3つの星⑦
翌週、拓人は職を失った。
いつもの時間に事務所へ出社すると、その日は先輩の木 下が既にいた。
木下は機材のチェックをしていたがそれは普段拓人の仕事だった。声を掛けても返事がなく少々やりづらさを感じながら撮影の準備をしていた。
1時間ほどして長の北見が出社してくると拓人は一番に呼ばれた。
北見は唐突に、お前はもう社員じゃないと一言告げた。
拓人が説明を求めると北見の口からとんでもない理由が述べられた。
あるモデルから拓人によるプライバシー侵害の被害を相談されたという。そのモデルから複数の証拠を見せられた と説明する北見の目や口元には歪んだうすら笑いが浮かんでいた。
拓人からすればそれはとんでもない虚構だ。しかし、真実というものにまるで興味のなさそうな相手に対してどうこう抗う意味はあるのかとも思う。それに、こういう仕打ちをする人間に会うのは初めてではない。
そのモデルが誰なのかというのは考えるまでもないが、拓人は反論や訂正をしなかった。北見の話を只聞いて、その後自分のデスクに直行すると置いてあった私物を次々集めて事務所を後にした。
あっけなく自由を手に入れた拓人だが心配なのは生活の事だ。
コンビニに立ち寄ってパンと飲み物を買い公園のベンチに座った。パンを食べながらもう片方の手で携帯を操作する。“即入社可能”の文字をネットで探した。
適当に5社ほど目星をつけて応募ボタンを押すと携帯を鞄にしまい込んで呆然とした。目の前では鳩が何もなさそうな地面をつついている。
5件応募したなかで最も早く話が進んだのは百貨店清掃の仕事だった。思ったよりも早く仕事が決まり拓人は安堵した。
思えば瑠香に振り回される日々から脱せられたのだから突然職を失ったことは災難ではなかった。
あれから瑠香は一切連絡をしてこなくなった。気掛かりなのはもらった服などをどう処分するかだった。それらを返そうと電話とメッセージで1度連絡してみたが返事はない。合鍵については渡したままになっているが状況からして部屋に来る可能性が低いため何も言わないことにした。
清掃員として就業するまでの間は宅配の仕事で日銭を稼いだ。
スケジュールで頭がいっぱいになっていた以前と比べると随分楽で開放的だった。蓄積していた疲労を癒そうと、家にいる時は寝てばかりいた。そして少しずつ体力が回復してくると自分が本当に撮りたい写真がどういうものなのか考えるようになった。
晴喜と出会ったいつかの夏が脳裏に蘇るーーーーーー




