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3つの星②

目を覚ますと見慣れたカーテンが見えた。打ち付けられるような頭の痛みに耐えながら仰向けになると、熱がこもり蒸しきった部屋の空気がいよいよ危険な温度になりつつあるのがわかった。おそらく昼だ。

あちこち痛む体を無理に起こし窓を開け、それからクーラーのスイッチを入れた。

携帯電話を探していると台所の方からマナーモードの音が聞こえてきた。早く出ろと言わんばかりに鳴りつづける携帯電話は冷蔵庫の上にあった。手に取ったが着信画面は待ち受けに切り替わった。一瞬見えた瑠香の名前に嫌な予感がした。昨日のことがほとんど思い出せない。1人で酒を飲んでいたあたりから記憶がばっさりと無くなっている。着信履歴を見ると瑠香の名前がびっしりと並んでいた。

『ーーもしもし?』

「…あの、昨日」

『ほんっとありえない!』

「すいません。ほとんど覚えてなくて」

『だろうね。背中まだ痛いんだけど』

「どうしてですか?」

『はあ?拓人が酔って倒れてきたからでしょ!』

「そうなんですか…すいません。そのあとどうなったんですか?」

『クラブの横にある知り合いのバーに運んでもらって、それからずーっと寝てた』

「俺、どうやって帰って来たんですか」

『急に起きて自分で帰ってったわよ!追いかけたのに無視するし』

「……」

『待ってって言っても1人で勝手に歩いてって、ほんとむかついたんだから!』

「すいません」

『本当に悪いと思ってるなら今日の7時に来て』

「何の待ち合わせですか」

『デート』

「えっと…」

『彼氏なんだから呼んだら来るの当たり前でしょ?』

「俺の、ことですか?」

『そう』

拓人は考えた。わずかに昨日のやりとりが浮かんでくる。

「瑠香さん、俺は彼氏じゃないです」

『あたしがいいって言ってるのに、断る理由ある?』

「理由っていうか…」

『ないじゃん。とにかく7時に代絹山ね」

「あっ、でも」

瑠香は電話を切ってしまった。拓人は暫く画面を見つめていたが端末から手を離した。

瑠香は何を言っても聞かない。何かしら断ることには気苦労が伴う。

アシスタントの仕事は体力の消耗が激しく、また、機材の扱いや時間の管理に神経を尖らせることも多い。少しずつ増えていた個人の写真の仕事はプライベートの時間がほとんど取れず依頼を断ってばかりいる。自分の求めるものが遠く離れていく虚しさで心にじわじわと穴が広がっていくのを隠すように目を瞑った。健司にも会いに行かなくてはいけない。もう随分日が開いてしまっている。今頃どう過ごしているだろうか………



“今夜は久しぶりにコロッケでも作ろうか”

“拓人、コロッケのトレー持って来てくれるか?”

“うう゛っ――――――”

床に落ちる鍋の鈍い音が一瞬にして悪夢を思い出させた。

目を開けると携帯電話が床に落ちていた。あれからまた寝てしまったようだ。激しく鼓動している心臓が夢との境目をまだ繋いでいる。

時間を見ようと携帯電話に手を伸ばした瞬間、インターホンが鳴った。





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