コスプレをするモブ
記念すべき1回目の野外部活動の舞台はオタク達のユートピアこと秋葉。 こと是に於ては奇異的な目では見られない。だって同胞達がわんさかいるのだから。 待ち合わせはコスプレの会場近くのビル。部長の親が用意してくれたらしい。エアコンがよく効く部屋の中には楽しく談笑する現地集合の先輩達の姿もある。思い思い好きなキャラが描かれている服を着飾り何処か楽しそうだ。 俺と佐藤君はというと__
「......ギモヂわるい」
「久々に車酔いしたよ......」
あの後部長に促されるまま使用人が運転する黒塗りの外車へ。高速道路を高速移動でここまで来た。正直電車で行くよりずっと早かったわけだが......
(荒すぎだろ......あの運転手)
運転前に紹介されたクール系の美人さんが運転し始めるとあら不思議。洗礼された所作に裏付けられないほどの荒々しい口調に変貌。 いくらクラクションを鳴らされたか覚えてないほどだ。 白を基調とした落ち着く会議室と涼しい気温も相まって徐々に調子を取り戻して入っているがまだまだ時間がかかりそう。
「いや〜大丈夫かい?」
「部長よく大丈夫ですね......」
「慣れてるからね」
暴走する車内で運転手を除き唯一涼しい顔していた部長。その胆力は凄まじいものである。
「さぁさぁ諸君、今日秋葉に来てもらった理由は遊びに来た......訳ではない!」
美人運転手さんが片手にある小太鼓を勢いよく叩く。
ドドント野太い音も相まってか迫力が生じる。事情を知る俺たち一年はさておき先輩方はポカーンとしている。 無理もない、せっかくの聖地なのだから遊びじゃないなら何をするのだろうと言った面持ちだ。
「ふふん気になるだろう! まぁこの二人は知ってるんだがね!今日はなんとコスプレイベントがあるのさ!」
「「「コスプレイベント!?」」」
ほらほら俺たち以上に異常に期待していた先輩方が声を張り上げる。そうだよな、コスプレイベントだなんて嫌に決まって__
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
ありませんでした。寧ろかなりの大喜び。さっきまで下降していたテンションも超々へ。一体何が彼らの琴線に触れたのだろうか?ひんやりと冷えている室内も心なしか暑く感じる。
「コスプレ!俺の夢だったんだよね!」
「俺も俺も!」
「ウヒョーどんな格好しよっかなぁ!!」
思い思いにコスプレへの熱意を語り合う先輩達の顔は輝いて見えた。まさに生き生きとしている。学園の日陰者としての影もない。
「いろんなコスプレを用意したから気に入ったらそれを着てくれ!あと瀬徒君はちょっと来てくれ」
使用人達が持って着たのはどれもハイカラな衣装。超人気アニメの制服や戦闘服など多種多様にも。
「ふふん!これパパに頼んで見繕ってくれたんだよね!」
「「「おお〜」」」
困った時のパパが便利すぎる。 我が物顔で披露する部長。何処か誇らしげ。
「んじゃあ適当に見繕っといてね!じゃあ瀬徒君ついてきて!」
隣にいた佐藤君も衣装ケースへ一っ飛び。さっきまでのバス酔いが嘘のようだ。そして取り残された俺は......
