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社交界に向けて 

大きなホールの中央で二人の男女が抱き合っている。彼らを照らす淡い光がなんとも厭らしい雰囲気を醸し出している。そして二人の影が重なる、さながら月と太陽が重なるように__ 


「では、リードお願いします......」

「はい、初めてなので優しくしま、しますわ......」


静寂が包む空間、男が喉を鳴らす。自身の胸にしな垂れ上目遣いをする彼女に一瞬のトキメキを覚えるが、今この状況では相応しくないだろう。効きすぎた冷房がツンと肌を撫ぜる。互いが温もりを求めあうように一層体を絡める。心の音が聞こえそうなくらいに密着。女性の方は温もりとは全く別種の熱さを感じている。


「て、照れますわね......」

「......大丈夫ですか?具合でも悪いんじゃ」

「だ、大丈夫ですわ!なんせ今日はせっかくの__初めての日ですもの」

「それじゃあいきますよ?」


据え膳食わぬは男の恥、生まれはフランス!育ちの日本!愛と大和のハイブリットな俺、培って来た大和魂を胸にいざ!


決意と共に壮大なBGMが流れる。その身を音楽に委ねるように、そして流れるように彼女と踊った_____






「久々にいい運動したなぁ」


休憩室の中で、時代錯誤を思い浮かべそうなほどのメイド然りとしたメイドさんから受け取った飲み物を飲みながらのブレイクタイム。小市民な俺には場違いなほどの豪華な屋敷に招待され、貴族みたいなソフィーの両親から熱烈な歓待を受けた。母はともかく父の方からは目の敵にされるだろうと思っていたので拍子抜けしたのが記憶に新しい。


そしてさっきから此方を射殺すように睨め付ける一人の赤毛のメイドさんが気になる。早速嫌われたとか?庶民風情がお嬢様に手を出すなと?いやいや......考えていたってしょうがない。


「あの......何か?」

「いえ別に」

「......」


どうやら俺は嫌われているらしい。そして気まずくなる空気。


「そろそろ休憩終わりにしますね」

「まだお早いですよ?」

「早く踊りたいんですよーはっは」


愛想笑いを浮かべながら半ば逃げるように退出した俺、歩きながら嫌われている訳を考えては見るが節がない。やっぱり自分が庶民だから?一度思考に陥ると沼のように嵌っていくのが俺の悪い癖なようで__


「......まくん。......生真君!」

「はっ、はい!」


いつの間にか目の前には俺と同じくらいの背丈を男の人。栗色の綺麗な髪が目立つこの豪邸の当主でありソフィーの父、ウラノースさん。服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体。嫌われなくてよかったと心底思う。


「どうだね社交ダンスは?」

「楽しいですよ」

「そうか、すまないね。私の娘の我儘に付き合わせてしまって」

「いえ、此方も助けていただいてるので......」

「あの件はマスコミを抑えるのに苦労したからね、それでここだけの話なんだけど......」

「__何か?」


さっきの温和な表情からは一変シリアスな顔へ。此方の目を__心を見据えるように。逸らそうとも有無を言わせない圧力が襲いかかる。その美麗な口から漏れる言葉に意識を集中。


「あのコスプレって後でも出来る?」


シリアスな顔して何言ってんだこのおっさん。さっきまでの緊張感も一気に消失。そしてウラノースさんに対する尊敬も......


今日この日ほど俺は肝と股間を冷やした瞬間はない。そしてまた逃げるようにホールへと駆け込むのだった。





「なんだか申し訳ないですわ。お父様が粗相をしたみたいで......恥ずかしいですわ」

「はは......」


ここはウラノース......ウラさんを立てるためにフォローでもと思ったのだが、出たのはただの愛想笑い。

ごめんなさい!ウラさん!御宅の娘さんの機嫌直せそうにないです!


「続きをしようと思っていたのですがもういい時間ですわね」

「そうですね......綺麗な夕日ですね」

「今日はウチでディナー食べていきませんか?」

「いや、それは流石に......」

「私の妹と弟が会うのを楽しみにしてますの、それにお母様もお父様も大賛成ですわよ?」

「お言葉に甘えて頂きます」

「ほんと!?やった!」


うおっと先までの不機嫌そうな顔も向日葵に早変わり。しかしディナーか......そういう作法もあるらしいし、厳しいところは本当に厳しいらしい。


白金色の髪を綺麗に靡かせクルクルと上機嫌に回るソフィー、ふと扉に目を移すとヒョッコリと顔を出しているウラさんの姿が......何やってるんですか......


機嫌を直したソフィーを見てほっと胸をなで下ろしている。そして目が合うとウィンクと共にサムズアップしてきた。


「ん?どうかなさいましたの?」

「い、いえ......」

「それじゃあ食堂に向かいましょう!」


そう言って俺の手を引く彼女。傍から見れば仲のいいカップルに見えるだろうが、実際は社交界に向けて仮初めのカップルを演じる演者でしかない。そんなことに寂しさを覚えながらもホールを後にするのだった。






過去編は5話区切りってことでお願いします。

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