過去_before mask_1
何時ぞやのバイトっ娘です。
「うう......今日から学校が始まるのかぁ......」
私、桐生琴音は中学三年生だ。お父さんが営んでいる喫茶店のお手伝いをしながら受験勉強をしている。お母さんは私を産んで直ぐに亡くなったらしい。元々病弱ってこともあってかなり困難な出産だったとお父さんは教えてくれた。そんな一人娘の私はかなり溺愛されている。もし私に彼氏なんかできたら...... その先をいうのは辞めておこう。麗らかな朝にそんなバイオレンスなことを考えたくはない。
「琴音おはよう」
「おはよ、理恵」
「相変わらず可愛いねぇ〜」
「抱きつかないでよっ!」
夏の蒸し暑さ引きずる季節に、熱烈な抱擁をして来たのは同じクラスで親友でもある新笠理恵だ。とても理知的で同性からは人気がある。影ではそっち系と言われてるらしいが彼氏持ち。なんでも幼馴染と付き合っているのだと。
恋人は勿論欲しいけど、のべつ幕無しに男を引っ掛けるほど貞操観念は低くない。ちゃんと好きになった人と付き合いたい。でもまぁお父さんが許してくれるかはわからないけど.....
「__やぁ、琴音ちゃんと理恵ちゃん」
「「げっ」」
話しかけて来たのはこのクラスでも人気な......特に女子に人気なクラスメイト、春山優斗君。容姿が良くて成績も優秀なのだが股間がゆるゆるで有名。最近までソフィーアさんにしつこく絡んでいたが、徹底的に打ちのめされて以来私たちに絡み始めた。 正直私は面食いではなので全く琴線には触れない。内面第一主義の私からしたら最悪と言っても過言ではない人だ。
「ひどいなぁ......実はツンデレだったり?夏休み中僕に会えなくてイライラとか?」
「あんたに話しかけられてイライラしてんのよ。ほっといてちょうだい」
ふんっとつまらなそうに鼻を鳴らして踵を返した春山くん。理恵の物言いに彼を慕う女子が顔をしかめる。そんなことを一切気にせずに私の隣を指差す。
「ねぇ、琴音の隣の席......今までなかったよね?」
「う、うん。転校生かなぁ」
「この時期に......何か事情でもあるのかね?」
私たちのクラスは奇数の29名で構成されているクラス。だから一人だけ隣がいない席になる。そしてその席は私、夏休み前にはなかった席がそこにはあった。 私の隣に来る人がどんな人か想いを馳せる。 男と女何方でもいいけど優しい人がいいなぁ__
ザワザワと私語飛び交う授業中の教室。でもそれを咎める咎める人はいない。何故なら噂の転校生を迎えに行ってるから。夏休み明けの授業1時間目が潰れた嬉しさと転校生という興味深いイベントがブーストとなって騒々しさに拍車をかけている。
『転校生どんな人かなー?』
『美人さんだったらいいなぁー』
『たとえ美人でもお前じゃ無理だろ〜』
まだ見ぬ転校生に想いを馳せる少年少女達。先生が迎えに行ってから15分が経過する。まだかなーと思った時に引き戸が開かれ集まる視線。年季の入った木製の引き戸が軋みをあげる。
「あれ?せんせー転校生はー?」
「おう来ているぞ」
「「「おー!!」」
「女の子ですか?」
「春山お前相変わらずだな......」
学年でも人気のある熱血漢の先生は春山君の発言に少々引いている。それを冷めた目で見る反春山グループ。彼の頭の中には女性の事しかないのだろうか?
「残念だったな男だよ」
「えーーーー」
転校生は男らしい。そして男子達の熱が急低下、それと比例するように女子達の興味は更に上がる。
『男だって!イケメンかなぁ?』
『うーん、でもウチのクラス春山君いるしねぇ』
『あのレベルはないだろうね』
コソコソと話す女子達に顔を顰める担任。理恵なんかは鼻っから興味なさ気にうつらうつらと船を漕いでいる。
「お前らなぁ......ちゃんと仲良くしといてやれよ?それと席は桐生の近くだから。」
「「「はーい」」」
「はぁ......」
間の抜けた返事に先生は呆れを含んだため息を吐く。
「まぁいいか、廊下にいるからな、ちゃんと静かに。そして今は授業中だということを忘れるなよ?決して騒ぐなよ?」
スターが来るかのような物言い。そして私達が騒ぐことを前提としている気もある。そこまでの人なのだろうか?こんな田舎ちっくな所に?まさかね......
「それじゃぁ入って来てくれ__」
「失礼します」
その時、教室は音を亡くした。さっきまでの先生の憂いを嘲笑うかのようにカタカタと風によって揺れる窓の音のみが、教室に生きるのであった__
「ふぎゃ」
唐突に静かになった教室に驚き、揺れる頭を机にぶつけ喚く理恵の声も添えて......
僕、瀬徒生真は今困惑しています。長年の親の出張によりフランスにいたのだが、僕が強く希望したのもあってやっとこさ日本へ帰国。そして所縁ある中学校へ転入し、半年だけだがお世話になる教室へ先生に促されるまま入ると、廊下まで聞こえて来た声が鳴りを潜める。
(しょっぱなから嫌われた?まさか髪のせい?)
あっちでは浮かなかったこの髪色も、ここは黒を基本とした日本。だからこそ僕の髪色はとても目立つ。現に一週間前に帰国した時には多くの人に凝視され続けられていたのだ。学校は俺の髪については理解を示してくれてるらしく特には言われてない。まぁ天然だしね。
今も熱を帯びた視線を受ける中で、一つの解にたどり着く。眼前の少年少女達は恐らく僕の髪色が気に入らないだろう。こんな目立つ髪色の奴は面白くないのかな?
「僕ハーフなんで、そ、染めてないですよ?」
なんとか弾き出した言葉。これで誤解が解ければ上々。でも何故だろうか?隣の先生には溜息を疲れる始末だ。なんだか凄い居た堪れない。
自分、フランス帰ってもいいですか?
こんときの瀬徒は鈍感系なんすよね......




