社交界(前)
緊張していますか?」
「まぁ……それなりには。社交界なんて初めてですもん……」
今、瀬徒がいる場所は先日も訪れた大豪邸。今回の用事はただ遊びに来たのではない。ソフィーとの約束を果たすために来たのだ。
「それにしても様になっていますね」
「そうですか?あんまし来慣れないもんで似合ってるかどうか心配だったんです」
そう答える瀬徒の出で立ちは白を基調としたタキシード姿。派手な装飾の類などは無い。着飾る必要がないからだ。稀に見る美少年である瀬徒の魅力を引き立てるには、ただ単純な衣装の方がいいと思ったのは屋敷の使用人達一同の総意であった
今日は社交界前の打ち合わせ。ただ交流を深めるのが目的であっても、社交界に来るのは権謀術数を繰り広げ、富を納めた怪物たちが集う場所。超大企業の社長令嬢であるソフィーならその手の搦め手には強いだろうが、しがない庶民である瀬徒はいつ自分が弱みを握られ、パートナーに迷惑をかけるか心配でしょうがなかった。だからこそ、前日に打ち合わせに来たのである。
「ソフィーが今何してるか知ってます?」
此処にはいない主役のことを尋ねる。屋敷に入ったときに顔を合わせ、挨拶をしたっきり。彼女とも打ち合わせをしておきたい。
「お嬢様も衣装合わせをしています。もうすぐ終わるかと」
「そうですか。楽しみですね」
「えぇ。お嬢様も楽しみにしていますよ」
何を?とは聞かない。凡その検討はついてるからだ。自惚れではないが、ソフィーが自分に好意を持ってることは知ってるし、知らないフリして逃げるとかそんな失礼なことはするつもりはない。
ただ答えを出すのにあぐねているだけ、彼女と向き合うには抱えてる問題があるし、逸物抱えて相手に不誠実な対応だけはしたくはないと。
服を仕立てた部屋で、使用人が淹れてくれた紅茶を飲みながら待つこと半刻。来客を告げるように扉からノックの音が聞こえる。彼女の準備もできたのだろう。ただ1時間待つのには長い時間ではあったが、使用人達との会話のおかげもあってかそれほど疲労感もなかった。
「どうぞー」
失礼します。と言いながらドアを開けたお付きのメイドさんの後に続く着飾った少女に目を奪われた。
自身の純白のスーツとは真反対な漆黒のドレスが彼女の美貌を際立たせている。彼女の腰までかかる白よりの強い金髪が光って眩しいと思える程に、見事な美を醸し出していた。
ソフィー自身の容姿が群を抜いて良いのもあって、こちらもサファイアのネックレスだけの簡単な仕上がりだ。でも様になっているのだ。
「まぁまぁ生真さんとても似合ってますわ!」
いかにも高級そうなドレスなんか意に介さずにこちらに駆け寄り、ジロジロ舐め回すように見て、ペタペタと触る彼女。周囲のメイドさん達も半ば呆れながらも同様な視線を飛ばして来る。
「ソフィーもとても良く似合ってるよ」
近寄られてわかったことなのだが、清楚に仕立てられたドレスから物凄い色気が襲って来る。それは清楚故なのか、彼女の素材故なのかはわからないが男を落とすために足る魅力を兼ね備えてるのは間違いないだろう。
(これじゃあ並の男は放っておかないよな……)
まず間違いなく社交界の花は彼女だろう。であるならその花を摘もうとする不届きものを摘むのが瀬徒に与えられた唯一にして重大な仕事なのかもしれない。
ソフィーもソフィーで、生真に悪い虫がつかないようしっかりガードすることを決意していた。
「実はお父様が呼んでいたんですけど…..その前に写真撮りましょう!」
「え!?」
「ささ、さぁアリアちゃんと撮ってくださいな」
腕を組み、だらしのない顔をするソフィーを他所にアリアと呼ばれる彼女専属の赤毛のメイドがシャッターを切る。
恐らく僕はこの写真を生涯大事にするだろう。
次の話は恐らく週末です。PVが増えるとモチベ上がりますね。閲覧ありがとうございました。




