勇敢すぎる勇者さま方、まっしぐらもほどほどにしてくださいと聖魔道士が語る話
わたしは聖魔道士。
神に仕える聖職者として故郷にて過ごしておりました。
徐々に世界が闇に覆われていくなか、祈ることしかできないでいる自分に歯がゆさを感じておりました。
魔の手は我が町にも伸ばされ、町長がその魔の手に落ちてしまい、町は大混乱に陥ったのです。
聖なる魔法の使い手として力を尽くしましたが未熟な我が身では微々たる抵抗にすぎず、町の崩壊は時間の問題かのように見えました。
そんな時、現れたのは4人の旅人です。
休息を求めて訪れられたようなのですが、このような悪行見過ごせぬとわたしたちに力を貸してくださり、見事魔の手を退けることができたのでした。
わたしたちは彼らに深く感謝し、できうる限りのもてなしをさせていただきました。
お話を伺うと、どうやらこの方々が噂に聞く、世界を救う勇者さまご一行だとか。
なんでも勇者様はこことは違う世界からやってきたとかで、お城のほうから旅をされているそうです。
きっと祈りが神様に届いたんだとわたしは大変感激し、わたしでお力になれることがありましたら何でもおっしゃってくださいとお願いしました。
すると勇者さまはわたしの手をとられ、まっすぐな瞳でこうおっしゃったのです。
『きみさえ良ければ俺たちと一緒に戦ってくれないか』と。
勇者さま方は戦闘力は十分にあっても補助魔法の不足やアンデット系の敵に弱いのだそうです。
勇者さまは剣士で他のお三方は拳闘士、槍使い、魔法使いというパーティを組まれてます。
確かにそれをパーティの穴だというのなら、わたしで補えるかもしれないと感じました。
しかし日々祈ることしかできなかったわたしが助けになれるのかという不安もあります。勇者様の足を引っ張りたくはありません。
迷うわたしの心を勇者様の真摯な瞳が捉えてなりません。
そうですね。これも神様のお導きかもしれません。
「わたしでお役に立てるなら。この身、お役立てくださいませ」
神に祈るだけの日々に終わりを告げ、わたしは勇者さまご一行の一員となりました。
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私の故郷を助けに来てくださったときには気づかなかったことがあります。
勇者さまをはじめとする皆様はそれぞれが勇ましく敵へ突き進み、我が身を顧みず戦う様はとても輝かしく見えておりました。
彼らの仲間として共に戦闘に身を投じるようになり気づいたのです。それが彼らの短所でもあることを。
「魔獣の一群発見!みんな、いくぞ!」
「よっしゃー任せろ!オレ様の槍裁き見せてやるぜ!!」
「我の拳がうなるというものである。楽しませてもらおう……!」
「ボクの魔法の実験台となるがいいよ!ひゃっはー!!」
勇ましく敵へ突っ込むということはとても好戦的であるということ。
敵を見るやいなや嬉々として己の武器を携え、我が身を顧みない猪突猛進スタイルで倒れるまで派手に暴れ回るのです。
体力値が残りわずかでもそれがどうしたと手を緩めず、倒れるまで戦い続けるのです。
見ていてハラハラすること山のごとし。勇者様ご一行に加わり初めての戦闘のときにはあっけにとられたものです、いろんな意味で。
彼らは自分の体力値に気を配らないので、わたしがそれぞれを注視し、回復や補助魔法を延々とかけ続け彼らが倒れないようにするのがわたしの役割となりました。
わたしの活躍の場があったことに関しては安心するところもありますが、それよりも全員一斉突撃は心臓に悪いのでやめていただきたいと常々思います。
今日の戦闘はまた一段とテンションが振り切っておられましたのでわたしも思うところができました。
わたしの我慢ならないメーターが振り切ってしまったのでお説教、開始いたします。
「いいですか皆様。このような戦い方をしていれば命を落とすことになりかねません。何度申し上げればお分かりいただけるのですか」
「そうは言っても俺たちは魔獣は即殲滅させないといけないんだ。もたもたしていたら周りに被害が及ぶだろ?」
「勇者の言うとおりである。我らが早く魔獣を滅せればそれだけ世界が救われるであろう」
「兵は拙速を尊ぶと聞いたことがありますからそれは分かりますけど……」
「心配いらねぇって!オマエがいてくれるからオレ様たちも心置きなく突っ込めてるってだけだぜ」
「それにしたってみんな猪突猛進すぎるとは思うけどね」
「オマエもヒャッハーしてるくせによく言うぜ」
「ボクは皆さんより多少は周りを見て行動してますよ」
僭越ながら命の大事さを説いても、4対1で結局丸め込まれてしまうことが多いのです。
わたしがお説教モードに入ると律儀に正座して大人しく話を聞いてくれるというのになかなか行動を改めてくれません。
わたしはただ心配なだけなのです。命を省みない戦い方は、いつしか命とりになるというもの。
せめてもう少し自分を大事にしてほしいだけなのです。
剣士、拳闘士、槍使いの戦闘スタイルは接近戦なので仕方ない部分はあるかもしれませんが、魔法使いのあなたまで突っ込むのはいかがなものですか。
わたしが加わるまでは、さすがに全員倒れるわけにはいかないので渋々後方に控えて戦っていたそうですが、わたしが加わったことにより全滅の可能性が低くなってしがらみから解放されてしまったようです。
「いえ、今日という今日は反省していただきま―――」
飲み込まれてはいけない、と頭をふり正座させてる彼らに向き直ると彼らの顔つきが鋭くなりました。
一拍遅れてわたしも気づきました。囲まれているということに。
彼らは即座に体勢を整え、それぞれの武器を手に私を取り囲むような陣形を組みます。
わたしも魔法を使うための杖をぎゅっと前握り込み、戦闘に備えます。
「みんな!いくぞ!!」
敵の姿をはっきりと確認でき、一瞬の睨み合い。
勇者様の掛け声で戦闘開始となりました。
わたしは聖魔道士。
故郷で聖職者として過ごしておりました。
今は勇者さまご一行の一員となりました。
今日も皆様を死なせないようにがんばります。
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聖魔道士ちゃんのおまけ的な話も少し考えてますので、筆が乗れば書くかもです。
彼女もねぇ、いずれ一行の雰囲気に飲まれてしまうと思います。