部活に入るモブ
出会いの春......と言うのもいささか憚れるであろう時期、学校に慣れ始めたであろう少年少女達がクラスで仲良く談笑しているのを寝たふりで聞いている根暗少年。 最初の一週間は一人で飯を食っていても浮かなかったのだが......
友達だと思っていた伊達正樹は姫川さんと食堂で楽しげにお食事中。あいつのあの行動力だけは見習いたい。
やっぱり行動が大事なんだろう もし俺も姫川さんに声をかけていたならば_______
最初は一緒に食べないかと誘われたがその時隣にいた姫川さんの顔は忘れられない。一瞬の顔のゆがみ 俺でなきゃ見逃しているね。
俺の変装は聖女でも身を引くレベルなのか...... でも声をかけたら挨拶くらいはしてくれるだろうか...?
(ダメだダメだ、自己紹介でも引かれてたのに声をかける? 姫川さんのファンクラブに吊るされるだろう)
考えただけでもゾッとする。 愛というのは恐ろしいものだ 人を獣に変えるほどに......
自分にもかつては親衛隊なるものがいた。自分に告白してきたものを執拗に攻撃する過激派組織
その存在のおかげか 中学生活の後半は女難に苛まれる事もなかった。
群青色に彩られた空を見ながら感慨にふける自分の肩をたたく一人の存在......
「あ あの......い 一緒にご飯食べない?」
そう声をかけてきたのはぽっちゃり気味でニキビもひどい一人の男子学生
彼もこのクラスの日陰者の一人 確か名は......
「えぇっと 確かキミは......」
何度思考を巡らそうとも解には至らない。焦る せっかくあっちから勇気を出して声をかけてもらったのに、俺と一緒で日陰者 通ずるものがあると信じている。きっと友達になれるだろう。この曇天のような高校生活も誰か一人でも友達がいれば晴れるってもんだ。
「あっ 僕の名前は佐藤王子 よ よろしくね...」
俺が中々名前を呼ばないのにしびれを切らしたのか悲しそうなトーンで自己紹介をしてきた。
そ それにしても「王子」か......恐らくその名前のせいで苦労してきたのであろう。名前をいうときもギリギリ聞き取れるかとれないかの声量だ。
「お おう「「佐藤って呼んで!!」」 あっ はい」
名前を呼ばれると勘違いしたのだろうか いきなり怒声をあげる佐藤君
彼の張り上げた声のおかげで集める視線。薄気味悪い根暗とずんぐりむっくり佐藤君のツーセット
これが美男子二人なら絵にもなるのだが____
「うわぁ やばそ」
「絶対近寄らないほうがいいよ」
「見たら勘違いするからよしなって!」
ひそひそと嫌そうに弁当を食べながら言う女子生徒達
「んで佐藤君 申し訳ないけどご飯食べちゃったんだ」
嘘だ これからお気に入りのベストプレイス屋上で悠々自適に弁当を食べるのだ
友達は欲しいけど急にヒステリックになる奴はちょっと嫌だ。現状かなり注目を浴びてるわけだし......
「んじゃ!ちょ」
ちょっとと言って席を立ち教室を出ようとする俺の腕をがっしりと掴む佐藤君 彼がここまで執着するわけとは_____
「話だけでも!お願い! い”が な”い”で”え”ぇ”ぇ”」
おいそれどっから声出してるんだって思うくらいのデスヴォイスで引き止める。この尋常ならざる様子。教室を出ようとした踵を返し佐藤と向き合う
「わ わかった。話聞くから騒がないでくれ」
頼むからそんなメシアを前にしたかのような顔をやめてくれ
楽しく和気藹々と弁当を食べながら話しているクラスメイトの目が痛い
「あんがとぉ... んじゃあついてきて...」
そうやって固く腕を掴み 俺を引きずりながら歩く佐藤君、中々に力が強い
もう話さないぞっていう強い意志すら感じる。彼の腕力の秘密について考察を重ねていると
いかにも使われてなさそうな教室に行きつく、その中でたむろしている3つの影
強く握っていた腕を開放しこちらに向く佐藤君 ニパッと笑みを浮かべ......
「________ようこそ! アニメ部へ! 」
そういって歓迎の意を表すがごとく両手を広げる彼。アニメ部の部室には多種多様な二次元キャラのポスターが張られており、そことなく異臭もするカオスな空間
一人 メガネをかけた出っ歯君が近寄ってくる。第一印象はがり勉君だ おそらくアニメ部の
「首領」だろう 貫録を振りまきながら来る
「君が瀬徒生真君か 佐藤殿から話は聞いてるよ 僕も君を歓迎しよう」
そうやって笑みを浮かべる部長らしき人物。
「2年4組 湶井千次だ。よろしく」
もう彼の頭の中では俺はもう大事な部員の一人なのだろう 慈愛のこもった笑みをぶつけてくる
だけど困ったな 俺はアニメをあんまりみない。
大方見て呉れで判断したのであろう。 やっぱり人は見かけが大事
もし俺が変装していなかったら間違いなくかかわることのない人種だ。故に知りたかった
本来俺が見なかったであろう景色はどんなものか......
彼らが現実から目をそらし、逃げ込んだ二次元の先に何が見えるのかを......
人生は選択の連続だ 小さな選択の積み重ねで今の僕がいる。今ここに俺がいることに意味があるように思えてしょうがない。
ふぅと息を吐き 前を見据える。
「よろしくお願いします 先輩」
そういって差し出された手を握り握手を交わす。
動機はおそらく好奇心 真にアニメが好きではないのだから。だが学園の影を一身に背負うこの「アニメ部」という集団 陰では青春を捨てた者たちと揶揄されるらしいがそんなこと知らない。
青春の在り方をお前らなんかにわかってたまるか、 目の前で好きなアニメについて語っている二人の見知らぬ部員たち 誰もが生き生きとしている。 俺もそうありたい。
疎まれていても 蔑まれていても 自分が好きなものには誇りをもって嬉々と語っている彼らにひどく惹かれていた。
_______________________そうだこれが「青春」だ。
新たな高校生活を彩る花に想いを馳せてるとお昼休みの終幕を告げるチャイムが鳴り響く
「__________あっ 昼飯たべてねぇーや」
学校で生真君がイケメンを開放するのはまだ先です。
次話からテンポよく務めさせていただきます。