く変色すると、その場で爆発した。セリオンは爆発に呑み込まれた。セリオンは光の剣でガードしたため無事だった。

「イーヒヒヒヒ! 無駄ですヨ! 分身をいくら倒しても……」

リゴールAから再びリゴールCが現れた。

「いくらでも分身を作ることができますからねエ! 本物を見つけない限り、無駄ですヨ!」

「なるほどな。なら、本物を狙えばいいわけだ」

「しかあし! 誰が本物のリゴールか分かりますカ? 分かりませんよねエ? イーヒヒヒヒ!」

再びリゴールたちはセリオンの周囲を回り始めた。

「さあ、行きますヨ!」

リゴールAは魔弾を五発出した。リゴールAが魔弾を撃ち出そうとした時、セリオンはダッシュしてリゴールAに急接近した。大剣をリゴールAに叩きつける。リゴールAは鎌で大剣を受け止めた。

「なっ!? この重力下でまだこれほどの動きができるとは!?」

「おまえが本物だ」

セリオンは大剣に力を加えていく。

「ぐぬう!? どうして本物の位置が!?」

「おまえは無意識に、安全なところから攻撃しようとするくせがある! それを見抜いただけだ!」

セリオンはリゴールAに連続で大剣による攻撃を行った。

「くうううううう!?」

リゴールAはかろうじて鎌でセリオンの攻撃を受け流した。セリオンは攻撃の速度を上げた。

リゴールAの鎌をはじき飛ばす。無防備のリゴールAに、セリオンは大きく大剣で斬りつけた。

「ヒッ、ヒイイイイ!?」

リゴールAは後方に下がった。リゴールBとリゴールCは消えていた。リゴールにはもはや分身を操る余裕がなかった。

「ぐぬう…… よくもこのわたくしを……」

リゴールの体からかすかに血が流れる。セリオンを縛っていた黒い円が消えた。亜空間はグニャリと移ろい、もとの場所へ戻ってきた。公園の一角に出現した。緑の木々が生い茂っている。

リゴールは右手で自分の血を触った。

「よくもやってくれましたネ! いいでしょウ。巫女アイーダは一時的にあなたに預けましょウ! ですが! このわたくしがこのまま終わるとは思わないことですネ! おぼえていらっしゃイ! アディオス!」

リゴールは捨てゼリフを言うと、ボンと音を出して消え去った。リゴールは逃亡した。

「リゴールは逃げた、か」

「お兄ちゃん!」

「ああ、アイーダ、俺は大丈夫だぞ」

アイーダはセリオンに抱きついた。

「よしよし、怖い奴は追い払ったからな」

「うん!」

セリオンはよく小さい女の子から好かれる。それはセリオンが普遍的な愛を持っているからだ。セリオンには「与える愛」がある。セリオンは母ディオドラから深い愛を受けて育った。だから、セリオンは自分自身を愛することができる。そして、他者を愛することもできる。

ディオドラの愛は生まれてきたことを祝福し、無条件に愛するものだった。それがセリオンに深い影響を与えているのだ。セリオンの同胞愛が、アイーダに与えられる愛だ。愛される経験が、特に女の子には必要だからだ。

「なあ、アイーダ。俺と一緒に行こう。ここにこのままいるのも危ない」

「うん。アイーダはお兄ちゃんと一緒に行く!」



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