「あの......俺は?」
「さっき言ったでしょ。一流のスタイリストさんにあって貰うの!」
「え?俺だけですか?」
「そうだけど?あっ、他の人にもスタイリストさんは付くよ?」
「そうですか......」
どうやら俺だけ特別扱いなんて事はないらしい。こんなこと知られたら生意気な後輩として立つ瀬がなくなるからちょっと安心。
「__さぁここだよ」
手を引かれ連れてかれたのは二階上の部屋の前。どうやら扉を開けると超一流のスタイリストさんがいる......らしい。 正直みんなの前で姿を晒さなくて済んだのは僥倖という他ない。
「じゃあ後よろしくね!」
「え”!?」
「いや〜他のみんなの事もあるし僕も自分のコスプレがあるし......」
「そ、そうですか!どうぞ!お気になさらずいってあげて下さい!」
最悪、秘密の事を部長には知らせようかと迷っていたところ。ああ見えても部長は大人だ。高校三年生らしからぬ何処か到っている......達観してるような風貌も見て取れる。でも、出来る事ならバラしたくはない。ずっと彼らは等身大で接してきてくれた。だからこそ罪悪感もある。
「そ、そう。 んじゃ彼.....いや彼女か。待ってるから早く行きな」
「はい」
先ずはノックを三回、そこから入室を許可する野太い声が聞こえてきた。彼女......にしては声がやけに男らしいのが気になるところだが__
「あら〜なかなか影がありそうな子ね?私は田中義一。 義ちゃんって呼んで?」
扉を開けるとそこには髪の長い大男。甘ったるい香水の匂いと共に歓迎してくる。 名前的にも、身体的にもどこをどう見ても男が俺を歓迎。
「よろしくお願いします」
「宜しくね〜 ん?んんんんんん!?」
「へ?」
「貴方の変装なかなかだけど......何処か歪ね」
「え!?」
目の前の大男......義ちゃんは俺を一瞥するや否や瞬時に変装を看破。まるで品物を鑑定するかのようにジロジロと上から下まで睨めつけてくる。
「ふむふむよし決まったわ!貴方のコスプレは__」
黄金の胸までかかるウィッグを付け、一流の手による超絶技巧の化粧によって絶世の美男子が次元を超えるほどの変貌。 漆黒のワンピースもその純白の肌によく映える。 コントラストが超一級の芸術にも思えるほどに。 これには目の前の大男もものすごく満足げだ。
「今まで携わってきた仕事の中で間違いなく私の人生史に残る仕事をしたわ......!!!」
「なんで......なんでよりにもよってヒロインの格好をせないかんのだ......」
にこやかな義ちゃんとは対照的にかなりゲッソリとしているがそれも見方によれば儚げな美少女の色っぽさにも見えてしまう。
「貴方の素材最高よ!!これまでのイケメンや美少年なんか目じゃないほどに!思わず惚れちゃいそうになったわ〜写真とっても良い??」
聞いておきながら有無を言わさずにシャッターを切る音が連続で聞こえる。360度余す事なく撮りまくっている彼女.....もとい彼はエラくにやけている。
「ファンタージの人です。なんて言われても信じてしまいそうな美しさがあるのよね〜隠すのも納得がいくわ」
「じゃあなんでこんなことしたんですか......」
「いつまでも不貞腐れちゃダメよ?もうすぐ大会だからもっと笑顔じゃなきゃ」
この後部員たちと落ち合うことになっている。化粧の力だって言っても限界があるのは素人の俺からしても明らかな訳で......
「結局、バレる訳ですよね?これからのことを考えるとちょっと......」
「え?彼らには合わないわよ? 彼らはグループ部門でもう出てる頃だし......」
「え?俺は?」
「もう!今は”私”でしょ!女の子が俺だなんてはしたないわよ」
もう嫌だこの人。コスプレをして以来女の子扱いしてくる。ここで一人称まで私になんてしてしまったら本当に女の子になりそうで怖い。
「そ、それで__」
「あぁ貴方には個人の部門に出てもらう事にしたの。グループとは違って競争率がかなり高いのよ」
もはや義ちゃんの中では俺が出ることは確定らしい。ていうかここまで気合い入れて化粧をされたら断るに断れない。胸に入れられた柔らかな物が若干邪魔ではあるが今の俺の容姿から瀬徒生真だとは結びつけまい。
「ま、貴方なら優勝は確実ね!」
そうハードルをあげないでもらいたい。コスプレイヤーの中でも特に今大会は最も重要視されてるらしいしどんな人達が出るかわからないのだ。
いつもとはかなり趣向が違う変装。いつもは落ち着く筈なのだが今回ばっかりはソワソワと。
「__ううっ、なんかスースーするよぉ......」
今度は自身の性別すらも変装をする。もうじきオタク達の狂宴が始まろうとしていた__
徐々に一話目から推敲しています。本質は変えてません。 金土日の週三回投稿します。




